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SONIA試験の結果でもCDK4/6阻害薬はやはり1次治療から ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がん

監修●髙田正泰 京都大学大学院医学研究科乳腺外科学准教授
取材・文●半沢裕子
発行:2023年11月
更新:2023年11月

  

「SONIA試験の結果は1次治療からCDK4/6阻害薬を使わなくてもうまく行く可能性はあるということを保証してくれるデータではありますが、全例で最初から使うのをやめましょうとはなりません」と語る髙田さん

ホルモン受容体(ER)陽性HER2陰性の進行・再発乳がんで、現在1次治療で標準治療となっているCDK4/6阻害薬を、1次治療で使用するか2次治療で使用するか比較した「SONIA試験」。その結果は、1次治療でのCDK4/6阻害薬使用は、2次治療での使用と比較して有意差がなかったというものでした。

その結果でも、「1次治療でCDK4/6阻害薬を使うのをやめるとはならない」と京都大学大学院医学研究科乳腺外科学准教授の髙田正泰さん。その背景には新たに登場する分子標的薬の姿も。SONIA試験結果の解釈と、CDK4/6阻害薬をいつ使えばいいか伺いました。

CDK4/6阻害薬とはどんな薬ですか?

CDK4/6阻害薬とは、乳がんの増殖や転移に関係するシグナルの伝達経路にある酵素、CDK4とCDK6が働かないようにブロックする分子標的薬です。

日本では、イブランス(一般名パルボシクリブ)、ベージニオ(一般名アベマシクリブ)が、ER陽性HER2陰性の進行乳がんの治療薬として保険適用になっています。ベージニオは早期乳がんにも承認されています。もうひとつリボシクリブ(一般名)がありますが、日本では未承認です(図1)。

CDK4/6阻害薬+アロマターゼ阻害薬の併用療法の有効性を示したランダム化比較試験としては「PALOMA2試験」と「MONARCH3試験」という代表的な試験があります。これらの試験結果から、ER陽性HER2陰性の閉経後進行・再発乳がんの1次治療では、CDK4/6阻害薬とアロマターゼ阻害薬の併用療法が、『乳癌診療ガイドライン』で「強く推奨」されることになったのです。

ところがCDK4/6阻害薬を1次か、2次で使用するかの比較試験はありませんでした。

アロマターゼ阻害薬=非ステロイド性:アリミデックス(一般名アナストロゾール)フェマーラ(一般名レトロゾール) ステロイド性:アロマシン(一般名エキセメスタン)

SONIA試験とはどのような試験だったのですか?

SONIA試験は、それを検証する大規模無作為化第Ⅲ相臨床試験でした。結果は「CDK4/6阻害薬の1次治療が無増悪生存期間(PFS1)を延長させたが、PFS2(2次治療の進行までの期間)および全生存期間(OS)は統計学的差が認められない」というものでした。

CDK4/6阻害薬を1次治療で使用すると、投与が長期間に及び、毒性と治療費が増加することもマイナス点として報告されました。

つまり、CDK4/6阻害薬を1次治療で使っても、全生存期間を改善せず、毒性と治療費を増加させる。だから「CDK4/6阻害薬は1次治療での選択肢ではあるが、多くの患者さんには2次治療での使用が好まれるであろう」という結論でした。

結果をもう少しくわしく見てみましょう。

試験はオランダの74病院で、ER陽性HER2陰性進行乳がん患者1,050人において、有効性、安全性、費用対効果を評価するものでした。

A群(1次使用群524人)には1次治療で非ステロイド系アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(イブランス、ベージニオ、リボシクリブ)を投与、2次治療はフェソロデックスを単独投与。B群(2次使用群526人)には1次治療で非ステロイド系アロマターゼ阻害薬を単独投与、2次治療にフェソロデックス+CD4/6阻害薬を投与しました(図2)。

結果は、1次治療におけるPFS(PFS1)中央値はA群24.7カ月 vs. B群16.1カ月とA群が有意に延長していたが、PFS2中央値は31.0カ月 vs. 26.8カ月で、「統計学的有意差が認められなかった」と結論づけられました。全生存期間(OS)中央値はA群45.9カ月 vs. B群53.7カ月で、これも有意差なし。

CDK4/6阻害薬投与期間の中央値はA群24.6カ月 vs. B群8.1カ月で、A群が16.5カ月長いというものでした。QOL(生活の質)は有意差なし。一方、安全性(有害事象)については、グレード3以上がA群で42%多く、費用もA群が20万ドル高いという結果でした(表3)。

SONIA試験の解釈で注意すべき点はどこですか?

結果の解釈において注意すべき点のひとつは、SONIA試験のKCDK4/6阻害薬は91%がイブランスだった点です(リボシクリブ8%、ベージニオ1%)。

ベージニオやリボシクリブでSONIA試験を行っていたら、今回と同じような結果になったかはわかりません。

というのは、イブランスとベージニオは同じCDK4/6をブロックするのですが、薬剤の構造自体は全然違います。CDK4と6を阻害する強さやバランスに違いがあると言われています。それに伴い、アポトーシス(細胞死)を誘導する強さが違うなどのデータもあります。これまではイブランスとベージニオは、臨床的効果は変わらないだろうという理解でしたが、効果に違いがあるかもしれないとする傍証が出てきています。

ベージニオは現在、早期乳がんの術後治療薬としても保険適用されていますが、イブランスは早期乳がんの術後治療の臨床試験で結果が出せず、保険適用になりませんでした。

3薬のうち、再発治療での効果が最も先行して報告されているのはリボシクリブです。再発の1次治療でも2次治療でも全生存期間(OS)を延長することが確認されています。ベージニオも1次治療の臨床試験「MONARCH3試験」の中間報告で、リボシクリブと同じくらいの結果が出せそうではないかと期待されています。

ただ、イブランスは血液毒性などの副作用はありますが、自覚症状として出る副作用が2薬に比べてかなり少なく、患者さんにとってはとても使いやすい薬です。

もう1つの注意点は、2次治療の内容です。SONIA試験での2次治療のフェソロデックス単独という試験デザインは、CDK4/6阻害薬後の次の治療の臨床試験データが出てくる今後の状況には合わなくなってくるかもしれません。

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