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新薬の登場で選択肢が増える 乳がんの再発・転移の最新治療

監修●德留なほみ 静岡県立静岡がんセンター女性内科部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2024年5月
更新:2024年5月

  

「サブタイプによって全く治療法が違うので、少なくともご自分の乳がんのサブタイプがなんであるか知っておくことが大切です」と德留さん

乳がんは、女性の罹患者数が最も多いがんですが、新薬などにより治療成績が向上しています。しかし、再発・転移は根治が難しいのですが、今年(2024年)3月には、ルミナルタイプの再発・転移乳がんに新薬が承認されましたし、トリプルネガティブにも現在承認待ちの新薬が控えています。

そこで今回は、静岡県立静岡がんセンター女性内科部長の德留なほみさんに、乳がんの再発・転移の最新治療についてお伺いしました。

乳がんの再発・転移の原因は?

まだ今の医学レベルではわかっていないことも多くあるのですが、原発巣の中にあったがん細胞が血管、脈管の中に入り込んで、それが流れて全身に飛んでいき、その着地した先で出てくるのが転移だと考えられています。しかし、いろんな説がありすべては解明されていません。

「乳がんの転移は、微小転移の顕在化によるものですが、サブタイプによっても再発の時間軸は全然違っています。トリプルネガティブといわれるタイプの乳がんの場合、再発のピークが手術後5年以内なのに対して、それ以外のタイプは5年を過ぎたあとも再発することがめずらしくありません。まれに10年を超えて、なかには20年経ってから再発するケースもあります。術後長期間経ってから再発するのは、ホルモン療法の効果があるものが多い印象です」と静岡県立静岡がんセンター女性内科部長の德留なほみさんは述べます。

乳がんの場合、一般的には治療後10年間、定期検診を行なっているため、定期検診で再発・転移が見つかることが多いそうです。

「おそらく、どこの病院でも定期検診は10年で一区切りになると思います。しかし、10年を過ぎても再発するケースもあるため、定期検診が終わっても、ご自身の健康状態には注意が必要だとは思います」

再発・転移の治療も細分化しているのですか?

再発・転移治療の基本は、薬物療法です。どの薬剤をどのタイミングで使うかなどは、サブタイプ(生物学的特性)によって決まります。

「再発の治療もサプタイプ別に行いますが、ルミナルA・B、HER2、トリプルネガティブと大まかには3つに分けて行います。それぞれ特徴が異なっていて、治療法も異なります」(表1)

では、ここからサブタイプ別に見ていきましょう。

ルミナルA・B:ルミナルA、Bは基本的には同じ治療となります。

「ホルモン療法が効く患者さんの中でも増殖が比較的遅いのがルミナルA、少し進行速度が速いのがルミナルB。しかし、ホルモン陽性であれば、基本的にはホルモン療法から治療を初めていきます。最近ではルミナルA・Bもホルモン療法だけでなく、最初からCDK4/6阻害薬のベージニオ(一般名アベマシクリブ)かイブランス(一般名パルボシクリブ)を上乗せします」

CDK4/6阻害薬とは、CDK4とCDK6という、がん細胞が増殖する周期を調節しているふたつの酵素を阻害する分子標的薬です。

それは世界的な流れなのですか?

「そうですね。ホルモン療法+CDK4/6阻害薬の併用療法が、治療成績が明らかに優れているとわかっているので、それが治療の中心になります。薬が増えると当然有害事象も増えますし、経済的な負担も大きくなります。患者さんの症状、年齢や体力を加味して、最初からCDK4/6阻害薬を使うか、2番手の薬と一緒にCDK4/6阻害薬を使うか、そこはまだ議論されている最中です」

ベージニオとイブランスを使用する順番はあるのですか?

