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手足の切断を回避する軟部肉腫の小線源療法
高線量の放射線照射で広範切除をせずに根治が可能

監修:下瀬省二 広島大学病院整形外科助手
取材・文:守田直樹
発行:2005年5月
更新:2013年4月

  
下瀬省二さん
広島大学病院整形外科助手の
下瀬省二さん
権丈雅浩さん
広島大学病院放射線科助手の
権丈雅浩さん

軟部肉腫は難治性の腫瘍であり、最初の治療によって予後に大きな差が出る。

治療は、手術や抗がん剤治療が基本となるが、腫瘍周囲の正常組織にがん細胞が入り込んでいることが多く、手術は広範囲で切り取ることが重要だ。

そのため、手足の切断もやむを得ないこともしばしばある。

近年の技術進歩により再建も可能となったが患者のQOLは大きく損なわれる。

今回ご紹介する小線源療法は高線量の放線量を体内より照射することで、最小限の範囲で切除が可能だ。生存率を損なうことなく切断や再建を免れる、患者に大きな福音をもたらす治療法だ。


軟部肉腫という、身体の軟部組織から発生するがんがある。このがんは、悪性軟部腫瘍とも呼ばれる。軟部組織とは、胃や肺などの臓器や骨と皮膚を除く、筋肉、腱、脂肪、血管、リンパ管、神経などのこと。軟部肉腫は四肢(腕や足)や頭頸部など体内の広範囲に発生し、腫瘍の種類も30種類以上にのぼる。その代表例として悪性線維性組織球腫や脂肪肉腫、血管肉腫、線維肉腫などが挙げられる。

国内での発生率は10万人に2人と少なく、治療は経験の豊富な大学病院などの専門病院で受けることをおすすめする。

根治のためには、早期に発見して進展範囲を詳しく調べた後、外科手術での完璧な腫瘍の切除が最も重要になる。さらに軟部肉腫の場合は、腫瘍の周囲から3センチ以上広く切り取る手術(広範切除)が一般的。正常組織にも腫瘍細胞が入り込むことがあるため、再発防止のために広範切除を行うわけだ。

写真:小線源療法による放射線照射の様子
実際の小線源療法による放射線照射の様子

しかし、腫瘍のできた場所により、広く切り取るのが困難なケースがある。特に大切な神経や血管などに接していると、根治のためには手足を切断せざるを得なくなることが多かった。

切断には多大な精神的ショックが伴ううえ、手術後のQOL(生活の質)も大きく低下する。これを避けるために行われるのが小線源療法による「患肢温存療法」である。

乳がんにおける「乳房温存療法」と同じように、手足の温存が手術後の放射線治療によって可能になったのだ。

メリットは放射線治療期間の大幅な短縮

[大畑さんのMRI画像]
大畑さんのMRI画像

腫瘍が大腿骨に近接しているのが見て取れる。主要な静脈、神経にも近接しており、切断や組織移植なしに広範切除は不可能だった

この治療を受けて足の切断を避けられた患者の例を紹介しよう。

大畑敏夫さん(仮名)が、開業医の紹介で広島大学病院を訪れたときは、すでに右の太ももが異様に大きく腫れ上がった後だった。

軟部肉腫のやっかいな点として、はっきりとした自覚症状が出ないことが挙げられる。皮下や深部にできたシコリ(腫瘤)は患部周辺がなんとなく全体的に腫れたり、熱っぽさを感じる程度。痛みが出ることも少ないので、どうしても受診が遅れてしまうのだ。

大畑さんは、すぐにレントゲンやCT、MRIやエコーなどの検査をし、患部を切って細胞を取り出して調べる切開生検を受けた。その結果、軟部肉腫の中で最も患者数の多い悪性線維性組織球腫の診断を受けた。高齢者に多い軟部肉腫で、肺などへも転移しやすいがリンパ節や遠隔転移は無かった。しかし、診断時ですでに腫瘍は10センチの大きさに達し、太ももの大きな静脈や神経にまで接近しており、広範手術は困難だった。

通常ならば根治のために足を切断するか、大きく切り取って筋肉や神経を再建するしかない。しかし、77歳の大畑さんにこうした治療はあまりにも負担が大きく、患肢温存療法を選択した。広範切除ではなく、腫瘍の端のぎりぎりのところで切り取る辺縁切除を行い、その10日後から5日間の放射線治療を開始。結局、手術後3週間ほどで退院でき、治療後2年1カ月を経たが、転移も無く自宅で元気に過ごしている。

この患肢温存療法を先進的に採り入れた医療機関の1つが広島大学だ。広島大学病院整形外科助手の下瀬省二さんは、患肢温存を目的とした小線源療法をこう語る。

「軟部肉腫では患肢を切断せざるを得ない症例も多かったのですが、切断という患者にとって大きな負担を避ける方法として10年ほど前から小線源療法を行ってきました」

この小線源療法こそ、患肢温存療法の主役である。放射線といえば身体の外からX線を当てる体外照射を思い描く読者も多いだろうが、小線源療法は患部に放射線を直接当てる組織内照射の1つ。イリジウムという放射性同位元素を使い、高線量を使って一気に腫瘍をたたく方法だ。

この小線源の機械を最も早く採り入れたのは大阪大学で、広島大学は次いで1992年4月に高線量イリジウム装置を導入。子宮頸がんの治療から使い始め、軟部肉腫にも1995年7月から適用している。

広島大学における軟部肉腫の手術件数は1986~2000年までに111例。

「機械を使い始める前の95年までは56例中18例で患肢の切断が行われましたが、それ以降は55例中、3例です」と下瀬さんは言う。

[小線源を用いた3D照射の図]
小線源を用いた3D照射の図

腫瘍にあわせてチューブを等間隔に並べていく。手術終了後にチューブに小線源を挿入し、放射線治療を行う

患者にとって最大のメリットは患肢の温存だが、もう1つの魅力が放射線治療期間の短縮だ。

「普通の体外照射なら退院後、5週間も治療のために通院しなければなりませんが、この治療なら手術後の放射線治療は、わずか5日間の入院で済みます」(下瀬さん)

軟部肉腫に対する小線源療法では、手術の際に放射線を出す線源を挿入するためのチューブを患部に入れる。手術後1週間~10日後から小線源療法を行う際には、このチューブへ針金状の線源を通して放射線を照射することになる。傷が癒えたあとの抜糸と同時にチューブも抜去できるのは、1日でも早く退院したい患者にとって大変な朗報だ。しかも最も気になる再発率も、2003年までの30例の症例で、治療を行った患部からの局所再発は2例に抑えられており、信頼度も高いと言える。


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