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旬の味覚をおいしく食べて、元気に過ごそう!
乳がん予防・治療中・治療後の「元気が出る」食事法

監修:福田護 聖マリアンナ医科大学教授乳腺・内分泌外科部長
取材・文:池内加寿子
発行:2007年12月
更新:2019年7月

  
福田護さん
聖マリアンナ医科大学教授
乳腺・内分泌外科部長の
福田護さん

乳がんの治療中、治療後にはどんな食事を摂ればよいか? 再発を防ぐためにはどんなことに気をつけたらよいのか?

多くの方が感じている疑問でしょう。この切実な、しかし難しい問いに向き合って、「乳がんと食事」に関する国内外の研究を幅広く考察した乳がん専門医・福田護さんのアドバイスをご紹介します。

また、乳がん予防と治療中・治療後別「おいしいレシピ」もあわせてご覧ください。

患者さんのサポーターとして相談にのる

巷には「乳がんと食事」についてのいろいろな情報があふれ、たとえば、「大豆イソフラボン」のように、患者さんが迷うこともあるようです。

従来、医師はあまり言及しなかった「乳がんと食事の関係」について、海外の乳がん治療や食事・栄養研究にも詳しい聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科教授の福田護さんは、「私たち専門医も治療するだけでなく、食事について何が重要なのか混沌とした情報を交通整理して、患者さんの相談にのれるサポーターでありたいですね」と話します。

「ただし、乳がんは発症するまでに20年、30年と長期間かかるので、食事との関連を検証するのは難しいものです。国内外で疫学(コホート)研究や臨床試験が重ねられていますが、研究によって結論が異なることや、今までの常識が修正されることも少なくありません。
さらに、食物や栄養素に対する感受性の違いなど個人差があり、ファジーな要素も多いので、治療のときに用いられるEBM(科学的根拠に基づく医療)の発想だけでは割り切れない面もあります。そこで、できるだけEBMのスタンスを保ちながら、少なくともよくないと分かっている(または可能性がある)食事は避け、個人個人の体内環境に合わせておいしく楽しく食べて元気に生きるための方策を提案しようと考えました」

福田さんは乳がんの予防・治療中・治療後それぞれの時期に合わせた食事と栄養の考え方を提案し『乳がんの人のためのレシピ』(法研刊)という著書にまとめています。今回は、新しいデータも交えて詳しく解説していただきました。薬膳を採り入れた旬のレシピは、乳がん予防と治療中・治療後別「おいしいレシピ」をご覧ください。

乳がんの死亡率・罹患率日本と米国の差

日本では近年乳がんが増加し、1998年に乳がんの罹患率が胃がんを抜いて女性のがんのトップになり、死亡率も上昇し続けています(図1)。

[図1 わが国における乳がん]
図1 わが国における乳がん

「一方、アメリカでは1990年代初頭から乳がんの死亡率が下がり始め、右肩上がりだった罹患率も2004年に初めて上昇が鈍化し、話題になりました」

アメリカの乳がん死亡率の低下には、治療法の進歩やマンモグラフィの普及が関係していますが、罹患率までもが減少し始めたのは、食事や運動、その他の生活習慣が見直されたことによるといわれています。きっかけは、1977年の『マクガバンレポート(注1)』で、『がんや心臓病は動物性脂肪や砂糖などの過剰摂取、野菜、果物、ビタミン、ミネラル、食物繊維の摂取不足が原因の食原病であり、即刻改善する必要がある』という提言です。

その後、アメリカ農務省作成の食事指針ピラミッド等が普及し、『主食、野菜、果物を中心にして、脂肪、甘味は控えめにする』食生活へと軌道修正されたことが、乳がん罹患率上昇の鈍化や死亡率の低下に関与していると報告されています。

「また、昨年末アメリカで行われたキャンサー・シンポジウムでは、乳がん罹患率の変化の原因として、ある種の薬剤(アスピリンなどの消炎鎮痛剤、骨粗鬆症治療薬のラロキシフェン、ビタミンDなど)の服用や、HRT(ホルモン補充療法)の減少(注2)などが、乳がん予防効果をもたらしたのではないかと論じられ、トピックスとなりました(注3)」

