ヒト由来の人工皮膚使用で1次1期乳房再建が可能に! ダビンチSPで日本初の乳頭乳輪温存皮下乳腺全切除術
前立腺がんに初めて導入された「ロボット支援下内視鏡手術」(ロボット手術/ダビンチ)が、がん種の領域を広げながら、急速に普及が進んでいます。そのようななか、今年(2024年)「ダビンチSP」による乳がんの乳頭乳輪温存皮下乳腺全切除術が日本で初めて行われました。
今回はその術者の藤田医科大学先端ロボット・内視鏡手術学講座主任教授の宇山一朗さんに、これまで行われた4例について話を伺いました。
ダビンチSPとはどのような機種ですか?
現在承認されている最新の手術支援ロボット・ダビンチXiは第4世代の機種で、本体にはそれぞれ独立した4本のアームが付いています。1本にはハイビジョン内視鏡カメラ、他の3本には手術器具が付けられています。
今回の乳がん手術で使用された「ダビンチSP」は、新しいコンセプトのロボットで、SPとはシングルポート(単孔式)のことで、アームが1本しかないため、乳がんや甲状腺がん、頭頸部がんなど体の狭い領域での手術に優れています。
「ダビンチSPで胃がんの手術を20数例行いましたが、とくに問題はありませんでした。しかし、腹部など広い領域にはやはりダビンチXiのほうがやりやすいということは言えます。乳がんの場合は狭い領域での手術になるため、ダビンチXiのような大きな機種を使うとアームとアームがぶつかる可能性があり、操作性に問題がでてきます。その点、ダビンチSPはアームが1本なのでぶつかる心配もなく、乳がん手術には圧倒的にSPのほうが適しています」と藤田医科大学先端ロボット・内視鏡手術学講座主任教授の宇山一朗さん(図1)。
ダビンチSPを用いた乳頭乳輪温存乳房切除術とは?
今回行われたダビンチSPによる「乳頭乳輪温存乳房全切除術」とは、乳房の表面の皮膚だけを残して、腫瘍のできた部位を含むすべての乳腺組織を切除し、乳頭乳輪を温存する手術です。乳頭乳輪を温存でき、なおかつ手術痕も非常に小さいため、優れた整容性が期待できます。
この手術は藤田医科大学病院で、先端ロボット・内視鏡手術学、乳腺外科、形成外科の合同3チームにより行われました。まずセンチネルリンパ節生検を乳腺外科教授の喜島祐子さんが行い、次に宇山さんがロボットで乳腺全摘除、最後に形成外科准教授の井上義一さんが再建術を行いました。
「最初に乳房の脇側を3.5㎝切って、そこから腋窩のセンチネルリンパ節生検を直視下で行い、ロボットを装着する準備までを乳腺外科が担当しました。そこから私がダビンチSPで皮膚の下の乳腺組織を切除、いわゆる乳頭乳輪温存切除術を行いました。その後、形成外科が乳房再建を行い、約3時間半で終了しました。私は先端ロボット・内視鏡手術学という外科の所属で、ロボット手術に慣れているのでその部分を担当したわけです」(図2)
乳房再建には、乳がん手術と同時に乳房を再建する「1次再建」と、術後に改めて再建する「2次再建」があります。そして、自家組織(筋肉、脂肪など)やインプラント(シリコン等)で1回の手術で再建する「1期再建」と、1回目の手術でティッシュエキスパンダー(組織拡張器:エキスパンダー)を入れ、大胸筋を伸ばしてからインプラントに入れ替える「2期再建」があります。今回の手術は1、2例目が「1次2期再建」、3、4例は「1次1期再建」で行われました。
乳房の構造は、皮膚の下に脂肪と乳腺組織がありその下に大胸筋があります。ですから再建する場合、本来は乳腺組織が存在した部位にインプラントを入れるのが自然です(図3)。
「皮膚に脂肪を多く残すとがん細胞も残る可能性もあるため、薄く脂肪を付けた状態の皮膚だけにします。そうすると、血行が外側からしかないため乳頭の血行が悪くなります。そこに直接シリコンを入れて再建すると、皮膚が壊死を起こしてシリコンが飛び出す可能性もあります。それを避けるため日本では普通、最初の手術のときには乳腺だけを切除して、大胸筋の下にエキスパンダーを埋め込み手術を終えます。その後エキスパンダーの中に生理食塩水を徐々に注入して大胸筋をドーム状に拡張させます。そして、約6カ月後にエキスパンダーを取り出しシリコンに交換して乳房再建は完了します」
そうすると、たとえ皮膚に少し壊死があっても、大胸筋の下にシリコンが入るので、シリコンは飛び出すことなく自然と治ってきます。
「4月と6月に行った最初の2例は1次2期再建なので、1例目の方は10月にシリコンに入れ替える手術の予定です。ただし、海外では2回手術が必要な2期再建はあまり行われることはなく、1次1期再建が主流です」