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副作用をコントロールしながら、薬を飲み続けることが大切 がんの進行を抑え、生存を延ばす肝がん薬物療法時代

監修:工藤正俊 近畿大学医学部消化器内科学主任教授
取材・文:増山育子
発行:2009年9月
更新:2013年9月

  
工藤正俊さん
近畿大学医学部
消化器内科学主任教授の
工藤正俊さん

今年5月、肝細胞がん患者さんの生存期間延長を世界で初めて示した分子標的治療薬ネクサバール(一般名ソラフェニブ)が承認された。
これまで、肝がんには抗がん剤は効きにくく、全身化学療法は行われてこなかった。
ネクサバールの承認により、手術ができない患者さんの前途に希望の灯が点された。

多数の選択肢がある肝がんの内科的治療

肝がんは、肝障害の程度、腫瘍の数、大きさに加え、血管にがんが食い込んでいるかどうか(脈管浸潤)、肝外転移・肝外病変の有無によって治療方法が選択されるが、外科的な治療(手術による切除)ができない場合も多く、様々な内科的治療法が開発されてきた。

かつて主流であったエタノール注入療法をはじめ、ラジオ波焼灼療法、マイクロ波凝固療法、肝動脈塞栓療法、肝動脈注入(肝動注)化学療法など各種の内科的治療法は肝がん治療の特徴といえよう。

とくにラジオ波焼灼療法は1度にがん細胞を死滅させられる範囲が広く、3センチ以内のがんなら1回の治療で根治が可能ということもあって、最近は多くの医療機関でも実施されるようになっている。

肝動脈塞栓療法(TAE)とは肝がん細胞が栄養を得ている肝臓の動脈(肝動脈)にふたをする物質を入れ、がんを兵糧攻めにする治療方法。現在では主に抗がん剤も一緒に注入する肝動脈化学塞栓療法(TACE)が、手術やラジオ波焼灼療法ができない進行したケースに適応されている。がんが肝臓全体に広がっていたり、門脈腫瘍栓(がんが門脈に入り込んでいる)がある場合は肝動脈注入化学療法(動注化学療法)が選択される。近畿大学医学部消化器内科主任教授の工藤正俊さんは、「日本では全身化学療法は行われていないため、肝がんの薬物療法といえばイコール動注化学療法といってもいいほど積極的に行われている治療法です」と話す。

動注化学療法は、カテーテルを直接肝臓の動脈に入れ、そこから抗がん剤を注入する。

「そのため薬剤が高濃度にがん細胞に届き、かつ全身にはそれほど悪影響を及ぼさない。つまり骨髄抑制など重大な副作用を避けることができるので、インターフェロンと5-FU(一般名フルオロウラシル)、5-FUとシスプラチン(一般名)などの組み合わせで盛んに行われているのです」

延命効果を証明する肝がんの抗がん剤は1つもなかった

肝がんの治療はこれまで、ほかのがんのような全身化学療法はほとんど行われてこなかった。

工藤さんはその理由を、こう説明する。

「体内に入った抗がん剤は静脈から心臓の右心房→右心室→肺に流れ、心臓の左心房→左心室に戻ってから全身をめぐります。すると肝臓にたどり着くのは100分の1程度。肝がん治療の場合、抗がん剤を投与しても毒性だけが出て効果がない、というのが一般的な考え方でした」

肝がんに適用される薬剤は、5-FU、UFT(一般名デガフール・ウラシル)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)、マイトマイシンC(一般名)、シスプラチン、スマンクス(一般名ジノスタチン)などだが、「肝がんは肝硬変を併発していることが多く、そもそも白血球や血小板数が減っています。そこに抗がん剤を投与したとしても、すぐに白血球や血小板減少という副作用が出てしまいます。これまで世界中で多くの臨床試験が行われてきましたが、延命効果を証明できた薬はただの1つもないのです」と工藤さんはいう。しかし、今年5月、「肝がんに効く抗がん剤はない」という常識を覆す薬剤が登場した。分子標的治療薬のネクサバール(一般名ソラフェニブ)である。

[国内で肝がんに適応した抗がん剤]

  経口 経口および注射 注射
代謝拮抗薬 テガフール・ウラシル
配合剤(UFT)
  5-FU
シタラビン(Ara-C)
アルキル化剤   シクロホスファミド(CPA) 塩酸ニムスチン(ACNU)
抗生物質   マイトマイシンC(MMC) ドキソルビシン(DXR)
エピルビシン(EPI)
ミトキサントロン(MIT)
ジノスタチンスチマラマー(SMANCS)
白金製剤     シスプラチン(DDP-H)


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