私が目指すがん医療 3
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~

稀な病気だから、多施設で手をつないだ研究と治療が必要です

上田孝文 国立病院機構大阪医療センター整形外科部長
取材・文●植田博美
発行:2014年7月
更新:2014年10月

  

うえだ たかふみ 1982年北海道大学医学部卒業後、大阪大学医学部整形外科学教室入局。89年同大学院医学系研究科博士課程修了。大阪府立成人病センター、星ヶ丘厚生年金病院等を経て、2006年より現職。大阪大学医学部臨床教授併任。骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)代表理事、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本整形外科学会整形外科専門医等

患者さんの数が国内で年間わずか数千人という骨軟部肉腫は、その希少さゆえ治療法がまだまだ限られているのが現状だ。国立病院機構大阪医療センター整形外科部長の上田孝文さんは、NPO法人・骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)の代表理事として、この領域の多施設共同研究を推進し、新薬の開発を含めた治療法の確立を目指している。

50種類のタイプを合わせて3,000人という稀な病気

「骨軟部肉腫は主に四肢などの運動器の腫瘍で、非常に稀な病気です。骨肉腫は若年層を中心に年間約200人、軟骨肉腫など他の悪性骨腫瘍や軟部肉腫を合わせても患者数は全国で3,000人程度です。そのため施設の枠を超えた多施設共同研究の必要性が昔から言われていて、1994年に現在の骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)が発足し、2012年にはNPO法人に認可されました。

現在、わが国でも数種の新薬の臨床試験が行われています。そのうちの1つは中高齢者の骨肉腫に対する化学療法の臨床試験で、欧米でもまだ標準治療はありません」

骨軟部肉腫で標準治療が確立しているのは、若年層の骨肉腫とユーイング肉腫の手術+化学療法だけという。

「軟骨肉腫は抗がん薬や放射線が効きにくいので基本は手術ですが、最近、部位的に根治手術の難しい骨盤や背骨の軟骨肉腫には重粒子線治療も選択されるようになってきました。ただし保険適用外なので治療費は300~400万円かかります。軟部肉腫も基本は手術に放射線療法を併用します。化学療法については議論が多く、世界的にもまだ定まっていません。

実は軟部肉腫というのは1つの病気ではなく、50種類くらいの組織系・タイプをまとめて軟部肉腫と呼んでいるのです。それぞれが稀で、年間数人という症例もあり、特徴が非常に多様です。当然、臨床試験も組織系・タイプごとに行わなければならず、このように稀な腫瘍に対し、どのように薬を開発していくかが課題であり、世界中で模索・研究されています」

新薬の有効性・安全性は一般的に臨床試験で検証されるが、この領域は患者さんの数が少ないため難しいのが現状だ。

「2012年に認可されたヴォトリエントは、国際共同臨床試験で承認された最初の軟部肉腫の薬ですが、むしろ珍しいケースといっていいくらいです。多くは、希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)指定制度といって、仮承認を得てから臨床データを取るシステムが運用されます。これは小さな規模で治験を行って仮承認してもらい、症例の少ない病気に使っていく。こういうことは製薬会社にはできないし、医師だけでも無理です。患者さんに薬を届けるためには、医師と製薬会社が協力して治験を行うことが非常に大切なのです」

ヴォトリエント=一般名パゾパニブ

患者さんが集まれば 稀な病気でも臨床試験が可能に

「この領域の治療成績を上げるには、患者さんの集約化が一番大事です。患者さんが集まれば、稀な病気でも臨床試験を行って、それぞれの病気に有効な薬を見つけることができるからです。現在、骨軟部肉腫を扱うJMOG所属の施設は66あるのですが、これを10~20のグループに集約したい。同じ治療方針で、同じレベルで治療ができる連携グループであれば、施設は1つでなくても複数あっていい。そのほうが患者さんには便利ですから。

当院は、大阪大学と大阪府立成人病センターと提携して1つの骨軟部肉腫専門グループを作っています。将来的には、全国に骨軟部肉腫専門施設を作り、そこに患者さんを集約し、臨床試験などでより良い治療法を目指す。これが多施設共同研究を含めた我々の最大の目標です」

上田さんは、患者さんに接する際にいつも心に留めている言葉があるという。

「『時に癒し、しばしば支え、つねに慰む』。砂原茂一医師の著書『医者と患者と病院と』の中にある、19世紀の結核医トルドーの言葉です。いつの時代にも難病はあります。どんな時も匙を投げるのではなく、常に患者さんや家族に寄り添い慰める精神を忘れてはならないと思っています」

Let’s Team Oncology ― 患者さん・医療従事者のみなさんへ

軟部肉腫の治療は専門施設に

軟部肉腫は無痛性のしこりで、多くの場合はしこりを取るだけの簡単な手術のため、一般病院でも施術は可能です。しかし、もしも悪性だったら命にかかわります。たとえ小さな腫瘍やしこりでも生検や治療はせずに、すぐに専門施設を紹介してください。そうすることで軟部肉腫の治療成績が上がり、よりよい治療へとつながるのです。

「骨の腫瘍は整形外科で」ということは知られていますが、軟部腫瘍についてはまだまだだと感じています。医師会やセミナーなどいろいろな機会を見つけて骨軟部腫瘍、特に軟部腫瘍とはどんな病気かを説明し、必ず専門医にまかせてほしいと呼びかけています。

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