手術後に妊娠・出産もできる子宮頸がんの子宮温存治療
北里大学病院産婦人科の医師
金井督之さん
近年、婦人科がん検診の普及にともない、子宮頸がんを早期発見できるケースが増えてきた。進行度1a期までの子宮頸がんなら、体への負担が少ない「子宮温存治療」を受けることができる。子宮温存治療は「外来の日帰り手術で受けられる」、「治療費が比較的安くて済む」、「術後のQOLが高い」など、子宮全摘手術と比べるとメリットが多い。
また、がん検診によって若年層に早期がんが見つかるケースが増え、子宮温存により手術後に出産するケースもしばしばみられるようになった。
子宮温存治療で数多くの実績を上げてきた北里大学産婦人科医師の金井督之さんに、子宮頸がんの子宮温存治療の実際について解説していただいた。
子宮温存手術ができるのは1a期まで
子宮がんには「子宮頸がん」と「子宮体がん」とがあります。子宮の入り口付近にできるのが子宮頸がんで、子宮体部の内膜にできるのが子宮体がんです。かつては9対1くらいの比率で子宮頸がんが圧倒的に多かったのですが、最近では子宮頸がんが減少し、子宮体がんが増加したため、7対3くらいの比率になってきました。
発がんのリスクファクターは、子宮頸がんと子宮体がんとではまったく異なっています。子宮体がんは、欧米型の食生活、晩婚化、妊娠回数の減少、肥満、高齢などがリスクファクターです。一方、子宮頸がんのリスクファクターは、早い結婚、多産、若い頃からの性交渉、性交渉の相手の多さ、ビタミンA不足などで、性交によってヒト乳頭ウイルスに感染することで発症するという説が有力となっています。このウイルスに感染した人全員が発がんするわけではなく、免疫力の低下などが引き金になるものと考えられます。
子宮頸がんの進行度は、下表のように0期から4期に分類されます。検診によって、まだがん細胞とはいえない異形成の段階から把握できるのが、子宮頸がんの特徴です。0期は、がん細胞が子宮頸部の上皮内にとどまっている上皮内がんの段階です。1期は、浸潤が子宮頸部に限局しているもの。2期は、浸潤が子宮頸部を超えて広がっているが骨盤壁には達していないもの。3期は骨盤壁に達しているもの。4期は他の臓器まで転移している状態です。
0期 | がん細胞が子宮頸部の上皮内にとどまっているもの |
---|---|
1a期 | 間質浸潤の深さが3mm以内で、子宮頸部にとどまっているもの |
1b期 | 間質浸潤の深さが3mm以上で、子宮頸部にとどまっているもの |
2期 | がんが子宮頸部を越えて広がっているが、骨盤壁には達していないもの |
3期 | がんが骨盤壁に達しているもの |
4期 | がんが他の臓器に転移しているもの |
初期のうちは自覚症状がありませんが、婦人科のがん検診が普及したために、異形成や上皮内がん(0期)の段階で早期発見できるケースも多くなってきました。北里大学を受診された患者さんの統計でみると、下図のように1a期で見つかる方が年々増加しています。
0期や1a期のうちに発見するのは大変重要なことです。なぜなら、子宮頸がんは1a期までの段階であれば、子宮温存手術ができるからです。子宮を残すことができれば、生理も継続して妊娠することができますし、体への負担ははるかに軽く済みます。
もうひとつの最近の傾向は、若年で子宮頸がんが見つかる例が増えてきたことです。子宮頸がんの発症のピークは40代、50代にあるのですが、20代、30代で早期のがんが見つかる例が増加してきました。セックスの若年齢化と関係しているのかもしれません。若年であれば、当然子宮を残して妊娠の可能性を保持したいところです。子宮を温存する手術を受けたあと、出産された方もたくさんいます。
ループコイルでがん組織を切り取る
子宮温存手術が受けられるか否かの境界線は、1a期と1b期の間にあります。子宮頸がんの病期の分類には、日本産婦人科学会が1979年に決めた旧分類と、国際産婦人科学会が1994年に提唱した新分類があるのですが、北里大学では旧分類を使用してデータを蓄積してきましたので、ここでは旧分類でお話をさせていただきます。
1a期の定義とは、がんの浸潤の深度が3ミリ以内、そして病理検査で血管やリンパ節に浸潤していないことが確認できることです。子宮頸がんの進行度は、細胞診とコルポスコピー(腟拡大鏡)で判断します。細胞診とは、子宮頸部から綿棒やヘラで直接細胞を擦過して取り、顕微鏡でがんの状態を観察する方法です。細胞を直接採取できますから、子宮頸がんは他のがんと比べて、がんか否かを容易に判定することができます。そしてがんの進行度を調べるためには、コルポスコピーという腟から挿入する拡大鏡を通して、がん細胞の深さを測定します。
北里大学では、子宮温存治療は外来の日帰り手術で行っています。以前はレーザーを使って「円錐切除術」を行っていましたが、最近はさらに効率のよい「ドーム状切除術」を行っています。ループ状のコイルをコルポスコピーの先端に取り付けて、高周波の電流を流し、がん組織を中心にして周囲を丸くドーム状に焼いて切り取るのです。子宮の内皮は入り口の部分が扁平上皮で奥のほうが円柱上皮なのですが、子宮頸がんはその境界部に頻発します。取り残しのないように内皮を酢酸加工して見やすくし、がん組織を中心に上下左右均等に丸く、12ミリから15ミリ程度の深さまで切り取ります。
手術は、麻酔から術後の処置まで含めて30分ほどで終了します。局所麻酔で行いますが、4割ぐらいの方が「術中に痛みや熱さを感じた」と言われます。手術の傷痕は5週間くらいで治癒します。手術のあと1週後、3週後、5週後に診察を行って、子宮温存治療は完了となります。ただ、がんですから再発の可能性もありますので、その後の検診はもちろん大切で、1カ月、3カ月、6カ月と続けていく必要があります。
日帰りで手術が終わるのは患者さんにとって大きなメリットだと思いますが、だからといって病気を軽く考えてしまうと困ります。術後、出血のためもう1度病院へ戻ってくる方が6パーセントぐらいいます。自己管理が大切で、重いものを持ったり、段差の大きい階段を上ったりすることは厳禁です。
コルポスコピーによる子宮温存治療
高周波電流を流したループで
腫瘍を切り取っていく
ドーム状に切り取られた患部の腫瘍
術後1週目の患部の様子
術後5週目。手術の傷痕は約5週間で治癒する
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