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治療が長引く可能性も 血液がん患者の口腔ケアはセルフケアと専門医とのタッグが重要

監修●大沼由季 東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科衛生保健部主任歯科衛生士
取材・文●「がんサポート」編集部
(2018年5月)

  
「患者さんのQOL(生活の質)向上を目指した口腔ケアが必要」と話す大沼由季さん

がんの治療を進める際に気をつけなければならないものに口腔ケアがある。とくに化学療法や放射線療法、さらに造血幹細胞移植を伴う造血器腫瘍(血液がん)では口腔粘膜炎や口腔乾燥症、味覚障害などの口腔内トラブルが発現することが多い。口腔ケアの専門家に治療前から始まるケアの重要性について聞いた。

地域医療との連携も大切

「口腔ケアは、痛みが当人しかわからず、しかもその苦しみは尋常ではありません。治療前からケアしていれば軽減することができます」と、東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科衛生保健部主任歯科衛生士の大沼由季さんは話す。

血液がんの場合は、口腔内トラブルの発生頻度が高く、口腔乾燥や口腔粘膜障害を来すことが多い。大沼さんは、口腔ケアの重要性を強調する。

「血液がん患者さんでは、口腔粘膜炎(口内炎)や口腔乾燥症、味覚障害が起こります。主な原因は、抗がん薬や放射線が本来の標的であるがん細胞だけではなく周りの正常細胞に影響を及ぼすことです。とくに口腔粘膜は細胞分裂が活発なので影響を受けやすいのです」

副作用は、治療法により発現のピーク時が異なるため、歯科と血液内科との連携が大切となる。さらに、「地域に根差したフォローアップができるように、かかりつけ医などとも連携を取ることが大切」という。

粘膜炎は長期にわたるフォローが必要

具体的な症状としては、個人差はあるが、化学療法では投与後4日頃から口腔粘膜に腫脹などが見られ始め、約2週間にわたり口腔粘膜炎が生じる。潰瘍や痛みのピークは10~12日目に現れる。

放射線療法では、照射2週目ごろから口腔粘膜に発赤が見られ始め、約6週間にわたって口腔粘膜炎などの症状が出る。潰瘍や痛みのピークは3週目あたりだ。化学療法と放射線同時療法(化学放射線療法)の場合は、抗がん薬の投与回数が増えるために口腔粘膜障害も長く、8~12週間になり、潰瘍や痛みのピークは3週目と7週目ごろに現れるため、長期間にわたり粘膜炎と戦っていくことになる(図1)。

図1 口腔粘膜炎の発症時期と過程

「ピーク時のセルフケアは難しい。疼痛だけではなく、白血球、血小板も減少しているので感染や出血を来しやすい時期となります」と大沼さんは医療機関にかかることが大切だとする。

造血幹細胞移植をする場合は、移植前処置で免疫細胞を抑制するため、生着するまでの2~3週間の期間は、化学療法の副作用が出るだけではなく、白血球が著しく減少するので、感染しやすくなる。

一方、生着すると白血球が増加し、口腔内の状態は改善してくるという側面もある。しかし、次にGVHD(移植片対宿主病)という症状が現れる場合がある。

「GVHDは、ドナー由来のリンパ球が患者の臓器や体自体を他者とみなして攻撃します。免疫抑制薬とステロイドなどの全身療法が基本で、症状に応じて局所療法を併用します」

また次のようにも指摘する。

「急性GVHDでは、全身に症状がみられることが多く、重篤化しないために予防投薬を行うため、口腔内の症状は改善される傾向にあります。慢性GVHDは部分的な臓器に限局して現れることが多く、口腔病変としては、粘膜苔癬様病変(ねんまくたいせんようびょうへん)として現れ、疼痛を伴うものも多くあります。また、退院後数年経過してから発症することがあります」

これらの口腔の症状に対して、根気よく保湿したり、抗炎症軟膏で粘膜の炎症改善と同時に、粘膜に当たっている歯の滑りを良くしたりといった治療に加え、鎮痛薬を服用したりなど、食事や歯磨きができるようになるまで加療が必要だ。血液疾患の口腔粘膜炎への対応は長期にわたりフォローしていくことが多い。

