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1次治療後の新たな治療法が登場! ホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移・再発乳がん治療

監修●上野貴之 がん研有明病院乳腺センターセンター長
取材・文●柄川昭彦
発行:2024年9月
更新:2024年9月

  

「現在の標準治療は、1次治療か2次治療でCDK4/6阻害薬を使うことになっているので、トルカプは2次治療か3次治療で用いる薬ということになります」と語る
上野さん

かつてはホルモン療法薬の単剤療法が標準的な1次治療だったが、現在はCDK4/6阻害薬を併用するのが標準治療となっている。1次治療が新しくなったことで、エビデンスのある2次治療がない状態が続いていた。昨年、分子標的薬のトルカプとフェソロデックスの併用療法の有用性が証明され、新しい2次療法が登場することになった。ホルモン療法の耐性に関与する3つの遺伝子の1つ以上があることが、トルカプを使用するための条件となっている。

新しい1次治療後の最適治療が確立されていなかった

ホルモン受容体陽性・HER2陰性の乳がんの患者さんは、乳がん全体の70〜80%を占めていると言われています。

「転移・再発乳がんに限ると、難治性のタイプの割合が増えると考えられるので、もう少し減るかもしれませんね。それでも、このタイプの乳がんの患者さんが多いのは確かです」とがん研有明病院乳腺センターセンター長の上野貴之さんは説明してくれます(図1)。

このホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんの転移・再発例に対する1次治療として、最新の診療ガイドラインではホルモン療法薬とCDK4/6阻害薬の併用療法が強く推奨されています。CDK4/6阻害薬として使われるのは、ベージニオ(一般名アベマシクリブ)やイブランス(一般名パルボシクリブ)といった薬剤です。

「それ以前はホルモン療法薬単剤での治療が標準治療でしたが、現在では、CDK4/6阻害薬との併用療法が標準治療となりました。それによって病勢増悪までの期間が延びたわけですが、1次治療が効かなくなって2次治療となったときに、エビデンス(科学的根拠)のある治療法が存在しないという状況が生まれてしまったのです。1次治療がホルモン療法薬単剤だったときには、確立された2次治療があったわけですが、1次治療が新しくなったことで、その後に何を使えばいいかについて、エビデンスのある治療法がない状況になってしまったということです」(図2)

たとえば、『乳癌診療ガイドライン2022年版-2024年3月WEB改訂版』では、「閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳癌の二次内分泌療法として何が推奨されるか? 一次内分泌療法として、アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬の併用療法を行った場合」という質問に対して、「二次内分泌療法として最適な治療法は確立していない」という答えが記載されています。

2次治療を何とかしなければならなかったわけですが、分子標的薬のトルカプ(一般名カピバセルチブ)とホルモン療法薬の併用療法の有用性が認められ、いま2次治療の新たな一手として注目を集めています。トルカプは2024年3月にホルモン受容体陽性乳がんの治療薬として承認され、すでに実際の臨床現場で使用されています。

がん細胞の増殖に関わる経路を遮断する分子標的薬

トルカプがどのような働きをする薬なのかを、簡単に解説してもらいました。

「ホルモン受容体陽性乳がんに対してホルモン療法を行っていると、いずれホルモン療法に対する耐性が生じてきます。この耐性ができるメカニズムの1つに、細胞増殖のシグナルが関わっているのですが、その重要な1つが、PI3K-AKT-PTEN経路なのです。この経路の活性が高まると、ホルモン療法が効かずに、がん細胞の増殖が進んでしまいます。トルカプはAKT阻害薬で、この経路を遮断する働きをします。それによって、ホルモン療法に対する耐性を克服することができるわけです。ホルモン療法に対する耐性のすべてがこの経路に関係しているわけではありませんが、この経路が耐性に大きな影響を及ぼしていることは確かです」

トルカプは、PI3K-AKT-PTENの経路を遮断するために開発されたAKT阻害薬です。そして、トルカプの有用性を証明するために「CAPItello-291試験」という臨床試験が行われました。HR陽性HER2陰性で手術不能の再発乳がんの患者さん708人を対象にした国際共同試験で、日本人の患者さん78人も含まれていました。

対象者をランダムに2群に分け、一方にはトルカプ+フェソロデックス(一般名フルベストラント)を投与し、もう一方にはプラセボ+フェソロデックスを投与しました。フェソロデックスは、1次治療でホルモン療法が行われたときに、2次療法で使われてきたホルモン療法薬です。

対象となった患者さんのうち、ホルモン療法の耐性に関係すると考えられる3つの遺伝子変異(PIK3CA、AKT1、PTEN)のうち少なくとも1つが陽性だった患者さんは、40.8%を占めていました。残りの59.2%のうち44.2%が3つの遺伝子変異が認められなかった人で、15%は変異が測定できていない人です(図3)。

試験の結果を、対象者全体の集団と、3つの遺伝子変異の1つ以上が認められる集団で比較すると、遺伝子変異が認められる集団のほうが優れた治療成績を示していました。

そして、遺伝子変異が認められる集団を対象に解析すると、進行する可能性を50%低下させることが明らかになりました。PFS(無増悪生存期間)中央値も、プラセボ+フェソロデックス群が3.1カ月なのに対し、トルカプ+フェソロデックス群は7.3カ月で、4カ月余り延長していました(図4)。

この臨床試験の結果によって、トルカプは乳がんの治療薬として承認されることになりました。適応は「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」となっています。

「CAPItello-291試験」の対象者の中で、前治療でCDK4/6阻害薬を使っていたのは7割ほどで、3割くらいの患者さんはCDK4/6阻害薬を使っていませんでした。そうしたこともあり、1次治療でCDK4/6阻害薬を使っていた人でも、使っていなかった人でも、トルカプを使うことはできます。

「現在の標準治療は、1次治療か2次治療でCDK4/6阻害薬を使うことになっているので、厳密に言うと、トルカプは2次治療か3次治療で用いる薬ということになります」

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