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術後のホルモン療法は10年ではなく7年 閉経後ホルモン受容体陽性乳がん試験結果

監修●中村清吾 昭和大学病院乳腺外科主任教授・診療科長/ブレストセンター長
取材・文●半沢裕子
発行:2021年11月
更新:2021年11月

  

「SALSA試験の内容は信用に足るもので、最近は当院でも7年で止めるよう指示をしています」と語る中村清吾さん

閉経後の乳がん患者さんが術後に投与されるホルモン療法薬のアロマターゼ阻害薬。再発予防効果が期待される一方、副作用との兼ね合いで、何年が最適な服用期間なのか、エビデンスが待たれていた。

そんな中、長期投与群(10年)と短期投与群(7年)を比較したSALSA試験報告がNEJM誌(ザ・ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン)に掲載された(2021年7月)。この試験結果を踏まえ、今後、術後ホルモン療法としてのアロマターゼ阻害薬の使い方は、患者さんの再発リスクに応じて、どのように判断されるのか。昭和大学病院乳腺外科主任教授・診療科長の中村清吾さんに伺った。

閉経後のアロマターゼ阻害薬の服用期間は?

乳がんには女性ホルモン(エストロゲン)を利用して増殖するタイプのものがあり、これを「ホルモン受容体陽性」と呼ぶ。そのため、手術のあと、エストロゲンの働きを抑えるためのホルモン療法(内分泌療法)の対象になるのは、エストロゲン受容体(ER)かプロゲストロン受容体(PgR)のいずれかが認められるステージⅠ~Ⅲのホルモン受容体陽性の患者さんである。

ホルモン受容体陽性は、乳がん患者全体の70~80%を占めているため、多くの患者さんは長期のホルモン療法を受けることになる。

その乳がんのホルモン療法とは、エストロゲンの産生を抑え、エストロゲンががん細胞内のエストロゲン受容体に結合するのを阻害することでがんの増殖を抑える療法だ。ところがエストロゲンは産生される場所が、閉経前と閉経後では異なる。

閉経前は主に卵巣で作られ、閉経後は卵巣機能の衰えによりエストロゲンの産生が減り、副腎皮質からアンドロゲンという男性ホルモンが分泌され、アロマターゼ(酵素)の働きによってエストロゲンが作られるようになる。閉経前と閉経後で治療薬が異なることがあるのは、こうした違いのためだ(図1)。

閉経後に使われるのは主に抗エストロゲン薬とアロマターゼ阻害薬。抗エストロゲン薬は、がん細胞にあるエストロゲン受容体にくっつくことで、がん細胞がエストロゲンを取り込めないようにする薬。アロマターゼ阻害薬はアンドロゲンからエストロゲンが作られる過程に欠かせないアロマターゼ酵素の働きを阻害することで、エストロゲンが作られないようにする薬だ。いずれも長く続ければ再発防止効果が続くと考えられている。

代表的な抗エストロゲン薬は、ノルバデックス(一般名タモキシフェン)。この薬は閉経前にも閉経後にも使われるが、術後にまず5年間服用することで再発のリスクを半減できる可能性があるとされている。また、最初からノルバデックスを飲んでいるハイリスクの患者さんは、10年間服用することになっている。

アロマターゼ阻害薬はノルバデックスのあとに登場した薬だが、アリミデックス(一般名アナストロゾール)、フェマーラ(同レトロゾール)、アロマシン(同エキセメスタン)の3種類がある。

術後5年間の服用をアロマターゼ阻害薬とノルバデックスとを比較した試験で、再発防止効果がアロマターゼ阻害薬がわずかに上回ったことから、今日、閉経後のホルモン受容体陽性患者さんにはアロマターゼ阻害薬が第1選択で使われることが多い(図2)。

●抗エストロゲン薬――ノルバデックス(一般名タモキシフェン)
(どちらにも使用)
●アロマターゼ阻害薬――アリミデックス(同アナストロゾール)
フェマーラ(同レトロゾール)
アロマシン(同エキセメスタン)

