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CDK4/6阻害薬は乳がんホルモン療法期待の新薬

ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がんに、イブランスに続きベージニオも承認間近

監修●向井博文 国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長
取材・文●半沢裕子
発行:2018年6月
更新:2019年8月

  

「ベージニオはセカンドラインより後のラインでも併用で使えるかもしれないなど、さまざまな可能性が考えられます」と語る
向井博文さん

2017年3月に米国食品医薬品局より正式承認され、同年12月には日本でも販売開始となったCDK4/6阻害薬イブランス。これにすぐ続く形で、同系統のベージニオが昨年9月と今年2月に米国食品医薬品局によって承認された。秋には日本での承認もほぼ確実視されている。ホルモン療法との併用で無増悪生存期間(PFS)を倍以上に伸ばす可能性のあるこの新薬について、イブランスとの比較も含め、どんな薬なのか検証した。

イブランスに続き、CDK4/6阻害薬をFDAが承認

昨年(2017年)3月、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害薬イブランス(一般名パルボシクリブ)が、ホルモン受容体(HR)陽性、ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)陰性の進行・転移性乳がんの初回内分泌療法として米国食品医薬品局(FDA)に正式承認され、日本でも同年9月に販売承認、12月に発売が開始された(アロマターゼ阻害薬との併用)。

そして、昨年9月と今年2月、同じCDK4/6阻害薬のベージニオ(一般名アベマシクリブ)が、同じくHR陽性、HER2陰性の進行・転移性乳がんのホルモン療法として、FDAに承認された。これを受けて、承認の基礎データとなった「ベージニオ+内分泌療法(A群)」と「内分泌療法(B群)」の国際第Ⅲ相試験に国立がん研究センター東病院も参加した。

この治験の責任医師である国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長の向井博文さんは、今後の見通しとして次のように語る。

「ベージニオ(一般名アベマシクリブ)も昨年、我々も参加した世界的な治験で連続的にいいデータが出ています。今年秋口くらいには日本でも承認されるのではないかと言われています」

ここでは日本でも承認間近と思われるベージニオの対象となる患者さん、効果、副作用などをまとめたいと思うが、その前に、そもそもサイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害薬とはどんな薬なのか、見ていこう。

「ベージニオ」トピック

ベージニオ(一般名アベマシクリブ)は2018年11月に保険適用になったが、その後、2019年5月厚労省は安全性速報「ブルーレター」を出して、重篤な副作用「間質性肺炎」の注意喚起を行なった。それを受けて、国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科医長の向井博文さんは「広く使われ始めてから初めて、開発時にはなかった副作用がわかることもある」として、1〜2年かけて前向きと後ろ向きの試験を行う意向だ。

伝達経路の最下流で細胞周期を止めるCDK4/6阻害薬

細胞は分裂することで細胞膜、核、ミトコンドリアなどを含む全体が倍々に増えるが、1回の細胞分裂はS期→G2期→M期→G1期という細胞周期が1回転することで起こると考えられている。この細胞周期を止め、G1期からS期に進ませないのが、がん細胞の増殖を止める多くの薬剤のメカニズム。

日本人の乳がんの3分の2以上はホルモン陽性、つまり、ホルモンによって刺激が伝達され、がん増殖に働くタイプのがんとされるが、その伝達経路はいくつもあるとされている。例えばアフィニトール(一般名エベロリムス)のようなmTOR阻害薬は、PI3K/Akt経路をブロックすることで細胞周期をストップさせると考えられている。

CDK4/6阻害薬もそうした薬剤の1つ。サイクリンDというタンパク質はサイクリン依存性キナーゼ4および6という酵素(CDK4/6)と合体して複合体を作るが、この複合体ががん抑制遺伝子RBに結合すると、RBがリン酸化(Phosphorylate)し、それによりRBに結合していた転写因子E2Fが離れ、S期への進行やDNA複製に必要な遺伝子群が発現すると考えられている。CDK4/6阻害薬は文字通りCDK4/6の働きを阻害することで、RBがリン酸化するのを防ぎ、細胞周期がG1期からS期に移行しないようにする(図1)。

向井さんは言う。

「サイクリンDはホルモン受容体伝達経路の最下流にある物質で、CDK4/6はここに働くタンパクですが、例えばホルモン療法のアロマターゼ阻害薬も最終的にサイクリンDの阻害にかかわっていると考えられています。つまり、上流から細胞増殖をブロックしているのがホルモン(内分泌)療法、下流でブロックしているのがCDK4/6阻害薬ということができると思います」

