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抗がん剤、放射線治療の副作用
つらい「口内炎」にも、予防法・治療法の選択肢がまだまだある!

監修・アドバイス:安井久晃 国立がんセンター中央病院消化器内科医師
取材・文:池内加寿子
発行:2006年3月
更新:2019年7月

  

安井久晃さん 国立がん研究センター中央病院
消化器内科の
安井久晃さん

やすい ひさてる
国立がん研究センター中央病院消化器内科医師。
1972年大阪生まれ。
1997年京都大学医学部卒業。
消化管(食道・胃・大腸)のがん化学療法を専門とする。
2006年初めて認定される日本臨床腫瘍学会認定専門医の1人。
QOLを保つための症状緩和治療を積極的に実践。患者の視点や思いを大切にした全人的な医療をめざす

口内炎はいつ起こる? その症状は?
抗がん剤投与後2~4日目ごろから、口内の粘膜に炎症が起こる

イラスト

「食道がんで化学放射線治療を受けた後、口内炎でのどまで荒れ果てて痛みも強く、つばも水も飲み込めなくなりました」

「乳がん術後の抗がん剤治療で口内炎が出てきたときは、本当につらかったですね」……。抗がん剤や放射線治療の副作用で口内炎を体験した患者さんたちからはそんな声が聞かれます。

「口内炎」はその言葉のイメージからか、ともすると軽視されがちですが、がん治療と副作用ケアに詳しい国立がん研究センター消化器内科医師の安井久晃さんは、こう強調します。

「口内炎は抗がん剤の副作用として比較的頻度が高く、約40パーセントに起きるといわれています。いったん発症すると治療に時間がかかりますし、重症化すると抗がん剤治療を続行できなくなったり、薬剤の量を減らさなければならなくなったりすることもあり、治療そのものにかなり影響を及ぼす副作用の1つです。また、感染が全身に広がって命に関わることもありますから、決しておろそかにはできません」

 口内炎の症状は、抗がん剤投与後2~4日目くらいから、放射線治療では照射開始後2、3週間目ごろから出てくることが多いようです。最初は、口の中がざらざらした感じ、焼けた感じ、食物や液体がしみる感じ、粘膜が赤くなる発赤などで始まり、痛みのない潰瘍や浮腫(粘膜の腫れ)、白斑(膿がついたような斑点)などが出現。さらに進むと、痛みを伴う潰瘍ができたり、出血したりするようになります。唇、頬の内側、歯肉、舌など、粘膜ならどこにでもでき、口の中全体が潰瘍化して、食べ物を飲み込めない嚥下障害になるケースもあります。

「通常は、口内粘膜が再生する10日目から2週間以内にほぼ治りますが、次の投与サイクルが始まったり、感染がひどくなったりすると治りにくくなります。とくに、抗がん剤と放射線を併用した化学放射線治療で、咽頭部に放射線があたるような場合は、飲み込むときに非常に強い痛みが出て、口から何もとれなくなることがあります。治療の意欲も落ちますし、一番つらい症状ですね」(安井さん・以下同)

飲み込めなくなると、イライラする、不眠になるなどの精神的な苦痛も加わり、QOL(生活の質)が著しく下がってしまいます。

「このような状態を極力防ぎ、QOLを改善できるように、患者さんも医師も口腔ケアの重要性を認識し、有効と考えられる予防法、治療法を積極的に採り入れていくことが大切です」

口内炎を起こしやすい抗がん剤は?
5-FU、アドリアシンは頻度が高い

口内炎を起こしやすい抗がん剤は、5-FU(一般名フルオロウラシル)、メソトレキセート(一般名メトトレキサート)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)など、いろいろあります(表1参照)。

「5-FUなど代謝拮抗薬系の抗がん剤では、口内炎が高頻度で現れることが多いですね。がんの種類によって投与量、投与スケジュールなどが違いますが、抗がん剤の量が多いほど発症しやすく、症状も強くなります」

大量化学療法を併用した幹細胞移植をする場合は、ほぼ100パーセント発症するそうです。また、投与方法によっても副作用の現れ方が異なり、5-FUの場合は、注射器で2、3分の間に静脈注射する急速静注より、時間をかけて点滴で行う持続静注のほうが口内炎などの副作用が起きにくく、効果も高いといわれています(表2参照)。

[表1 口内炎を起こしやすい抗がん剤]

