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急性骨髄性白血病(AML)の治療

監修:大野竜三 愛知県がんセンター総長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2004年12月
更新:2013年6月

  

急性白血病とは

急性白血病には、急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病がありますが、大人では4対1の比率で骨髄性が多くなっています。

急性白血病の場合、骨髄内に白血病細胞が充満し、正常な血球を作ることができなくなります。そのため、赤血球の不足から貧血になり、息切れや動悸、倦怠感などが起こり、顔色が青くなります。また、血小板の減少で出血しやすくなり、歯茎からの出血や鼻血、消化管からの下血や吐血、時には脳出血を起こすこともあります。

さらに、白血球が減少するため、感染しやすくなり、高熱が続いて抗生物質を使ってもなかなか治らない、だるいなどの症状があります。

さらに、進行すると脾臓や肝臓に白血病細胞が溜まり、腫れてきます。しかし、大野さんによると「最近は、健康診断や血液検査で発見されるケースが多くなったので、臓器の腫れが出るほど進行した例はまれになってきた」そうです。

急性骨髄性白血病

まず完全寛解を目指し、さらに治癒を

白血病には、進行度による分類はありません。診断した時点で全ての症例が全身に拡がっている4期に相当するからです。診断後は、まず完全寛解を目標に強力な化学療法を実施、完全寛解に入れば治癒に向けた治療が行われます。

初発時の治療(寛解導入療法)

治療前には、患者さんの体内には1兆個もの白血病細胞があります。これが100億個以下になると、正常な細胞が増殖できるようになり、症状も消えます。初発時には、まずこうした完全寛解を目指して強力な治療が行われます。

大野さんによると、化学療法はイダマイシン(一般名イダルビシン)またはダウノマイシン(一般名ダウノルビシン)とキロサイド(一般名シタラビン)の2剤併用療法が中心です。イダマシシンは3日間、キロサイドは1週間投与し、計7日間化学療法を行うのが標準的です。この間、白血球が極端に減少するので、感染を防ぐために無菌室などで治療が行われます。最近ではG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を使って白血球の数を回復させることができるようになり、感染対策は格段に向上しました。

これによって、約8割の人は完全寛解に入ります。完全寛解に入ったあとは、さらに治癒を目指して寛解後療法が行われます。なお完全寛解に入らない場合は、化学療法を繰り返したり、治験中の薬などさまざまな治療法を試すことになります。

一方、65歳以上の高齢者の場合は、体力的に強力な寛解導入療法を行うことは難しくなります。そこで、「やや弱い化学療法」を行って、寛解を目指すことになります。さらに70歳以上になると、患者さんのQOL(生活の質)を重視し、延命をはかる治療が中心になります。

寛解後療法

完全寛解になっても、患者さんの体内にはなお100億個以下の白血病細胞が残存しています。これをさらに駆逐するために、強力な地固め療法や外来通院で化学療法を行う「維持・強化療法」が行われます。ただし、最近は「大人の場合、強力な地固め療法を3コース行えば、維持・強化療法は行わなくてもよい」という傾向にあります。

地固め療法では、キロサイドの大量療法を3コース行います。1コース5日間で、1カ月あけて繰り返すのが一般的です。このときに使われるキロサイドは「寛解導入療法で使う量の20倍」という超大量です。そのため、「患者さんにとってはきつい治療で、寛解に入った人の3パーセントぐらいが、治療関連死で命を落とす」といいます。これぐらい強力な治療を行わないと、治癒に持ち込むのは難しいのです。

[急性骨髄性白血病の標準治療]
急性骨髄性白血病の標準治療
ハイリスク群と再発例(造血幹細胞移植)

8割が完全寛解に入り、その35%以上が治癒

ある種の染色体異常があったり、完全寛解まで時間がかかった場合は、再発の危険が高いことが知られています。こうしたハイリスク群の人は、地固め療法の段階で造血幹細胞移植を行うのが、現在では標準になっています。「造血幹細胞移植は、最強の寛解後療法です」と大野さんは語っています。