CDK4/6阻害薬は期待の星

このように細胞増殖をブロックするCDK4/6阻害薬は、近年最も期待されているがん治療薬の1つだ。実際、イブランスもベージニオも米国食品医薬品局(FDA)によってブレークスルー・セラピー(画期的新薬)の指定を受け、迅速に承認されてきた。この2薬は同じカテゴリーの薬剤であり、共通点も多いが、ここでは相違点に焦点を当てながらその対象、効果、副作用について整理してみよう。

イブランスは2017年3月にFDAで承認され、日本では同年9月27日に承認され、12月15日に販売開始となっている。承認のもとになっているのは日本も参加している2つの大規模な国際共同第Ⅲ相試験(PALOMA-2、PALOMA-3)だ。その結果、以下の2タイプの用法で適用となっている。

イブランス①(PALOMA-2)

・対象はエストロゲン受容体(ER)陽性で、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陰性(HER2-)の、進行または転移性乳がんの患者さん(閉経後)。

・治験では初回ホルモン療法(ファーストライン)で、ホルモン薬との併用投与。併用する薬剤はフェマーラ(一般名レトロゾール)。

・治験では、がんが増殖しなかった期間(無増悪生存期間、PFS)中央値が24.8カ月(併用)対14.5カ月(ホルモン療法単独)と大幅に優位な結果が出ている(登録患者数は666人)。

イブランス②(PALOMA-3)

・対象はエストロゲン受容体(ER)陽性で、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陰性(HER2-)の、進行または転移性乳がんの患者さん(閉経前も閉経後も対象)。

・治験ではホルモン療法を受けたあとに進行した患者さんに対し、二次治療(セカンドライン)のホルモン療法にイブランスをプラス。併用する薬剤はフェソロデックス(一般名フルベストラント)。

・治験では、無増悪生存期間中央値が9.2カ月(併用)対3.8カ月(ホルモン療法単独)とこちらも大幅に優位。中間解析の時点ですでに2群間に有意な差が出たのだが、まだ試験は継続されている。

単剤でも効果が期待できるベージニオ

ベージニオは以下①②をもとに2017年9月28日に米国のFDAにおいて承認され、今年2月26日、③についても追加承認されている。

承認のもとになっているのは、やはり2つの大規模な国際共同第Ⅲ相試験(Monarch-2、Monarch-3)、そして第Ⅱ相試験(Monarch-1)だ。その結果、以下の3タイプの用法で適用となっている。

ベージニオ①(Monarch-2)

・対象はホルモン受容体(HR)陽性で、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陰性(HER2-)の、進行または転移性乳がんの患者。

・治験ではホルモン療法を受けたあとに進行した患者さんに対し、二次治療(セカンドライン)のホルモン療法にベージニオをプラス。併用した薬剤はフェソロデックス(一般名フルベストラント)。

・治験では無増悪生存期間中央値が16.4カ月(併用)対9.3カ月(ホルモン療法単独)と、非常に有効な結果になっている(登録患者数669例)(図2)。

ベージニオ②(Monarch-1)

・対象はホルモン受容体(HR)陽性で、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陰性(HER2-)の、転移性乳がんの患者。

・治験ではホルモン治療中または治療後に増悪が認められ、転移性乳がんに対する化学療法レジメン(治療計画)を1回または2回受けた患者さん。

・ベージニオ単独での投与。

・治験では全奏効率(ORR)が19.7%、奏功期間が8.6カ月で、複数の前治療のある患者さんに対する有効性が確認された(登録患者数132例)。

ベージニオ③(Monarch-3)

・2018年2月26日、FDAにより追加承認された。

・対象はホルモン受容体(HR)陽性で、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)陰性(HER2-)の、進行または転移性乳がんの患者(閉経後)。

・治験では、初回ホルモン療法(ファーストライン)の患者に対し、ホルモン薬との併用投与。併用する薬剤はアロマターゼ阻害薬NSAI(アナストロゾールまたはレトロゾール)。

・術前・術後ホルモン療法の患者も対象。その場合は無病期間がホルモン療法終了から12カ月を超えていることが条件。

・治験では、無増悪生存期間中央値が28.2カ月(併用)対14.8カ月(ホルモン療法単独)と、非常に優位な結果が得られている(登録患者数493例)。こちらもまだ終了していない人がいるくらい、非常によく効いているとのこと。

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