「それもかなり議論があるところです。それぞれの治験の患者さんの内訳が違ったりするので、どちらを優先すべきかまだ断言できない状況にあります。また、ひとつのCDK4/6阻害薬のあとに別のCDK4/6阻害薬を使うかどうかについてもまだ一定の見解はありません」

たとえば、ベージニオでは急に下痢をもよおすことが多かったり、逆にイブランスでは血液の中の白血球が下がりやすかったりとそれぞれの薬剤で有害事象の内容に違いがあるので、患者さんの状況やライフスタイルによって、それぞれ薬の特徴を汲んで治療方法を決めているそうです。

「2つの薬剤は、再発時の1次治療では無増悪生存期間は統計的に有意に延長しますが、全生存期間では有意差が証明されませんでした。2次治療でも無増悪生存期間は両剤とも延長しますが、ベージニオのみが全生存期間の延長効果を証明しました。今後、データが揃ってきますと、どのような薬をどのような順番で使っていくのか、治療法が確立できるのではないかと考えます。そして3次治療はホルモン療法+アフィニトール(一般名エベロリムス)の併用療法なども考慮します」

なお、今年の3月にAKT阻害薬トルカプ(一般名カピバセルチブ)が承認されました。

トルカプとフェソロデックス(一般名フルベストラント)の併用療法は、「ホルモン療法後に増悪した PIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン陽性・HER2陰性の手術切除不能または再発乳がん」が対象になります。

「CAPItello-291試験」の結果、トルカプとフェソロデックスの併用療法が、フェソロデックス単剤療法との比較で進行または死亡のリスクを 50%低下させました。ハザード比0.50;95%信頼区間0.38-0.65;p<0.001;PFS中央値7.3カ月対3.1カ月。

HER2タイプ:1次、2次治療の標準治療が確立していて、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)+パージェタ(一般名ペルツズマブ)+ドセタキセル(一般名)が基本になります。

「ドセタキセルが副作用の面で使用しづらい場合には、パクリタキセル(一般名)を使うこともあります。2次治療はエンハーツ(一般名トラスツズマブ デルクステカン)です。エンハーツに関してはHER2タイプに限らず、HER2-Low(低発現)に対してもエ承認されましたので、HER2の値が1+のケースと、2+でISH陰性のケースでもエンハーツを積極的に使うようになっています。さらにエンハーツのさまざまな臨床試験も進んでいるので、今後の展開を期待しています」

ただ、エンハーツ使用時には、副作用に注意する必要があります。

「エンハーツの薬剤性肺障害は日本人の場合、7~10名に1名の割合で起こっています。もともとエンハーツはハーセプチンにデルクステカンという抗がん薬を結合させた薬で、このデルクステカンが肺に対して障害を与えると考えられています。エンハーツは3週間に1回の点滴なのですが、大まかな目安として2回程度投与したら、つまり2カ月程度の間隔でCT検査を行い、肺障害の有無を確認しています」

トリプルネガティブ:トリプルネガティブ乳がんの再発治療は、PD-L1が陽性であればキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)またはテセントリク(一般名アテゾリズマブ)+化学療法が基本的治療です。キイトルーダとテセントリクは、それぞれ別のPD-L1の検査が必要になりますので、その検査の結果や、再発するまでの期間などを総合的に判断してどちらを用いるかを決定します。一方、術前化学療法であればPD-L1の有無を問わず免疫チェックポイント阻害薬を使用できます。

「どちらも選択可能な場合、当センターではキイトルーダを使用するケースが多いです。それは、キイトルーダの場合は、併用する抗がん薬の種類が多いからで、特にプラチナ系のカルボプラチン(一般名)が使えるのが大きいですね。テセントリクの場合は、タキサン系のアブラキサン(一般名パクリタキセル)のみです。PD-L1が陰性のトリプルネガティブ乳がんの場合には化学療法を行うことになりますが、トリプルネガティブのおよそ15%がHER2低発現といわれていますので、前に述べたように、HER2低発現にエンハーツが使用できるのは大きいですね」(表2)

トリプルネガティブの新薬が申請中ですが、いつ頃承認されますか?

「それはわかりませんが、治療の選択肢が増えますので、大きな意義があると思います」

全身治療歴のある手術不能・再発のトリプルネガティブ乳がんに、抗Trop-2抗体薬物複合体(ADC)トロデルビー(一般名サシツズマブ ゴビテカン)が、2024年1月申請されています。トロデルビーはすでに欧米など世界40カ国以上で、トリプルネガティブ乳がん治療薬として承認されています。

1+:免疫染色での発現度合いにより0、1+、2+、3+の4段階に分けられ、これまでは3+と、2+かつISH陽性が「HER2陽性」とされてきたが、1+、2+かつISH陰性は新たに「HER2-Low(低発現)」と分類されるようになった。HER2-Lowの場合はエンハーツの対象となる

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