子宮頸がん予防と問題点

ワクチン接種の効果だけでなく 子宮頸がん検診率を上げることが大切

監修●五十嵐 中 東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年4月
更新:2014年7月

  

五十嵐 中さん。東京大学大学院薬学系研究科医薬政策学。2011年の厚生労働省「ワクチン評価に関する小委員会作業チーム」にて、「HPVワクチンの費用対効果推計」を作成協力

子宮頸がんのHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの定期接種は、副反応と関連するかもしれない事例が明らかになり、推奨が控えられている。がんの中で唯一、ワクチン接種によって予防できる子宮頸がんだが、そもそもウイルス感染を予防するワクチン接種が導入されたことと、子宮頸がんの発症率低下への見通しはどのように結びついているのか。

原因ウイルスの感染を防ぐ

子宮頸がんはHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因となるため、ワクチンが開発され、多くの国で使われている。HPVには多くの型があるが、子宮頸がんの発症に特に関係が深いのはHPV16 とHPV18。ワクチンはこれらの感染を防ぎ、がんの発生を予防する。

子宮頸がんの患者から検出されるHPV は、海外ではこの2 つの型が約70%を占め、日本では59%(調査により50 ~ 70%の幅がある)となっている。つまり、ワクチン接種で子宮頸がんを完全に防げるわけではない。

海外で臨床試験が行われ、HPV16 と18 の感染を防ぎ、子宮頸部前がん病変の発症を減らす効果が明らかになった。安全性についても、局所の疼痛、発赤、腫脹が主なもので、重篤な全身性反応は少ない、と報告されている。

こうしたデータに基づき、子宮頸がんワクチンは、09 年10 月に日本でも承認された。さらに13 年4 月、厚生労働省は11 ~15 歳女児を対象に、公費負担での定期接種に踏み切った。ところが、重い副反応が現れているとの報告があり、13 年6 月からは、接種勧奨を差し控えている。

ワクチン接種の費用対効果

公費負担による定期接種化に踏み切った理由について、厚生労働省予防接種部会の「ワクチン評価に関する小委員会作業チーム」の参考人だった五十嵐中さん(東京大学大学院薬学系研究科)に、医療経済の面から解説してもらった。

「13 歳の女子、57万人余りを対象とし、その85% 1)」にワクチンを接種すると、接種費用が230 億円かかります。ただ、子宮頸がんになる人が減り、医療費などが57 億円減るので、費用増は173 億円。173 億円をかけて、健康上でのいいことがどれだけ得られるかを考えます」

ワクチンの効果は、子宮頸がんの罹患率や生存期間といった指標でも表せるが、QALY(質調整生存年)という指標を使うと、より的確に評価できる。生存年数に生活の質を加味した指標だ。

「全国の13 歳女子を対象にワクチン接種を行うと、8,600 QALY増えると推計できます。効果を評価するには、余計にかかった費用(173 億円)を、ワクチン接種で得られた健康上でのいいこと(8,600 QALY)で割って、増分費用効果比を求めます。1QALYを獲得するのに、どれだけの費用が必要かの値です。増分費用効果比は、低ければ低いほど費用対効果は良好です」

計算すると、1QALY 獲得に、173 億円÷8,600=201 万円かかることになる。

「先進国では500 ~ 600万円あたりが合格ラインで、それ以下なら費用対効果は良好と判断されます。すなわち、子宮頸がんワクチンは、かかる費用に見合った効果が得られると評価されたのです」

1)厚生労働省が推奨する他の様々な予防接種を合わせた接種率を目安としている

「副反応問題」をどう考える

副反応問題については、報告された症状がワクチンによる副反応かどうかは明らかになっていない。厚生労働省の判断が中途半端なのも、そのためである。

WHO(世界保健機関)は、「安全性を再確認した」とする報告を14 年2 月に出している。複数の大規模調査でも、多発性硬化症(手足の痛みや麻痺が出る自己免疫疾患)などの副反応の増加は認められなかったという。この報告を受け、厚生労働省が定期接種を勧奨するのかが注目されている。

2 次予防の重要性

子宮頸がんは、ワクチンによって発症を防ぐ1 次予防と、検診で早期に見つける2 次予防がそろっている。そして、ワクチン接種を受けても受けなくても、検診が大切であることは変わらない。ところが、日本では検診受診率が20%程度と異常に低いのが現状である。

子宮頸がんは、細胞診という方法が確立され、ごく早期の段階から発見できるのが特徴だ。20 歳以降の女性は、2 年に1 回受けることになっていて、それを守ることで、たとえ子宮頸がんになっても、多くの人が早期の段階で発見できると考えられている。受診率を向上させるために、さまざまな手立てを講じることも今後必要になる。

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