種類 商品名(一般名)
代謝拮抗剤 5-FU(フルオロウラシル)
フトラフール(テガフール)
メソトレキセート(メトトレキサート)
キロサイド、スタラシド、サイトサール(シタラビン)
ハイドレア(ヒドロキシウレア)
アルキル化剤 エンドキサン(シクロホスファミド)
マブリン(ブスルファン)
ニドラン(ニムスチン)
アントラサイクリン系 アドリアシン(ドキソルビシン)
ファルモルビシン(エピルビシン)
プラチナ系 ランダ、ブリプラチン(シスプラチン)
タキサン系 タキソテール(ドセタキセル)
タキソール(パクリタキセル)
ビンカアルカロイド系
植物由来
オンコビン(ビンクリスチン)
ベプシド、ラステット(エトポシド)
抗がん性抗生物質 コスメゲン(アクチノマイシンD)
ブレオ(ブレオマイシン)

[表2 口内炎の程度]

グレード0 口内炎なし
グレード1 疼痛がない潰瘍・紅斑または病変を特定できない軽度の疼痛
グレード2 疼痛がある紅斑・浮腫・潰瘍、摂食・嚥下可能
グレード3 疼痛がある紅斑・浮腫・潰瘍、静注補液を必要とする
グレード4 重症の潰瘍、経管・経静脈栄養を必要とする
(米国立がん研究所(NCI)の副作用判定基準)

自分でできる予防法は?
うがいとブラッシングで口の中を清潔に保ち、刺激性食品を避ける

●口の中の衛生を保つ
「口内炎は、いったん発症すると治療が難しくなるので、発症しないように予防することが大切です」
予防法の基本は、口の中を清潔に保つこと。イソジンガーグル(一般名ポピドンヨード)やヒビテン(一般名クロルヘキシジン)などの消毒薬を刺激のない程度に薄めて、こまめにうがいをして、細菌感染を防ぎましょう。また、歯垢がたまらないように、朝晩及び毎食後のブラッシング(歯磨き)も欠かさずに行い、できれば舌の表面もブラッシングしておきます。
「虫歯は感染源になるので、あらかじめ治療しておくことをおすすめします」

●刺激のある食品を避ける
熱いもの、辛いもの、酸味の強いものなど、刺激物を避け、口の中の損傷を防ぎましょう。

●5-FUの急速静注には「クライオセラピー」が有効
「5-FUとメソトレキセートに関しては、効果が証明されている独特の予防法があります」
胃がんや大腸がんなどの治療法として行われる5-FUの急速静注では、血中濃度が急に上がり、口腔の粘膜細胞にも取り込まれやすくなりますが、投与5分前くらいから30分間ほど、口の中に氷を入れてなめる「クライオセラピー」で口腔内を冷やすと、粘膜細胞への取り込みを防ぎ、口内炎を予防する効果が認められています。なお、持続静注の場合は「クライオセラピー」による予防効果は期待できないそうです。
「また、5-FUによる治療中、ザイロック(一般名アロプリノール)という痛風の薬を水に溶かしてうがいに使うと、口内炎を予防できる可能性があります。担当医に相談して処方してもらうとよいでしょう」

●メソトレキセートなら「ロイコボリン・レスキュー」
「メソトレキセートを使う場合は、ロイコボリン・レスキューといって、投与後1日ほどたってからロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)という薬を6時間ごとに服用または点滴すると、口内炎の副作用を和らげることができます」
これは、血液系のがんなどでメソトレキセートを大量投与するときなどによく使われる方法です。

口内炎の原因は?

直接的な粘膜損傷と、2次的口腔内感染の2つの要因で起こる

「口内炎の原因は、抗がん剤の直接作用と、2次的な作用の2つが考えられます」(安井さん)

前者は、抗がん剤によって生じる活性酸素によって、細胞内のDNAが直接損傷されて起こるもの。活性酸素は、盛んに分裂を繰り返すがん細胞を攻撃するのと同時に、分裂速度の速い正常細胞にも作用するため、7~14日で新陳代謝をしている口腔内粘膜も影響を受けやすいのです。

後者は、抗がん剤投与中、白血球の中でも感染防御を担う好中球が減ってくる時期に、虫歯など局所の細菌がおさえきれなくなり、口腔内感染が広がって起こるものです。

「さらに、放射線治療で唾液腺が障害されると、唾液の分泌が低下して口腔内の衛生を保てなくなるので、より感染が起きやすい状況になります」

また、入れ歯が合わなくて口の中が傷ついているとき、口の中の衛生が悪いとき、栄養状態が悪く、ステロイドを使用しているときなど、全身的な状態によっても炎症や感染が起きやすく、重症化しやすいそうです。治療前には、これらのチェックも欠かせません。

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