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病勢安定期間を延ばす 進行・再発大腸がんの4次治療での、新規2剤のよりよい活用法とは

監修●水沼信之 がん研有明病院消化器センター消化器化療担当部長
取材・文●町口 充
発行:2015年7月
更新:2020年3月

  

「新規治療薬のこの1~2年の
投与実績から、よりよい活用法が見えてきました」と話す
水沼信之さん

治癒切除不能の進行・再発大腸がんの治療は、分子標的薬の登場で飛躍的に向上している。それでも3次治療、4次治療の段階になると治療薬がない状態になっていたが、2013年に分子標的薬スチバーガ、14年に抗悪性腫瘍薬ロンサーフが新たに加わって選択肢が増え、最適な治療を続けることができるようになってきた。

相次ぐ分子標的薬で生存期間延長

「2つの薬が出てきたお陰で、これまでなら『すべての手段を終えた』とされていた患者さんにも選択肢が増えて、生存期間の延長が実現できるようになりました。画期的なことです」

このように語るのは、がん研有明病院消化器センター消化器化療担当部長の水沼信之さんだ。

病状が進行して転移し、治癒を目指す手術が不可能になった進行・再発大腸がんに対する化学療法はこれまで、多くの治療薬や治療法が開発されて治療成績は着実に向上してきた。とくに近年になって登場し、成績向上に貢献しているのが分子標的薬だ。

がん細胞が栄養を取り込むために新たな血管を作ろうと分泌するVEGF(血管内皮成長因子)というタンパク質を標的に、血管新生を阻害する働きを持つアバスチン、がん細胞が増殖するために必要なシグナルを受け取るEGFR(上皮成長因子受容体)というタンパク質を標的に、シグナル伝達を遮断して増殖ができないようにするアービタックスなどがある。

これらの薬は、他の抗がん薬と併用するとよい成績が得られることがわかり、現在、進行・再発の大腸がんに対して最初に選択される1次治療として、抗がん薬の併用療法であるXELOX療法やFOLFOX療法にアバスチンを上乗せして使う方法、あるいはFOLFOX療法やFOLFIRI療法にアービタックスを上乗せして使う方法などが標準治療として推奨されている。

アバスチン=一般名ベバシズマブ アービタックス=一般名セツキシマブ XELOX療法=ゼローダ(一般名カペシタビン)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) FOLFOX療法=5-FU(一般名フルオロウラシル)+ロイコボリン(一般名レボホリナート)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) FOLFIRI療法=5-FU(一般名フルオロウラシル)+ロイコボリン(一般名レボホリナート)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン)

4次治療以降にマルチターゲット薬

図1 大腸がんの標準治療(がん研有明病院)

さらに1次治療が効かなくなった場合には2次治療が、2次治療が効かなくなったら3次治療があり、やはり抗がん薬とアバスチンなどの分子標的薬を組み合わせる治療法が標準治療として確立している(図1)。

しかし、問題はそこからで、3次治療が効かなくなった場合の4次治療以降に使用可能な治療選択肢は十分ではなかった。

そこに登場したのがスチバーガだ。「分子標的薬だが、それまでの薬とはまるで毛色が違う」という。

経口薬で、今のところ単剤で使われているが、特徴は、がん細胞の増殖と血管新生に関与する複数のタンパク質酵素(プロテインキナーゼ)の活性を阻害するマルチターゲットの分子標的薬であるということ。
増殖シグナルを遮断(ブロック)したり、血管新生を阻害したりと、マルチな働きによりがんの進行を抑える作用がある(図2)。

図2 スチバーガの効果(全生存期間・病勢コントロール率)

(Grothey A et al. Lancet. 381, 303-312, 2013)

スチバーガ=一般名レゴラフェニブ

手足症候群で投与中止のケースも

表3 新規2剤の主な副作用

表4 新規2剤の投与方法

ただし、スチバーガが発売されるようになって2年がたち、副作用が問題になっている(表3)。

副作用として現れるのは主に手足症候群、全身の倦怠感、肝障害などだが、とくに多いのが手足症候群。文字通り手のひらや足の裏に出現する皮膚障害で、手や足の裏がピリピリまたはチクチクする、痛い、赤く腫れるなどの症状が現れる。重篤例では歩けなくなるほどで、途中で薬を止めざるをえない人が少なくない。副作用がひどくて4割を超える患者さんが投与を中止したとの市販後調査の報告もある。

このため、スチバーガの用量は1日1回160㎎(4錠)だが、欧米では160㎎は無理だからと、開始量を120㎎に減らしている施設が増えている(表4)。日本人と比べて体格で勝る患者さんが多い欧米で減量しているのなら、日本人の場合はどうなのか?

「日本では開始量の160㎎が守られていますが、実際には3週間連続投与を始めても(投与方法は、3週間連続投与+1週間休薬が1サイクル)、1週間ほどで副作用が強く出現し、中止となる例が多い。今までの薬よりは扱いにくい薬であると言えます。

ところが、強すぎる副作用に対処するために投与量を120㎎、80㎎に減らすと、副作用は解消され、治療を継続し安定した効果が得られるようになります」

このため、開始量は160㎎ではなく120㎎以下でもよいのではないかと、投与方法の見直しが議論されているという。「それでも、使い方を工夫し、要領よく使えば効果の高い薬です」と水沼さんは言う。

進行・再発の3次治療以降の大腸がんに対し、スチバーガ投与群とプラセボ(偽薬)投与群を比較した国際共同第Ⅲ相試験(CORRECT試験)の結果では、奏効率(PR)での有意差はなかったが、病勢コントロール率(PR+SD)ではプラセボ群が15.3%だったのに対してスチバーガ群は44.8%と有意に優れていた。

そこで水沼さんはこう語る。「スチバーガにより腫瘍が縮小し奏効する患者さんは少なくても、病状が安定する確率は高い。とするなら要は使いようで、上手に使えば半年、1年と使い続けることができます。これまで3次治療で終わってしまい、もうほかに治療法がなかった患者さんにとってプラスの延命効果が期待できます」

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