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多施設共同研究で進歩する小児血液がんの治療
リスク分類に基づいた「層別化治療」が進む小児白血病

監修:堀部敬三 名古屋医療センター臨床研究センター長・小児科部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2008年12月
更新:2013年4月

  
堀部敬三さん 名古屋医療センター
臨床研究センター長・
小児科部長の
堀部敬三さん

小児がん全体の約4割を占める小児血液がん。かつては不治の病と言われていたが、1990年代に入り、リスク分類に基づいた「層別化治療」が進み、80パーセント以上の患者さんに長期生存が可能となった。
名古屋医療センター臨床研究センター長・小児科部長の堀部敬三さんに、小児血液がんの最新治療について聞いた。


小児がんの約4割を占める小児血液がん

小児がんにはいろいろな種類があるが、白血病はその中で最も発生頻度が高く、33パーセントを占めている。さらに、悪性リンパ腫が9パーセントあり、これを加えると、いわゆる血液がんが、小児がん全体の約4割を占める。

では、小児がんの中で最も発生頻度が高いと言われる小児血液がんは、年間何人くらい発生しているのだろうか。名古屋医療センターの堀部敬三さんにうかがった。

「少子化が進んでいるので、0歳から15歳までの人口は1800万人程度です。子どもの血液がんの発生率は、多く見積もっても2万人に1人くらい。したがって、1年間に全国で900人くらいが、白血病や悪性リンパ腫になっていると考えられます」

小児血液がんの中で最も多いのは急性リンパ性白血病(ALL)で、血液がん全体の60パーセントを占めている。

次が急性骨髄性白血病(AML)で、18パーセント。悪性リンパ腫は15パーセントとなっている。

血液のがんは、血液の工場とも言える骨髄の中で、悪性細胞が増殖してしまう病気だ。白血球(リンパ球、好中球、好酸球、好塩基球、単球)、赤血球、血小板は、いずれも造血幹細胞という同じ細胞から分化して作られる。この分化の過程のどこかでがん化が起こり、生み出された悪性細胞が増殖していくのである。

どこでがん化したかによって、血液のがんはいくつもの種類に分けられている。

次に、血液がんの症状にはどのようなものがあるのだろうか。

「悪性細胞がどんどん増え、骨髄の中を悪性細胞が占拠してしまうと、健康な白血球、赤血球、血小板を作るスペースがなくなってしまいます。そのため、これらの血球が不足し、いろいろな症状が出てきます。赤血球が不足すれば貧血。白血球が不足すると、体の抵抗力が低下して感染症にかかりやすくなります。血小板は止血に必要なので、不足すると血液が止まりにくくなり、出血傾向を示すようになります。さらに、悪性細胞が増えることで肝臓、脾臓、リンパ節が腫れたり、骨の痛みが出てくることがあります」(堀部さん) これらが血液のがんで現れる代表的な症状だという。

急性リンパ性白血病の標準治療

前述した小児血液がんで最も多いと言われる急性リンパ性白血病とは、リンパ系の細胞から発生した急性白血病である。いくつかの種類に分かれるが、最も多いのが70パーセントを占めているB前駆細胞性白血病で、2番目に多いのが10~15パーセントのT細胞性白血病。この2種類で急性リンパ性白血病の大部分を占めている。成熟B細胞性白血病はわずか1パーセントである。

小児血液がんの標準治療は、『小児白血病・リンパ腫の診療ガイドライン』にまとめられている。堀部さんは編集委員として、このガイドラインの作成に携わった。急性リンパ性白血病の標準治療については、このガイドラインに沿って解説する。

治療は、まず成熟B細胞性白血病を区別するところから始め、次に1歳未満と1歳以上で区別する。

「1歳未満では、85パーセントの症例で、MLL(混合白血病)遺伝子が途中で切れて、遺伝子の再構成が起きています。ところが、1歳以上では5パーセント未満しか見られません。MLL遺伝子再構成の有無によって、予後(病気の経過の見通し)が大きく異なるため、1歳未満と1歳以上で治療方針が違ってくるのです」(堀部さん)

MLL遺伝子再構成があると、移植をしても、治癒する確率は45パーセント程度。ところが、この遺伝子再構成がなければ、95パーセント以上の人が化学療法で治癒する。1歳未満の場合、MLL遺伝子再構成があるかないかで、治療法が分かれることになる。

1歳以上の場合は、小児白血病の中で最も予後不良な染色体異常の1つであるフィラデルフィア染色体(Ph)(白血病細胞に見られる染色体の異常の1つ)が陽性かどうかで分け、さらにさまざまな予後因子によって、超高リスク、高リスク、標準リスクに分けて治療が行われる。化学療法を行い、寛解(病気の症状が軽減またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態)すれば化学療法を行って終了。寛解が得られない場合をはじめ、Ph陽性や一部の超高リスクにおいては造血幹細胞移植を検討することになる。

現在、日本は、初診年齢が15歳までは小児科、それ以上の年齢は内科にかかる。しかし、2000年のアメリカの血液学会で、アメリカの16~21歳の急性リンパ性白血病の若年成人例を小児プロトコル(治療手順)で治療した場合と成人プロトコルで治療した場合を比較したときに、小児プロトコルでの治療が有意に成績が良いことが報告されたという。

「ヨーロッパからも同様の成績がいくつか報告されており、若年成人の急性リンパ性白血病については小児プロトコルの治療が良いことが明らかになりました」(堀部さん)

[急性リンパ性白血病の治療アルゴリズム]
図:急性リンパ性白血病の治療アルゴリズム

出典 日本小児血液学会編 『小児白血病・リンパ腫の診療ガイドライン2007年版』
B-ALL=成熟B細胞性白血病

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