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複雑な外科解剖、臓器特異性に精通し、高い技術を要する高難度手術

肝胆膵がんは患者さんに見合った多様な病態に対する最善の治療選択を

監修●島田和明 国立がん研究センター中央病院副院長/肝胆膵外科長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年12月
更新:2019年7月

  

「肝胆膵がんの治療は胃や大腸がんに比べて難しいのが実情です」と話す島田和明さん

腹部内臓器官の中で肝臓・胆道・膵臓はお互い密接な関係にあるため「肝胆膵」として一括に診療されるのが合理的とされる。肝胆膵外科手術は、複雑な解剖と臓器の特性から高度の技術が要求されるため、日本肝胆膵外科学会では「高度技能専門医制度」を導入し、広く質の高い手術が安全に行われるように努めている。肝胆膵のがん診療について、外科治療を中心に島田和明さんに伺った。

肝胆膵がん治療の特徴

・実質臓器は機能が重要、浸潤の程度を考慮した術式選択

図1 肝臓、胆道、膵臓の位置関係

肝臓で生成された胆汁は、胆道を介し膵内で主膵管と合流し十二指腸乳頭部から十二指腸に流出します。肝臓は糖やタンパク、脂質の代謝や合成、アルコールや毒物の解毒などの役割(機能)を持ちます。

胆道は、肝臓で作られた胆汁の通り道である胆管、胆汁を溜めておく胆のう、胆汁や膵液が十二指腸に流れ込むときにその量を調整する乳頭部からなります。

膵臓は肝臓の下側にあり、消化液である膵液を産生する外分泌機能と、血糖値を調節するインスリンなどのホルモンを分泌する内分泌機能の役割を持ちます。

それぞれの役割を持つ臓器ですが、解剖学的に密接な関係にあることから(図1)、最近では肝胆膵領域として一括した診療科の専門医による治療が行われるようになってきました。

・多くは進行がんに対する外科切除

胃や大腸の管腔臓器と異なり、複雑な手術が必要です。また膵がんに代表されるように早期発見が難しいことから、多くの患者さんが進行がんで診断されます。詳細な画像診断を行い、外科・内科・放射線診断の専門医が検討会を通じで治療方針を決定します。また外科治療を行う場合には、どのような切除術式が最適であるかを、患者さんの病態に沿って選択していきます。

胃や大腸では、小さな創で済む腹腔鏡手術が盛んに行われていますが、肝胆膵外科の領域では、がん遺残のない切除を目指し、安全性を第一にした切除術を行うのが原則です。術後の抗がん薬治療をする体力的ゆとりを確保し、QOL(生活の質)を保つことを念頭に置いています。腹腔鏡手術やロボット手術は安全性や治療効果の問題が十分には解決されていませんので、私の所属する国立がん研究センターでは臨床研究として慎重に行っています。

診療体制の強化

若い外科医がより高度な技術を獲得するには、しっかりとした指導の下、経験を積むことが重要です。日本肝胆膵外科学会では、難度の高い肝胆膵外科手術をより安全に、確実に行うことができる外科医を育てることを目的とした『高度技能専門医制度』を設立し、2011年から認定を行っています。

手術記録や手術のビデオ審査を経て認定される肝胆膵手術のエキスパートです。このように多くの症例を蓄積し、きちんとした診療教育体制を敷いている専門施設での手術は安全で、治療成績が良くなることと信じています。

<肝がん>

・2㎝以内はラジオ波で低侵襲な治療

肝がんの代表的な疾患は肝細胞がんであり、全体の90%を占めています。治療法は、手術、局所療法、肝動脈化学塞栓術(TACE)です。

腫瘍が小さいときに見つかれば、経皮的に局所療法であるラジオ波焼灼療法(RFA)が可能です。当院では、2㎝以内の腫瘍はラジオ波で治療します。治療成績は切除術とほとんど変わりません。腫瘍の位置が血管に近接したり、門脈内に進展している場合、肝表面に占拠する場合にはRFAを行うことが難しいケースもあります。

・切除では肝機能維持が重要に

図2 肝亜区域(クイノー分類、S1~S8)

肝切除では腫瘍の位置、大きさ、数(3個以内)などの腫瘍条件と同時に考慮されるのが肝機能です。肝機能が正常な人なら肝臓の7割を切除しても臓器が再生されるのですが、肝炎や肝硬変などの肝機能障害があるとそうはいきません。肝がんの場合は肝硬変を併発していることが多いので、大きく切除しすぎると肝臓の機能が果たせなくなり、肝不全となってしまいます。

肝がんに対する肝切除では、がん病巣を切除するだけではなく、肝機能を考慮して、術後肝機能障害を来さないように、近くの門脈(肝臓内の血管)枝まで取ります。少しでも散らばっているかもしれない微小転移を切除範囲に含めようという考えです。このように肝硬変合併肝がんに対して考案された切除法が、超音波や色素液の染色で境界を定める系統的肝亜区域切除です(図2、3)。

図3 幕内基準による許容肝切除量(クイノー亜区域分類に基づく)

ICG R15値(: 色素)インドシアニングリーン検査(15分血中停滞率)

・切除不能なら肝動脈塞栓術

肝機能が不良であったり、腫瘍数が4個以上などの多発例では肝動脈化学塞栓術が行われます。がん細胞に栄養を供給している肝動脈を詰まらせてがんを壊死させようという治療法です。

この分野ではビーズという新しい物質が開発され、より効果的な塞栓効果が期待されています。

さらに、肝機能が極めて不良で、腫瘍が小さく個数が少ない場合には肝移植という方法もあります。

上記以外の治療法としては、放射線治療が注目されています。放射線の一種である重粒子線の臨床試験として行われていますが、保険は適用されません。

遠隔転移があり手術ができないときに行われる化学療法は、分子標的薬のネクサバールがあります。

・内科と外科の連携が重要

肝細胞がんの発生は肝炎ウイルスが原因です。高危険群の肝炎患者さんを検診し、早期に病変を発見することが重要です。肝細胞がんと診断されたら、腫瘍の大きさ、個数を診断し、肝機能の程度を考慮し最適な治療法を選択します。診療ガイドラインが作成され、多くの病院でも標準的な診療が可能になりました。

治療を受けられる場合は、外科や内科が集まって治療戦略を立てられる施設(病院)が望ましいと思います。

ネクサバール=一般名ソラフェニブ

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