ただし、造血幹細胞移植を行うには、50歳以下で患者さんと白血球の型(HLA)が一致する造血幹細胞を提供してくれるドナー(移植提供者)がいることが条件になります。

造血幹細胞移植には、骨髄移植(ドナーから骨髄の提供を受ける同種骨髄移植と治療前に自分の造血幹細胞をとっておいて移植する自家造血幹細胞移植がある)と、ドナーの腕の静脈から造血幹細胞をとって移植する末梢血幹細胞移植、へその緒の血液に含まれる造血幹細胞を移植する臍帯血幹細胞移植があります。現在、標準的な治療とされているのは、骨髄移植と末梢血幹細胞移植です。

造血幹細胞移植を行うためには、移植前に強力な放射線治療や化学療法を行い、白血病細胞や正常細胞も含めて骨髄を空っぽにする必要があります。それに耐えられるだけの体力が必要なので、年齢的には45歳から50歳以下の人が対象になっています。

大野さんによると「完全寛解に入った人のうち、実際に造血幹細胞移植が受けられる人は3分の1ぐらい」だそうです。また、条件に当てはまれば、化学療法ではほとんど治癒を期待できない再発した人でも、造血幹細胞移植が受けられます。

ただ、造血幹細胞移植には移植したドナーのリンパ球が患者さんの体を異物として攻撃する「移植片対宿主病」(GVHD)があります。ひどくなると命にも関わる現象です。「もともとハイリスクの患者さんが対象なので、造血幹細胞移植の成功率は5割ぐらい」。一方、化学療法が進歩しているので、ハイリスク群で造血幹細胞移植を行わない場合でも、2割ぐらいは化学療法で長期生存が可能になっているそうです。

また、最近は「ミニ移植」という方法も研究されています。移植片対宿主病はひどくなると命にも関わりますが、軽く起こると逆に白血病細胞を殺すこともわかってきました。そこで、こちらの免疫的な効果に比重をおいて造血幹細胞移植を行うのがミニ移植です。いわば、免疫反応の狭間を縫って行う治療なので専門的な技術が必要ですが、通常の移植より化学療法や放射線治療による前処置が軽くてすむので、臓器に障害のある人やより高齢の人にも適応可能な治療法として期待されています。しかし、その効果はまだ十分に検証されていないので、「標準治療になるかどうかはまだ不明」(大野さん)だそうです。

治癒率

急性白血病は、治療をしなければわずか2~3カ月で死亡します。しかし、現在ではきちんと化学療法を行えば、60歳未満の急性骨髄性白血病の場合、8割が完全寛解に入り、その35パーセント以上が治癒しています。

大野さんによると、「完全寛解の状態が3年以上続けば再発の危険はほとんどなくなり、5年たてば治癒したといえる」そうです。

急性前骨髄球性白血病

分子標的治療の草分け、レチノイン酸

[急性前骨髄球性白血病の標準治療]
急性前骨髄性白血病の標準治療

急性骨髄性白血病は、化学療法や造血幹細胞移植など、厳しい治療が行われるのが一般的です。その中で、例外ともいえるのが急性前骨髄球性白血病です。

これは、造血幹細胞からもう少し成長した前骨髄球が白血病細胞化したものです。発見が遅れると1週間から10日ほどで命を失うことがある怖い病気です。しかし、このタイプの白血病には、特効薬があります。「レチノイン酸」というビタミンA誘導体です。

急性前骨髄球性白血病では、17番の染色体と15番の染色体にある遺伝子が融合して融合遺伝子を作っており、この遺伝子が作る異常なタンパク分子が前骨髄球の分化・成熟を阻止していると考えられています。レチノイン酸はこの異常タンパク分子を引き離して前骨髄球を成熟させるとみられ、分化誘導療法と呼ばれています。

ビタミンAの一種なので、口が乾いたり皮膚が赤くなる程度で、通常の抗がん剤のような強い副作用がなく、飲み薬である点が大きな利点です。白血病細胞が多い場合には、レチノイン酸に加えて急性骨髄性白血病と同じ化学療法を少し併用しますが、これで90パーセント以上が完全寛解に入ります。完全寛解導入後は、イダルビシンやキロサイドなどによるやや軽めの地固め療法(超大量ではない)を3コース行って終了となります。「現在、これで7割近い人が治っています」と大野さん。

再発した場合も、亜砒酸が有効であり、骨髄移植が行われることもあります。これらの治療法を全て含めると8割以上が治っており、現在白血病の中では子供の白血病を含めても最も治療成績のいいタイプになっています。 現在、がん治療で分子標的治療が注目されていますが、レチノイン酸はその草分けといえます。


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