 

ホルモン療法の最適な投与期間の試験結果が明らかに

アロマターゼ阻害薬については、服用期間の長期化に伴い副作用も増加するため、最適な投与期間を確認するための臨床試験が複数行われてきた。そんな中、2021年7月にNEJM誌(ザ・ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン)に掲載されたのが、第Ⅲ相ランダム化比較試験「ABCSG-16/SALSA試験」の報告だった。

「今日、ホルモン受容体陽性の方は、一般的には閉経前の患者さんには術後ホルモン療法薬を10年間継続してもらう方向にあります。しかし、閉経後の患者さんに対するアロマターゼ阻害薬については、多くの臨床医は『長期に服用すると関節痛や骨粗しょう症などの骨関連の副作用が多いのではないか』と、本当に10年服用の必要があるかについては疑問がありました。

今回の報告は、術後にアロマターゼ阻害薬を7年服用した方と10年服用した方で再発率に差がなく、一方、代表的な副作用である骨折は10年間服用した人に多かったという結果でした。つまり、再発リスクが高くなる要因をとくに持たない患者さんは、アロマターゼ阻害薬の服用は術後7年で十分ということが明らかになったのです」と中村清吾・昭和大学病院乳腺外科主任教授・診療科長の中村清吾さん。

オーストリアで行われた「ABCSG-16/SALSA試験」は、術後5年間のホルモン療法後に2年間と5年間に1:1の割合で無作為に割り付け、アロマターゼ阻害薬のアリミデックスを追加投与し、その有効性と副作用を比較した試験だ。

試験の対象となったのは閉経後で、80歳以下、早期(ステージⅠ~Ⅲ)で再発が認められない浸潤性ホルモン受容体陽性乳がんで、術後に5年間のホルモン療法(ノルバデックス、アロマターゼ阻害薬またはその両方)を終えた再発していない患者3,484人。2年以内に再発した例などを除く3,208人の結果が解析された(2年追加群1,603例、5年追加群1,605例)。

効果に差はないが、骨折リスクは5年追加投与群が高い

発表されたのは118.0カ月(中央値)の追跡結果で、2年追加群は追加投与終了8年後、5年追加投与群は追加投与終了5年後の10年時、無病生存率(DFS)を主要評価項目とする。副次評価項目は全生存率(OS)、対側乳がん発症、2次原発がん発症、および臨床的骨折だった。

DFSは2年追加群で73.6%、5年追加群73.9%で、有意差が認められなかった。また、OSも2年追加群87.5%、5年追加群87.3%と差がなく、対側乳がんリスクや2次原発がん発症リスクにも有意差が認められなかった。

一方、骨折リスクは2年追加群4.7%に対し、5年追加群は6.3%で35%高いという結果だった。アロマターゼ阻害薬の副作用にはほかにホットフラッシュ、骨痛、関節痛などが報告されているが、「SALSA試験」で重篤な有害事象として認められたのは変形性関節炎で、これも2年追加群で2.3%、5年追加群4.0%と、長期投与群に多く見られた(図3)。

効果と副作用の関係について中村さんは、「ホルモン療法薬は抗がん薬に比べ副作用が少ないといわれますが、長期に服用すれば、骨粗しょう症などの副作用は大変だと思います。中でも、骨折は絶対に避けたいですよね。しかも、骨折の中で多いのは背骨の圧迫骨折や大腿骨頚部の骨折です。治癒に時間がかかり、歩行が困難になるなどQOL(生活の質)にも大きな影響を与えます。ですからアロマターゼ阻害薬の服用7年と10年で再発リスクは変わらず、10年では骨折などの副作用だけが多く出るなら、長く服用する意味がありません。私自身も今は7年でやめるよう指示しています」

無病生存率(Disease-Free Survival:DFS)=再発したり、ほかの原因で死亡したりすることなく、患者が生存している割合
全生存率(Overall Survival:OS)=治療法の割り付け日から患者が生存している割合

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