患者さん自身でできるセルフケアもある
口の中をキレイにして味覚障害を改善しよう!
味覚障害は改善できる」と話す
青木久美子さん
がん治療によって引き起こされる味覚障害。「何を食べても砂を噛むよう」「今までしていた味とは全く違う」――。
こんな悩みを抱えている患者さんは多いのではないだろうか。
ここでは、味覚障害に対するケアを紹介する。自分でできる対策もあるので、ぜひ試してもらいたい。
味覚障害が起こる抗がん剤の種類や時期はさまざま
味覚障害が起こりやすい抗がん剤は何か、いつ起こり、治まるのかは特定できない。症状も「まったく味を感じない」という深刻なものから、ある味だけを強く感じたり、逆にある味だけが感じられない、また、もともとの味とは違った味がするといったものなどさまざまである……。
奈良県立医科大学口腔外科学講座助教で歯科医師である青木久美子さんは、抗がん剤治療による口の中のトラブルで口腔外科を受診した患者さんの訴えを聞き取り、味覚障害に該当すると思われる症状を検討したところ、次のような味覚障害の姿が見えてきたと話す。
「抗がん剤治療による味覚障害の原因にはさまざまな仮説はありますが、実際のところはわかっていません。患者さんの味覚に対する訴え全般を味覚障害としていますが、明確な診断基準はありません。『味』に対する訴えがあれば、すべてを抗がん剤による副作用として『味覚障害が生じた』と判断されているのが現状と思われます」
味覚障害に対する検査は各種試みられているが、たとえ検査で正常という結果が出たとしても患者さんは実際に困っているのだから、その訴えに対応していくしかないと青木さんは言う。
「味覚障害は治療するというよりは、困っている症状を少しでも改善させることが大切になると思います」
亜鉛不足が味覚障害を引き起こす
[味覚障害の症状(28症例/13名、青木氏調査より)]
※異味症の読み取り方 : 甘味の場合、本来甘いものが違った味に感じられるということ
味覚障害の原因は明らかになっていないが、次のような要因によって起こると考えられている。
まず、舌や上あごに分布する味蕾という味を感知するセンサーや味蕾に分布する神経が抗がん剤によりダメージを受けると、味覚に異常が起こる。
また、味は唾液を介して感じるため、唾液腺がダメージを受け、唾液が減ると感度が低下する。さらに考えられる要因としては、抗がん剤によって亜あ えん鉛の吸収が妨さまたげられ、亜鉛不足になることだという。
「亜鉛は味蕾の再生を促すといわれています。亜鉛が不足すると抗がん剤でダメージを受けた味蕾の再生が遅くなり、味覚障害が起こりやすくなるというわけです。亜鉛はサプリメントで摂取するのも1つの方法です。ちなみに経験的なことですが、抗がん剤治療中に亜鉛製剤や亜鉛サプリメントを飲むと、食欲が増す患者さんもおられます」
口の中の不衛生には要注意
青木さんが味覚障害の要因としてとくに強調するのは、口の中が不衛生になることだ。
「口の中には虫歯菌や歯周病菌など非常に多くの細菌がいます。抗がん剤治療によって白血球が減少し、免疫力が落ちると口の中の細菌に感染しやすくなります。歯に付いた細菌の塊である歯垢は、歯茎だけではなく、舌や上あご、頬の粘膜などに炎症を起こします。味覚を感じる粘膜に炎症が起こると、味覚に異常を感じることが多くなるようです」
味覚障害は口の中を清潔にすることで軽減
味覚障害は抗がん剤治療が長くなれば強くなっていき、治りにくくなる傾向がある。それを考えると、味覚障害には抗がん剤の量とそれによる免疫力の低下の程度が関与しているようだと青木さんは指摘する。
「免疫力の低下は抗がん剤治療中にできる口内炎にもあてはまります。口内炎が起こるのは抗がん剤そのものの作用と、抗がん剤治療によって免疫力が低下して口の中の常在菌が感染し、発症するという2つの要因があります。だからこそ、口内炎の治療としては口の中をきれいにすることが有効です」
重症の口内炎の患者さんにうがいとブラッシングを欠かさず実行してもらうと、口内炎が軽快するケースが多くみられる。ということは、口内炎は抗がん剤のせいで起こるというよりも、口の中の汚れのために生じた2次感染が大半ではないかと考えられるのだ。
「それと同様に、味覚障害も口の中をきれいにしておけば、それほど起こらないかもしれません」
口の中を清潔に保つことで、味覚障害が改善できると考えられるわけだ。
中でも、口の中の汚れで注意したいのは、不潔になりがちな義歯だと青木さんは言う。
「歯と同様に、義歯にも歯垢や歯石は付きます。義歯が汚れていると直接触れる粘膜にも炎症を起こし、味覚にも影響してきます」
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