低侵襲、負担の少ないラジオ波焼灼療法。さらに効果を高めるために併用も 次々に進化する肝臓がんの内科的療法
近畿大学医学部
消化器内科主任教授の
工藤正俊さん
肝臓がんは、肝臓の性質から切除手術ができないケースが多く、そのため各種の内科的療法が開発されてきた。
かつての主流であったエタノール注入などと同じ肝臓がんの内科的療法の1つである「ラジオ波焼灼療法」は、がんの位置を画像で確認しながらがん細胞に電極を挿入し、ラジオ波で生じる高熱で焼き切る治療法だ。
現在、既存の局所療法をしのぐ治療効果が認められ、全国の多くの医療機関で施行されるようになっている。
「ラジオ波焼灼療法」のトップランナー
ラジオ波焼灼療法の装置一式
近畿大学医学部消化器内科主任教授の工藤正俊さんの研究室は、肝臓がんの内科的療法の中でも、特にラジオ波焼灼療法のトップランナーとして、年間症例数は372例、症例数は2千例以上という全国でも2位の実績を誇る。また、局所再発も約5パーセントと極めて低い実績を実現している。「国内でラジオ波焼灼療法が始まった1999年から、いち早くこの治療法に着手した。ラジオ波は、それまで主流だったエタノール注入などに比べて、大きながん細胞を1度の針の注入で焼灼することができますし、低侵襲の治療のため、患者さんへの負担も少ない、極めて優れた治療法です」と工藤さんは説明する。
さらにラジオ波焼灼療法は、肝機能が悪い(高度肝硬変)患者や高齢の患者、他疾患(心臓病や呼吸器疾患など)がある患者であっても、比較的安全に治療ができ、合併症も少ないというメリットも有している。
治療前
治療後
高熱でがん細胞を消滅させる治療法
1回の治療で直径3cm強の球状の範囲を焼くことができる
ラジオ波焼灼療法は、中波の電波であるラジオ波(高周波電流)が発生する高熱を利用し、目的のがん細胞を高熱で集中的に焼灼して死滅させる治療法だ。肺がんや腎臓がんにも有効だと言われているが、特に肝臓がんに対する臨床的有用性が多数報告されている。
肝臓がんに対するラジオ波焼灼療法は、肝硬変がある程度進んでいる場合には、直径3センチまでの肝臓がんなら3個以内、単発では直径5センチまで。さらに、肝機能が良ければ、この条件を超えていても治療が可能である。「エタノール注入療法などに比べて、大きながんを消滅させることができるので、カテーテルの穿刺も1回で済むことが多く、それだけ患者さんの負担は少なくなります」(工藤さん)。
具体的には、まず、超音波診断装置の画像でがんの位置を確認しながら、直径約1.5ミリの電磁針(「プローブ」と呼ばれる)をがん病巣に穿刺する。そして、その先端部分に設けた電極からラジオ波を誘電し加熱することで、その病巣を凝固・壊死に陥らせる。
近畿大学医学部消化器内科では、ラジオ波焼灼療法による治療は造影エコー下で行っているが、1年ほど前から新しい造影剤「ソナゾイド」を使用し始めた。これにより、これまでは発見しにくかったがんも捉えることができるようになり、より確実な治療が実現している。
こうした結果、同科では、症例数が多いにも拘らず、科全体での局所再発率は5~6パーセントに止まっている。また、初回症例の5年生存率は66.3パーセント。3センチ以下3個以内のがんに限れば78パーセントに達している。工藤さんは、「ラジオ波焼灼療法を行った後に、C型肝炎治療薬のインターフェロンを投与した症例では100パーセント近く生存しており、再発を抑え、生存を延長させる効果が見込めます」と言う。
さらに病態によっては、ラジオ波焼灼療法の効果を高めるために、がんに栄養を運ぶ肝動脈を塞いで死滅させる「肝動脈塞栓療法」(TAE)を併用する場合もある。これは、熱を逃がす腫瘍内の血流を止めることで、熱凝固作用の効果が高まる効果を狙ったもので、治療成績も良いという。さらに、進行がんに対してインターフェロンと動注化学療法を併用するなど、患者の状態に合わせた集学的治療法も積極的に取り入れている。
医師の技量によって差が出る
現在、肝臓がんの診療ガイドラインでは、切除手術とラジオ波焼灼療法では5年生存率は同等とされている。さらに2004年から保険適用になったこともあり、ラジオ波焼灼療法を実施する医療機関が急増。現在、全国で約1400施設にものぼるとみられている。
ただし、このように急速に普及したこともあり、ラジオ波焼灼療法は医師の間の技術差が大きい治療法でもある。がんを焼くだけでなく、腸に穴を開けてしまうような医療事故も起きるなど、正確な画像診断と経験を積んだ医師による治療が欠かせない。「ラジオ波焼灼療法のメリットが生かせなければ、高い根治性や安全性、QOL(生活の質)向上も実現しません」と工藤さんも言う。
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