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近いうちに原因ウイルスからの予防が可能に
子宮頸がんの予防を目指すワクチンの登場

監修:今野良 自治医科大学付属さいたま医療センター婦人科科長・准教授
取材・文:林義人
発行:2007年10月
更新:2013年4月

  

今野良さん
さいたま医療センター
婦人科科長の
今野良さん

年間2500人もの人が亡くなる子宮頸がんは、じつは「予防できるがん」だった。原因となるウイルスも、がん化のプロセスも把握できているので、検診さえ受けていればがんへの移行は止められる。

さらにワクチンの登場で、原因ウイルスへの感染さえも防ぐことができる見通しが出てきた。ほかのがんでは考えられない、子宮頸がんというがんの撲滅戦略を自治医科大学付属さいたま医療センター婦人科科長の今野良准教授に聞いた。

年間2500人のがん死は防げる

「子宮頸がんの治療法はたくさんあり、私たちの教室でも著しく進行した例にも化学放射線療法によりかなりいい治療成績が得られるようになりました。ただし、それらの成績は、世界が認めるエビデンス(科学的根拠)に基づいたデータとはなっていません。その子宮頸がんに関して、きわめて高いエビデンスレベルをもって言えることは、このがんが予防できるがんであるということです」

今野さんは、子宮頸がんのほかのがんにはない特徴をこう話す。

子宮頸がんは20代、30代では乳がんを上回って、若い女性に最も多く発生するがんとして問題になっている。日本では年間約7000人が罹患し、2500人くらいが死亡する。世界中では、毎年50万人が亡くなっている。

「予防できるがんでありながら年に2500人も亡くなっているということになれば、本当にお気の毒で残念なことだと思います。
早期発見の方法があるにもかかわらず、私たちの施設には毎月2~3人が進行した3~4期で紹介されてきます。こうした患者さんたちの話は決まって『症状がなかったから検診を受けなかった』というものです」

[日本における30代女性の部位別がん罹患率の推移術]
図:日本における30代女性の部位別がん罹患率の推移

日本の子宮頸がん発症の年齢層のピークは、1978年には60~70歳くらいだった。ところが、88年には40歳前後に小さなピークが現れるようになり、98年には30歳くらいがピークとなっている。若い女性の子宮頸がんが以前に比べて増えてきたたというより、発症年齢の中心が若年に“シフト”したことがうかがえる。

[子宮頸がん発症の年齢による変化]
図:子宮頸がん発症の年齢による変化

HPV感染=子宮頸がんではない

写真:HPV

ヒトパピローマウイルス。金平糖のような形をしている
(グラクソ・スミスクライン社提供)

子宮頸がんのほぼ100パーセントは、HPV(ヒトパピローマウイルス:Human papilloma virus)が原因で起こる。HPVはありふれたウイルスで、性体験のある人は誰でも感染の可能性がある。日本でも欧米でも、およそ女性の5~10パーセントが感染しており、生涯を通じてHPV感染を経験する女性は60パーセントを超えることがわかっている。肛門がん、陰茎がん、口腔がんなどのがんの原因にもなり、もちろん男性にも感染する。

「若い人の子宮頸がんが多くなっているというと、性の乱れでHPV感染が広がったためととらえられがちですが、これは誤解です。おそらくHPVの感染率自体は昔からあまり変わっていません。ただ、性行為を開始する年齢が早まったことから、HPV感染も早くなり、その結果、子宮頸がんを発症する人の年齢も若くなっているのではないかと考えられます」

HPVには100種類を超えるタイプがあり、そのなかには男女の生殖器に「尖圭(せんけい)コンジローマ」というイボを作るタイプもある。このイボはピンセットや電気メスで切り取れば治るし、放っておいてもいつか消えていき、がんになることはない。しかし、HPVのなかには、「高リスク型」というタイプがあり、それが子宮頸部の細胞に変化を起こし、数年以上を経て、がん化するといわれている。

「高リスク型のHPVに感染し、最初に軽度異形成(自然治癒する可能性がある状態)という変化を起こし、これが前がん病変の高度異形成(良性と悪性の境)に進み、さらにがんになるわけです。このプロセスのなかでほとんどのHPVは自然消失していきます。高リスク型のHPVに感染してもがんに結びつく確率は1000分の1程度に過ぎません」

このように、子宮頸がんは発症の原因からがんに移行していく自然史が解明された病気なのだ。だからこそ「予防ができるがん」となっている。

[HPV感染と子宮頸がんの自然史]
図:HPV感染と子宮頸がんの自然史


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