症状とともに変わる口腔ケア

治療中は粘膜の状態や全身状態によって対応が異なり、できる処置と、できない処置がある。そのため、治療開始前からの介入が非常に大切で、歯磨き、粘膜ケア、うがい(含嗽)、保湿などの乾燥対策を専門的な見地から指導する。

治療前は、通常の方法ととくに変わりはなく、小さめの歯ブラシで毛先を歯と歯茎の境目に直角に当て小さく動かして清掃することが大切。歯ブラシの硬さは普通~軟らかめがよい。また、患者が今後口腔内に起こりうる口腔乾燥、粘膜炎等について理解するとともに、治療中に感染源となるむし歯や歯周病疾患を予防するために、治療前の口腔ケアの必要性を知ることが重要だ。

「口腔ケア方法も症状とともに変わっていくことを説明し、通院可能な時期に、積極的に来院してもらって口腔ケアを受けることが必要です。感染源になりうるむし歯などは速やかに治療しなければなりません。また、治療中のクリーンルームにいる期間に必要な保湿液や歯ブラシを事前に購入することをお勧めします」と大沼さん。

歯ブラシで磨くほかに、歯間清掃として歯間ブラシやフロスを行う。歯間ブラシは歯の隙間のサイズに合わせて選択し、歯肉を傷つけないようにゆっくり、水平に、挿入し、左右の側面に沿って動かす。1日1回が理想だ。

フロスは、歯と歯茎の境目に入れて上下に5回程度ゆっくり動かしていく。歯肉に炎症があれば、出血することもある。

「歯垢(しこう)を取ったことで最初は出血しますが、歯間ブラシ、デンタルフロスを継続的に使うと必ず歯肉の炎症が治まってきます。治療中は、血小板が減ることで出血しやすく、止血しにくくなるので、使用を控えることも多くなります。治療前にこれらを使用して、できる限り炎症を抑えてから、治療に臨むのが非常に大事です」

歯間ブラシは使用状況によるが1週間くらいで、毛先がなくなれば新しいものに替える。デンタルフロスは使い捨てとなる。また、むし歯予防効果として、フッ素入りの歯磨剤を使うとよい。

治療が開始されると感染予防、症状緩和のために、観察、清潔保持、保湿、疼痛コントロールの4点が口腔ケアの基本となり、これらができないとQOL(生活の質)が低下してしまう。

観察と医療者間の対話は重要

治療中に起こる口腔粘膜炎の状態はグレードで分類される。以前は診察所見などが基準となり決めていたが、新しいスケールでは、機能的評価を重視したグレード分類に変わった。見た目の診察所見と患者さんの感じている機能的問題を考えるということだ。軽度から重度に進むことがあるので口腔状態の観察が重要となる。さらに、口腔内の痛みや食事が摂取できるかなど患者、医療者との対話が大切となる(図2)。

図2 口腔粘膜炎のグレード(CTCAEVer3.0/Ver4.0)

また、治療中の口腔内清掃を行うには血液データなどの全身状態を確認する。感染しやすく、出血しやすい傾向であれば、超軟毛歯ブラシで歯牙(しが)のみを清掃し、歯間ブラシなどの清掃用具を使わないなど歯肉の状況に応じて判断する。逆に「患者さんからこの道具だと痛くないなど教わることもある」という。

その他、粘膜ブラシを使用した口腔ケアを推奨しており、口腔乾燥により付着した粘着性の汚れや感染源になる舌苔(ぜったい)などを除去するために有効だという。回数は1日1~3回で、上顎(あご)を含め舌や頬粘膜などゆっくり優しくなでるように汚れを取るように指導する。粘膜炎がある場合は、悪化させることもあるので、その場合は使用を中止し、口腔ケア綿棒などでできる範囲のケアすることもある(図3)。

図3 粘膜ブラシを用いた頬粘膜・口蓋の清掃

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