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治療成績の差が大きい肝移植は病院選びが要
適応や切り方が明確になった肝臓がんの外科療法

監修:川崎誠治 順天堂大学医学部付属順天堂医院肝・胆・膵外科主任教授
取材・文:半沢裕子
発行:2008年11月
更新:2013年4月

  
川崎誠治さん
順天堂大学医学部付属
順天堂医院
肝・胆・膵外科主任教授の
川崎誠治さん

手術(外科療法)、局所療法、動脈塞栓療法など、さまざまな治療法がある肝臓がん。中でも、症例の蓄積によって切除方法や適応がより明確になった手術と、保険も適用になった肝移植という、2つの外科療法の現在について、順天堂医院肝・胆・膵外科主任教授の川崎誠治さんにうかがった。川崎さんは02年、河野太郎衆議院議員が肝硬変だった父親の河野洋平・元外相に肝臓を提供した生体肝移植の執刀医である。

肝臓の状態が治療法を決める大きなポイント

[肝細胞がんの特徴]
図:肝細胞がんの特徴

肝臓がんの主な治療法は3つあります。(1)手術による切除(外科療法)(2)体内のがんに外側から針を刺し、ラジオ波を発したり、エタノールを注入してがんを殺す局所療法(3)肝臓に栄養を送る動脈をふさいで、がんを消滅させる肝動脈塞栓療法――で、治療が行われている割合は、それぞれおよそ3分の1ずつを占めています。

このうちどの治療を選ぶかは、肝臓がんの場合、がんの数や大きさだけでなく、肝臓そのものの状態にも大きく左右されます。

肝臓が全然ないと人間は生きていけませんが、ある程度残せれば肝臓の組織は再び増え、大きさが元に戻るという特徴をもっています。けれども、肝臓がんの9割はウイルス性肝炎(C型肝炎7割、B型肝炎2割)が重くなり、慢性肝炎や肝硬変を起こした肝臓から発生しているので、肝機能が十分ではありません。そのため、肝機能を見極めて、治療法を選ぶ必要があるのです。幸い、日本でも2005年には『肝癌診療ガイドライン』がつくられ、どんなケースではどんな治療法がふさわしいかを示した、アルゴリズム(処方)が出されています(下図参照)。

肝臓の障害度は軽い順からA、B、Cと3つのレベルに区分され、そのなかで手術が適応されるのはA、Bの段階です。

たとえば、肝障害度がAまたはBの場合で、がんの数が1つだけの場合は、手術(切除)か局所療法が選択されます。肝障害度がAまたはBでがんが2~3個あり、その大きさが3センチ以内なら、やはり切除か局所療法。3センチ以上ある場合は、切除または動脈塞栓療法が選ばれます。ラジオ波焼灼療法やエタノール注入などの局所療法は、がんのサイズが大きい場合にはあまり効果が上がらないためです。

肝臓の状態が悪くなくても(肝障害度AまたはB)、がんが4個以上あれば動脈塞栓療法や、肝臓の動脈に直接抗がん剤を入れる肝動脈注入化学療法(肝動注)が適しているとされます。また、肝障害度がCときわめて悪いケースで、がんが1個なら5センチ以内、2、3個なら3センチ以内(ミラノ基準内・後述)なら肝臓移植が、4個以上の場合はがんのサイズにかかわらず、緩和医療が適している、とされます。ただし、これはあくまでガイドラインであり、実際には患者さんの希望や、病院が得意とする治療などによって、治療法には違いがあります。たとえば、がんの大きさが4~5センチあっても、積極的に局所療法を行うところもある、という具合です。

[肝細胞がん治療のアルゴリズム] 図:肝細胞がん治療のアルゴリズム

(2005年度 肝癌診療ガイドライン)

[肝臓がんのステージ]

ステージ 1腫瘍が3項目(単発、2センチ以下、血管への浸潤を伴わない)のうち、
すべての項目が合致し、かつリンパ節転移、遠隔転移を伴わないもの
ステージ2 腫瘍が3項目のうち2項目が合致し、かつリンパ節転移、遠隔転移を伴わないもの
ステージ3 腫瘍が3項目のうち、1項目が合致し、かつリンパ節転移、遠隔転移を伴わないもの
ステージ4 腫瘍が3項目のどれも合致しないか、リンパ節転移もしくは遠隔転移を伴うもの
さらに、リンパ節転移があるもの、遠隔転移(肝臓以外の身体部分に転移がある)は3項目の合致数にかかわらずすべてステージ4となる

健康な人なら3分の2をとっても再生する臓器

[本邦における肝細胞がんに対する治療法]
図:本邦における肝細胞がんに対する治療法

出展:第17回全国原発性肝癌追跡調査報告
(2002-2003):15681例

3つの治療法のうち、ここでは手術(外科療法)について、くわしくご説明しましょう。肝臓がんの手術には、切除と移植の2つがあります。

まず、切除です。肝切除の対象となるか否かは、(1)腫瘍条件(大きさなど)(2)肝機能条件――の2つによって決定されます。一般的に切除が適していると考えられているのは、先にもお話したように、肝臓の状態が比較的よい「肝障害度AまたはB」で、がんが3個以内の場合です。

肝臓は重さが1000~1200グラムくらいあり、全体の約3分の2を占める右葉と、3分の1を占める左葉に分かれています。そして、健康な人なら全体の3分の2(たとえば右葉全部)をとってもまず問題なく、だんだん再生して、半年後くらいには大きさも機能もほとんど元に戻ります。

けれども、肝障害がある人から大きくとるのは危険です。肝臓をとりすぎると、肝機能が回復しませんから、生命を維持することができないのです。そこで、肝障害度を判定するいくつかの項目に照らし、切る範囲が決められることになります。

日本のガイドラインにおいて、肝障害度を判定する項目は、

(1)腹水の有無

(2)血清ビリルビン値(黄疸を起こしているかどうか)

(3)血清アルブミン値(肝臓でつくられる重要なたんぱく質の合成能を反映する値)

(4)ICG15分値(肝臓でしか代謝されない色素インドシアニン・グリーンを注射し、15分後に血中からどれだけなくなっているかを調べて肝機能を測るもの)

(5)プロトロンビン時間(やはり肝臓でのたんぱく質の合成能をみる検査値)

となっています。人により症状が違いますが、5項目中2項目にCがあれば、「C」と判定します。


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