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手術と同時化学放射線療法のメリット・デメリット

子宮頸がんⅡ(II)B期の治療はどのように選択するか

監修●的田眞紀 がん研有明病院婦人科副医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年6月
更新:2016年8月

  

「治療を選択する際には、各治療法について十分説明を聞いた上で決定すべきです」と語る的田さん

子宮頸がんⅡ(II)B期の治療法として、『子宮頸癌治療ガイドライン』(日本婦人科腫瘍学会編)では「手術」と「同時化学放射線療法」の2つの治療法が推奨されている。では、Ⅱ(II)B期と診断された場合、患者はどのように治療法を選択すればいいのか。治療を選択する際の考え方について、専門家に話をうかがった。

子宮を支える組織に浸潤している状態

図1 子宮頸がんⅡ(II)B期とは?

子宮は、入り口付近の「子宮頸部」と、その奥の「子宮体部」に分かれている。子宮頸がんは、子宮頸部の表面に発生するがんで、進行するに従って周囲に広がっていく。Ⅱ(II)期は、「がんが子宮頸部を越えて広がっているが、膣壁の下3分の1、または骨盤壁には達していないもの」と定義されている。そして、Ⅱ(II)期の中で「子宮傍組織に浸潤しているもの」がⅡ(II)B期である(図1)。

がん研有明病院婦人科副医長の的田眞紀さんは、次のように説明する。

「子宮は下に落ちてこないように、前後左右が靭帯で支えられています。前には膀胱との間に膀胱子宮靭帯、後ろ側は直腸との間に仙骨子宮靭帯があり、左右の側方には骨盤壁との間に基靭帯という靭帯があります。靭帯以外に、左右両側には血管やリンパ管も伸びていますが、これらと靭帯を含めて子宮傍組織と呼んでいます。ここにまで浸潤してきた状態がⅡ(II)B期です。多いのは横方向に浸潤してくるケース。血管やリンパ管が広がっているので、横方向に浸潤しやすいのです」

がんの広がりは内診やMRI検査で調べる。内診というのは膣に指を挿入したり、腹部を手で押したりして、膣や子宮の状態を調べる方法である。子宮傍組織へのがんの広がりも、硬さなどから判断する。

「最近はMRIの診断精度が向上していて、がんが靭帯に浸潤している状態も鮮明に画像化されます。ただしMRIはあくまで補助的な検査で、Ⅱ(II)B期かどうかの診断、つまり子宮傍組織のどこまでがんが浸潤しているかは内診で判断します」

手術を行った場合は、切除した子宮や子宮傍組織を調べることで、正確な病期を診断することができる。

手術を行う場合と行わない場合がある

子宮頸がんⅡ(II)B期では、どのような治療が行われるのだろうか。日本の治療ガイドラインでは、「広汎子宮全摘出術(+補助療法)あるいは同時化学放射線療法が推奨される」となっている。選択肢は大きく分けて2つということだ。

ところが、アメリカのNCCNのガイドラインでは、子宮頸がんⅡ(II)B期の治療には、手術という選択肢はないという。どうして日本とアメリカで異なっているのだろうか。

「日本では、子宮頸がんの根治手術が独自に進歩して、完成度を高めてきたという歴史があります。日本で行われてきた手術は、海外で行われている手術と違い、根治性が高いのです。そういったこともあって、子宮頸がんのⅡ(II)B期に対しては多くの症例で手術が行われ、これまでどちらかと言うと、手術に重きをおいた治療が行われていました」

しかし、Ⅱ(II)B期は子宮の外にがんが広がっている状態なので、リンパ管や血管を経由して、がんが全身に広がっている可能性がある。そのため、いくら根治性の高い手術を行ったとしても、それだけで治療を終わりにすることはできない。再発を防ぐために、補助療法を組み合わせる必要があるわけだ。

「手術に化学療法を組み合わせたり、放射線療法を組み合わせたり、同時化学放射線療法を組み合わせたりします。同時化学放射線療法を組み合わせた場合、手術、放射線療法、化学療法のフルコースになってしまうわけです。これだけ治療を行うと、患者さんは大変ですし、治療に伴う合併症も起こりやすくなります。

そこで、Ⅱ(II)B期に対しては手術を行わず、放射線療法と化学療法で治療したほうがいいのではないか、という考えが広まってきました。かつてはⅡ(II)B期の患者さんの8割位が手術を受けていたのですが、次第に手術を受ける人の割合が減ってきて、現在では半分以下になっていると思われます」(図2)

図2 日本における子宮頸がんⅡ(II)B期に対する治療法の変遷

子宮頸がんⅡ(II)B期の治療は、こうして2つの治療法が併存する形になっていった。患者側からすると、選択肢が増えただけ、どう選択するのか難しくなったとも言えそうだ。

NCCN=全米総合がん情報ネットワーク

がん研有明病院の場合 治療成績に差はない

がん研有明病院でも、Ⅱ(II)B期に対しては、「手術+補助療法」を行う場合と、「同時化学放射線療法」を行う場合がある。そして、手術を行う場合には、追加する補助療法は、できれば化学療法だけにするというのが基本になっている。

「がん研独自のやり方です。Ⅱ(II)B期の手術だと、その後に、同時化学放射線療法を行う施設が多いと思います。当院が化学療法中心の補助療法にしているのは、手術したところに放射線を照射すると、リンパ浮腫や腸閉塞などが起きるリスクが高まるので、それを減らすためです。また、当院では手術が徹底しており、根治性の高い手術が行われていることも、理由の1つとしてあげられるかと思います。ただし、放射線療法は絶対に行わないということではなく、手術した結果、子宮傍組織への広がりが大きかった場合などには、放射線療法も追加しています」

手術と化学療法が基本だが、がんが広がっている可能性がある場合には、放射線療法も加える、というのががん研有明病院のスタイルである。

そして、手術を行った場合(「手術+化学療法」あるいは「手術+同時化学放射線療法」)と、同時化学放射線療法を行った場合の治療成績を比較すると、どちらも同じだという(図3)。

図3 がん研有明病院における子宮頸がんⅡ(II)B期の治療成績(〈手術+補助療法〉と同時化学放射線療法の5年生存率)

「当院のデータですが、どちらも5年生存率は80%で、全く差がありません」

では、どのようにして治療法を選択すればよいのだろうか。

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