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病態解明に確実な進歩。骨髄異形成症候群の最新治療
東京大学キャンサーボード
特任准教授の
小川誠司さん
血液がんの中でも、確実に増加するとみられている骨髄異形成症候群。
高齢者に多いだけでなく、がん治療で抗がん剤による化学療法を受けた人に多いのも特徴だ。
症状や病態もさまざまで、治療が難しい場合もあるが、ここ20年の間に病態解明は確かな進歩を見せている。
化学療法後に多い発病
がん治療は、ここ20年ほどの間に大きな進歩をとげた。化学療法にも新しい抗がん剤が次々に登場し、そのおかげで、がんを克服し、長生きをする人も珍しくなくなってきた。
ところが、皮肉なことにこうした化学療法の影響で、増えているがんもある。その1つが、「骨髄異形成症候群(MDS)」という血液のがんである。骨髄異形成症候群の発症率は、10万人に1人~2人、有病率は10万人に2~3人といわれ、決して多いがんではない。しかし現在、すでに日本でも増加しつつあり、今後も間違いなく増えていくがんといわれている。
東京大学キャンサーボード特任准教授の小川誠司さんは「骨髄異形成症候群は年齢を重ねるほど増える病気です。したがって、高齢者が増えたこと、また、診断技術の向上で骨髄異形成症候群と診断される人が増えたことも、増加の一因です。食事などの環境汚染の影響も指摘されています。そして、もう1つ大きな要因と見られているのが、抗がん剤投与なのです。抗がん剤を使うと骨髄異形成になりやすくなることが明らかにされています」と指摘している。
強い抗がん剤を使ってがんを治したあと、5年~10年を経過して骨髄異形成症候群を発症する人が少なくないそうだ。
「化学療法の強さや種類にもよりますが、大量の化学療法をうけた場合、20人に1人ぐらいの割合で発症します」と小川さんは話している。
これは決してまれな発症とはいえない数である。中には、化学療法でがんの治療をしている最中に、骨髄異形成症候群を発症し、2つのがんを抱える結果になる人もいるそうだ。もちろん、すべての人がそうなるわけではなく、もともと抗がん剤で骨髄異形成症候群を起こしやすい素因を持っていた人に2次的に発症すると考えられている。
つまり、今後ますます進むであろう人口の高齢化と化学療法の進歩によって、がんが治り長生きする人が増えるという意味で、今後も骨髄異形成症候群は増えると見られているのだ。
不応性貧血など造血障害
では、骨異形成症候群とはどういう血液がんなのだろうか。小川さんによると、白血病ほど定義のはっきりしたがんではない、という。
「もともと、白血病という病気があって、それとは別に、原因不明で治療しても治らない種類の貧血があったのです。治療に反応しないこういう貧血のことを不応性貧血というのですが、こうした病気を診ているうちに、いくつかの共通点があることがわかってきました」
赤血球が減少して不応性貧血が起こるだけではなく、白血球や血小板など他の血球も減少したり、変形したりしている。さらに、その中から高頻度で急性骨髄性白血病になる人がいることがわかってきたのである。
かといって、こうした症状は、これまでに病名のついている他の病気にもあてはまらない。こうした一群の病気の存在が1970年代に認識され、欧米の学者が「骨髄異形成症候群」と総称したのが、この病気の始まりだ。つまり、共通点は血球の減少と白血病になりやすいことで、必ずしも1つの病気を指すわけではなく、いろいろな病気の総称といえるのである。
実際に「白血病も多彩ですが、骨髄異形成症候群はもっとさまざまな臨床症状があるのです」と小川さんは指摘している。
症状も進行もさまざま
たとえば、骨髄異形成症候群から急性骨髄性白血病にすぐに移行し急速に進行する人もいれば、白血病にならないまま経過する人もいる。症状もさまざまで、赤血球が減少して貧血がメインの人もいれば、血小板や白血球も低下する人もいる。減少の程度や進行のしかたもさまざまだ。
したがって、初期症状も人によって違いがある。赤血球は、酸素を運搬しているので、貧血になればだるかったり、息切れや動悸がしたりする。それも「中等度ぐらいの不応性貧血(RA)でずっととどまり、輸血が必要ない人もいれば、繰り返し輸血が必要になる重症の人もいる」とのこと。血小板が低下すれば、出血しやすくなり、白血球が減少すれば、感染症にかかりやすく、重症になりやすい。不応性貧血がメインの場合は、再生不良性貧血と区別が難しいこともあるという。
「ある程度進行すれば、赤血球の減少はほとんど必発ですが、典型的な人では、3系統いずれの血球も減少します。けれども、血球が作られていないわけではないのです」と小川さん。
よく知られているように、血液は赤血球、白血球、血小板などの血球成分と血漿と呼ばれる液体成分からできている。このうち、血球はいずれも、骨髄の造血幹細胞が必要に応じて分化、それぞれ骨髄芽球や前赤芽球などの段階を経て赤血球や白血球、血小板などに成熟していく。骨髄の中を調べると、骨髄異形成の人でも、こうした血球の元はたくさん作られているのだそうだ。
ところが、せっかく作られた血球の元が、成熟する過程で異常を起こし、正常とは異なる形になる。すなわち「異形成」である。形がおかしくなるだけではなく、一見普通に見えても壊れやすかったり正常に働けない血球も出てくる。形がおかしくなった細胞は、1人前になれないまま、骨髄の中で死滅してしまう。つまり、血液の元はできても、実際に働ける状態に成熟しないので、これを「無効造血」と呼ぶそうだ。
その結果、血液の血球成分が減少し、貧血や出血傾向などさまざまな造血障害が引き起こされる。これが、骨髄異形成症候群の1つの特徴だ。 もう1つの特徴は急性骨髄性白血病になりやすいことにある。
血液検査 (末梢血の検査) | 白血球、赤血球、血小板の数、血液細胞の形態異常の有無、未熟な血液細胞の有無 |
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血液検査 (生化学検査) | 肝機能、腎機能などの検査 |
骨髄検査 | 血液細胞の形態異常の有無、未熟な血液細胞の割合を調査、病型を決定するために必須。染色体異常の検査(骨髄細胞を用いて検査する) |
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