肉腫の治療を牽引する、GISTの患者、医療者一体の取り組み

取材・文:町口充
発行:2009年5月
更新:2013年4月

  

肉腫(サルコーマ)などの希少がん(悪性腫瘍)は、疾患自体は数多いものの患者数が少なく、今のがん対策では十分な治療体制が整っておらず、“忘れられたがん”といわれている。そうした中でも、消化管の筋肉層に発生する消化管間質腫瘍(GIST)は従来、治療困難な悪性腫瘍の典型といわれてきたが、患者の声を受けて新しい治療薬が次々に登場するようになり、期待を高めている。

「希少がんも同じ命の重さ」。
治療法がない、情報も、薬も不足したがんの現実を打破するのは患者の声だ

希少疾患だが種類は50種以上

肉腫は骨や軟骨、脂肪、筋肉、血管などに発生するがんの一種。発生する割合は10万人に1人とか、1000万人に1人とまれであるにもかかわらず、50分類上50種以上の種類があり、種類ごとに性質が違う。肉腫で亡くなる人は推定で年間6000人ぐらい、罹患している患者数は約1万5千人といわれる。大人ではまれながんだが、小児では多いという特徴がある。現在の医療では有効な治療法が確立されておらず、肉腫に対する研究も進んでいないため、患者や家族は不安な日々を送りながら苦しい闘病を続けるしかない。

そんな現状を何とか打破しようと2月9日、「日本に『サルコーマセンターを設立する会』」が発足した。肉腫に関する情報を集め、診断と治療の専門医を一堂に集中させるセンターを設立し、肉腫を根治させる治療法の開発を目指そうというのだ。発足にあたって国立がん研究センター内で行われた前夜祭では、肉腫患者や医療者らが多数参加し、希少がん、肉腫の置かれる厳しい現実と今後の展望について議論が行われた。肉腫の最初の治療では、切除手術が基本となるが、手術できる段階でちゃんと取りきるかが、予後を大きく左右する。手術をきちんと行うには、早期の適切な診断が重要だが、肉腫の知識がないばかりに良性といわれたり、放っておいて大きくなったという例が多い。患者、医療者双方からは、肉腫専門医でなくても、肉腫の可能性を頭の隅において診断する必要があることが強調され、情報を集積し、肉腫の周知を促す重要性が指摘された。

実績を上げ始めたGISTの治療

肉腫は治療が難しい病気の1つであり、早期の発見や専門医による治療が重要だが、実際には十分な体制ではない。さらには、再発・転移したときに有効な薬が存在しないとあっては、暗澹とした気持ちになるのは当然だろう。

そんな中、新薬開発により、今まで肉腫と同様に扱われていた消化管間質腫瘍(GIST)に、治療法がある程度確立できてきた。しかし耐性の問題もあり、あくまでも一時的ではあるが、新しい薬も次々と登場している。

GISTに有効な薬として「グリベック(一般名イマチニブ)」という分子標的薬があり、日本では2003年にGIST治療薬として承認された。それまでは、手術ができない場合や再発した場合は有効な手立てがなく、ほとんど死を待つしかなかっただけに、グリベックの登場により救われた命は多い。

ところが、グリベックには耐性があることがわかり、患者の多くはやがてグリベックが効かなくなるという問題が出てきた。これに対して、グリベック耐性のGISTに有効な薬として、同じ分子標的薬である「スーテント(一般名スニチニブ)」が開発され、セカンドラインの薬として早期承認が求められていたが、ようやく2008年4月に承認された。

スーテントは米国ではすでに2006年に承認されていたが、日本で承認されるまでに2年かかった。

スーテントが承認されたのは、開発した製薬会社や医師らの努力とともに、患者自身の訴えの力が大きかった。GISTの患者たちは、「スーテントの早期承認を求めるGIST患者の会」を立ち上げ、2007年には13万人余の署名を集めて厚生労働省に提出。1日も早く、救える命を救いたいという必死の思いが、実を結んだのである。

このようにGIST治療が着々と実績をあげていることは、ほかの肉腫の治療にも大いに参考になり、刺激となり励ましともなるだろう。


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