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鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談
がんは絶望すると悪くなり、気力が充実すれば克服できる、そう信じています 漫画家/詩人・やなせたかし × 鎌田 實
膀胱がん、10回の再発を乗り越え、アンパンマンは今日も行く
30年以上にわたって、幼児を中心に日本の子どもたちを魅了し続けているアンパンマン。その原作者である漫画家のやなせたかしさんは、数年前からがんと闘っている。腎盂にできたがんを取り除いた後、すぐに膀胱がんが発見され、10回の再発を度重なる内視鏡手術、そして放射線、BCGの併用療法で乗り切って、90歳になった今も、元気に創作活動を続けている。
やなせ たかし
1919年高知県生まれ。東京高等工芸学校図案科(現千葉大学工学部)卒。三越宣伝部に入社。その後フリーに。1972年、「漫画家の絵本の会」を故手塚治虫氏等友人10名と結成し現在に至る。1973年、「キンダーおはなしえほん」(フレーベル館刊)にアンパンマンを掲載。以後アンパンマンは人気絵本シリーズとなる。同年、サンリオより月刊「詩とメルヘン」を創刊、2003年7月まで編集長。1988年「それいけ!アンパンマン」放送開始。1991年勲四等瑞宝章受章。絵本作家のほかに詩人・作詞家としても活躍。代表作に故いずみたく氏作曲の「手のひらを太陽に」がある。現在、季刊「詩とファンタジー」(かまくら春秋社刊)編集長。日本漫画家協会理事長。日本青少年文化センター理事
かまた みのる
1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、お年寄りへの24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)
エコーで発見された腎盂のエノキダケ風腫瘍
鎌田 3歳の孫がばいきんまんの大ファンで、私がやなせさんに会うと言うと、うらやましがっていました(笑)。
やなせ いや、ときどき企業へ行くと、会長さんがわざわざ出てこられて、「孫がアンパンマンのファンなんですよ」と、よく言われます(笑)。
鎌田 私も同じパターンです(笑)。「がんサポート」の読者の多くはがん患者さんです。がん患者さんが元気が出るようなお話をうかがいたいと思いますが、やなせさんご自身もがんと闘っていらっしゃるんですよね。
やなせ そうなんですよ。最初は腎盂のところにできました。私は順天堂大学病院に行っていますが、4年ほど前に、尿の検査をすると、細胞が破壊されたものが見つかり、「1度、泌尿器科で診察してもらってください」と言われました。何ら自覚症状はなかったのですが、泌尿器科でエコーを撮ってもらうと、腎盂のところにエノキダケの先っぽのような小さな腫瘍があったわけです。
鎌田 医師は何と言いましたか。
やなせ 「この部分だけを取ることもできますが、腎臓も取りたいですね」と言われました。
鎌田 転移を恐れたんですね。
やなせ 私は以前、尿管結石をやったとき、音波で治療したことがあるんです。
鎌田 ショック・ウェーヴ。音波で石を砕く治療ですね。
やなせ そう。そのとき腎臓が変形しました。機能はあるからいいのですが、変形したのがイヤなんです。それで、腎盂に腫瘍が見つかったとき、「どうしますか」と言われて、「腎臓も取りましょう」と賛成したのです。
鎌田 おもしろいですね。変形していた腎臓がいやで、これ幸いと手術してもらったのですか。考え方がユニークです。やっぱりアンパンマンは違うな。手術はいかがでしたか。
やなせ 簡単だと言われていたのですが、実際手術してみると、大変でした。手術後、痛くて、なかなか治らない。腎臓を摘出した空間に、他の臓器が入り込んできて痛いのです。「腎臓を取るんじゃなかった」と泣き言を言うと、ナースは「皆さんそうおっしゃいます」と、平気な顔で言うわけです(笑)。実際、徐々に痛みが取れてきて、1カ月半ほどで退院しました。
鎌田 すみません。一緒に笑ってしまって。つらい話なのにやなせさんの笑顔があまりにいいので、つられて笑ってしまいました。
再発を繰り返す膀胱がんに放射線とBCGの併用療法
鎌田 それが2005年ですね。そして、またすぐにがんが見つかった。
やなせ こんどは膀胱がんです。
鎌田 転移ですか。
やなせ 上皮がんで続きのようだとも言われましたが、はっきり転移だとは言われなかったですね。小さながんが10個ぐらい見つかりましたが、不思議と愕然とはしなかった(笑)。 すぐに内視鏡で全部削って、きれいになりました。しかし、その2カ月後に再発しました。それ以後、10回ほど再発を繰り返しています。
鎌田 愕然としないのがいいですね。そのつど膀胱鏡で削っているわけですか。
やなせ そうです。私も内視鏡の映像を覗きますが、小さなイソギンチャクみたいなものが見え、それを取るわけです。しかし、またアッという間に再発します。そこで医師に賞められるのです。「あなたのお歳でこんなに早く再発するのは、細胞が相当お若い証拠ですよ」と(笑)。こちらは本当は再発したくはないわけですが、「再発」と言われても、少しも暗い気持ちにならない。削ればいいわけですからね(笑)。それに看護師さんにやたらもてて、「また来てくださーい」などと言われると、また来るか、という気持ちになるんですよ(笑)。
鎌田 やなせさんのような冷静で明るい患者さんだと、看護師さんたちも冗談が通じて気持ちが楽なんでしょうね。看護師たちがきっと、やなせさんに癒されているのだと思います。現在のがんの状態はどうなんですか。
やなせ 何回も内視鏡で削ったあと、最後に膀胱の付け根のところにがんの親玉がいて、それは内視鏡では削れないということで、昨年、放射線とBCGを併用する治療を行いました。毎日、順天堂大学病院に通い、30回放射線をあてました。先日、MRI(核磁気共鳴画像法)で診断を受けましたが、経過は順調なようです。以前は手術後、しばらく血尿が出たことがありましたが、今回はそれもなく、いい状態が続いています。がんが治っているかどうか、はっきりしませんが、それをあまり考えても仕方ないと思っています。
鎌田 考えても仕方がないっておっしゃいますが、なかなかできないことです。放射線とBCGの併用は効きますから、収まっていくと思います。
やなせ 放射線の担当医が女医さんですが、自信満々「大丈夫です!」と言ってくれています。その言葉を信じています(笑)。
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