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分子標的薬やCAR-T細胞療法などの開発で全ての血液がんに希望が 分子標的薬の新薬、次々登場で進化する血液がんの化学療法

監修●矢野真吾 東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科教授/腫瘍センター長
取材・文●伊波達也
発行:2019年12月
更新:2019年12月

  

「がん患者さんの循環器疾患治療やがん化学療法で心血管系の副作用に対する治療の確立を目指す腫瘍循環器学会が2017年に創設されて、治療確立への推進力になっています」と語る矢野真吾さん

難治性がんで、不治の病というイメージだった白血病。2001年の分子標的薬グリベック(一般名イマチニブ)登場を境にイメージは変わった。とくに慢性骨髄性白血病において、推定5年生存率が9割を超えるまでになった。

白血病全般においても、次々に登場する分子標的薬が、その有効性を示し、白血病治療を大きく変えつつある。最新の知見を東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科教授で腫瘍センター長の矢野真吾さんに伺った。

分子標的薬がキードラッグとして大きな役割

わが国では人口10万人あたり男性11.7人、女性7.6人に発症するという白血病(国立がん研究センターHPがん統計:2014年)。

大きく分けると、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)の4種類である。

この4種類の病気は、いずれも治療法は異なるが、急性白血病は寛解(かんかい)導入療法を経て、その後、地固め療法、適応できる場合は造血幹細胞移植を行うなど、寛解を得て、根治(こんち)へと導いていくためには、重ねての治療が必要となる。

しかし、再発してしまう場合も多く、再発・難治性と言われる症例などでは、治療に苦慮することも多い。とくに近年急増する高齢者に対しての治療は難しい。

そんな中、いずれの白血病についても、近年の治療においては、分子標的薬が、キードラッグとしての役割を担うようになってきた。

白血病4種類において、従来の標準治療では寛解、根治が難しい再発や難治性などの症例に対する分子標的治療について見ていこう。

まずは、白血病の中の半数以上を占める、急性骨髄性白血病についてだ。

「急性骨髄性白血病では、再発・難治性の症例で、FLT3(フリットスリー/フラットスリー)という遺伝子変異のあるタイプに適応する、ヴァンフリタ(一般名キザルチニブ)というFLT3阻害薬が、2019年10月に承認されたのは、最も新しい明るい話題です。同種の薬で先行して使うことができていたゾスパタ(同ギルテリチニブ)とともに大きな治療の戦力になります」

そう話すのは東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科教授で腫瘍センターセンター長の矢野真吾さんだ。

FLT3の遺伝子変異のあるタイプは、急性骨髄性白血病の日本人で約25%に存在し、抗がん薬では根治を得るのは難しく、寛解に入っても再発しやすいという難治性であるため、対象患者にとって、この2薬剤は大きな福音になるという。

「ゾスパタとヴァンフリタは、単剤でFLT3遺伝子変異のある再発症例の3〜4割で寛解に近い状態へ持っていくことができますので、その後に同種移植を行えば、根治へ導くことができる可能性があります。米国では標準治療としては、ミドスタウリン(商品名:Rydapt)という薬で、化学療法との併用により治療をしていますが、ミドスタウリンは単剤ではそこまでの威力はありません。したがってゾスパタとヴァンフリタは、有効性の高い薬ということができるでしょう」

ゾスパタは、FLT3遺伝子変異の遺伝子内縦列重複変異(ITD)とチロシンキナーゼドメイン変異(TKD)の2つを阻害する。一方のヴァンフリタはITDをターゲットにしている。

ヴァンフリタについては、現時点では、日本のみでの保険承認薬だ。矢野さんの患者のなかにも、この薬の治験に入った若い人で、抗がん薬では寛解には至らなかったが、ヴァンフリタ投与で寛解に入ることができた例があるという。

さらに、再発・難治性の急性骨髄性白血病に対して、米国ではFDA(米国食品医薬品局)に承認されていて、近い将来、わが国でも保険承認が期待されている薬にイボシデニブ(商品名:Tibsovo)がある。

IDH1という遺伝子変異があり、75歳以上か集中的導入化学療法の適応外で合併症を持つ患者に対して、米国で承認された。この遺伝子異常は日本人の場合10%程度に存在するため、イボシデニブの承認も待たれる。

「一部の急性骨髄性白血病の治療は、どうしても造血幹細胞移植が避け難いです。しかし、移植は副作用により2〜3割の方は亡くなってしまうのも事実です。今後、新たに登場したこれらの分子標的薬が初回治療で使えるようになっていくと、移植をしないで根治へと導ける可能性が、将来的には高くなるでしょう」(図1)

再発・難治性の急性リンパ性白血病には2つの薬剤が登場

次に、白血病の19%で、わが国では約5,000人の患者が存在する急性リンパ性白血病。少なくても半数以上いる、再発・難治性の症例に対しての治療はどうだろう。

「急性リンパ性白血病については、再発や難治性の症例に対して、2つの薬剤が登場しています。1つは抗CD22モノクロナール抗体薬であるベスポンサ(一般名イノツズマブオゾガマイシン)です。CD22を標的にするモノクロナール抗体イノツズマブと細胞障害性化合物のカリケアマイシンを組み合わせて、殺腫瘍細胞効果を白血病細胞特異的に発揮するように設計された薬剤です。

もう1つは、CD19とCD3に二重特異性を有するT細胞誘導(バイト)抗体製剤のビーリンサイト(同ブリナツモマブ)です。バイトは、B細胞系の細胞表面に発現するCD19と、T細胞表面に発現するCD3を共に認識することで、白血病細胞とT細胞に架け橋を形成し、有効性を発揮するというメカニズム(作用機序)です」

ベスポンサは、臨床試験において、寛解率は80%以上という好成績だった。

また、ビーリンサイトについては、「TOWER試験」というビーリンサイト群と化学療法群との多施設共同第3相試験で、ビーリンサイトは化学療法群に対して全生存期間(OS)において有意に延長した。

急性リンパ性白血病も寛解に入らないと予後(よご)が厳しく、移植をしても根治が難しいため、これらの薬剤により、寛解を目指せるのは、患者にとっては大きな福音となるだろう。

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