一方、日本で乳がんの罹患率・死亡率が上昇を続けているのは、幼少時の栄養過多や欧米型食生活など、ライフスタイルの影響が大きいといわれています(注4)。

「乳がんのリスク要因は、初潮が早く閉経が遅い、初産年齢が高いなど、女性ホルモンのエストロゲンにさらされる期間の長期化や、若年期の栄養過多に関連する高身長などが挙げられます」(表1)

[表1 乳がん発症リスク 低リスク群と高リスク群の比較]

  低リスク 高リスク 相対リスク(RR)
リスク因子
初潮年齢 >14 12 1.5
初産年齢 <20 30 1.9-3.5
閉経年齢 <45 55 2
経口避妊薬の使用 使用歴なし 使用歴あり、最近使用 1.07-1,2
HRT(エストロゲン単独) 使用歴なし 最近使用 1.2-1.4
母または姉妹が乳がん なし あり 2.6
アルコール なし 2-5杯/日 1.4
良性乳腺疾患生検の既往 なし あり 1.7
予防因子
授乳(月) ≧16 0 0.73
出産回数 ≧5 0 0.71
運動 行う 行わない 0.7
閉経後のBMI(kg/m2) <22.9 >30.7 0.63
HRT:ホルモン補充療法 BMI:肥満度 Clemons M他 N Engl J Med 344: 276, 2001

幼少時や思春期の栄養状態がよいと、エストロゲンの影響が早く、強くなる可能性があるのです(注5)。乳がんリスクは女性の自立による晩婚や未婚、少子化、飲酒の増加などのライフスタイルとも密接な関係があり、東京などの都市部では乳がん罹患率が高く、検診率は低いために死亡率も高いのが現状です。

「これらのリスクファクターは回避しにくいものですが、それを補うのが自分自身でコントロールできる食事などの生活習慣です」と福田さんは強調します。

「乳がんの促進因子(またはその可能性があるもの)は、エストロゲンのほか、閉経後の肥満、アルコールの摂取、高脂肪食など、また、抑制因子は、野菜・果物、運動、適度の休養などです。乳がん促進因子を減らし、抑制因子を増やせば、臨床的ながんの発症を抑えたり、増殖速度を遅らせたりすることができると考えられます(図3)。
乳がんの食事のポイントは、主食、野菜料理、魚料理を比較的多く摂り、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取量と脂肪から摂るエネルギーは控えめにして、牛乳・乳製品、果物を加えることを基本として、全体のバランスは保ちながら、予防、治療中、治療後、それぞれの時期や治療法に合わせて考えることです。治療中であれば、ホルモン治療や抗がん剤治療の妨げにならない食材、治療による副作用を和らげる食材や調理法を選びましょう」

一般向けに厚生労働省で発表している「食事バランスガイド」(図2)も参考になります。

[図2 食事バランスガイド]
図2 食事バランスガイド

コマの区画を、食べた量(サービング数 1サービングは、およそ1回の食事に食べる量=ご飯なら小1杯、りんごなら半分)に合わせて塗っていき、上部が広がる形になればバランスがよい。コマの一部分が飛び出していたら食事が偏っている
[図3 乳がんができるまでの急な階段と緩やかな階段]
図3 乳がんができるまでの急な階段と緩やかな階段

注1:当時の上院議員マクガバンが発表
注2:数年前に、HRTは乳がんのリスクを高めると報告(WHI)され、HRTを受ける人が減少。ただし、対象は肥満女性で、日本女性にはあてはまらないとする意見もある
注3:アメリカの乳がん罹患率上昇の鈍化は、乳がん死亡率の低下、自身のHRTの中止などによりマンモグラフィ検診を受ける人が減少し、乳がん発見数も減少したための見かけ上の数値との見解もある
注4:ブラジルやアメリカの日系人の乳がん罹患率は、日本国内の2~5倍。食生活が乳がん罹患率と関連すると推測されている
注5:思春期に植物油、食物繊維の摂取量が多いと乳がんリスクが低く、バターの摂取量が多いとリスクが高い(Frazier ALほか:Breast Cancer Res.5:59-64 2003)

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