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肝臓がんへの新しい希望、5-FUとインターフェロン併用療法 奏効率50%。しかし、決して楽な治療ではない

監修:門田守人 大阪大学付属病院消化器外科教授
取材・文:塚田真紀子
発行:2006年1月
更新:2019年6月

  
門田守人さん
大阪大学付属病院教授の
門田守人さん

肝臓がんに対する治療法は、他のがんよりも選択肢がたくさんある。しかし、次々に顔をもたげてくる肝臓がんは、それでもそのうちに打つ手が尽きてしまう。そんな希望がなくなった患者に新しい灯がともされた。5-FUとインターフェロンの併用療法だ。ところがこれは、ある大学教授の思いつきで生まれたものだった。

「試しにやって効果があった」治療法!?

[肝臓がんに対する各種治療と腫瘍マーカーの推移]
図:肝臓がんに対する各種治療と腫瘍マーカーの推移

肝臓がんには現在、さまざまな治療法がある。手術、ラジオ波凝固療法、肝動脈塞栓法(TAE)などといった局所療法だ。再発しても、その都度、治療を受けることができる。

しかし、肝臓内への再発を繰り返すうち、“もはや手だてがない”と言われる状況が訪れる。

ある人はそのとき、医師から

「もう病院に来なくてもいいですよ。のんびりと過ごしてください」と言われた。彼は、

「(発がんから)10年生存してきたのは、主治医のおかげ。だけど、“見放された”と感じた」と語る。彼にとって、治療を受けることは生きるための「希望」に等しい。

そんな「治療を受けたい」という患者の思いに応え得る、新たな治療法が、5-FU(一般名フルオロウラシル)とインターフェロンを併用した化学療法だ。

この治療法を開発した、大阪大学教授の門田守人さんをたずねると、開口いちばん、意外な言葉が飛び出した。 「この治療法は、基本的には『患者さんにやってみて効果があった』というものです」

つまり、当初は、「試しにやってみた治療法」で、確固たるデータに基づいたものではなかった。そこには、やむにやまれぬ事情があった、という。

「もしかして」の思いつきの発想

約10年前の1995年、門田さんの医局出身のAさんが肝臓がんにかかった。40歳代半ばで、開業したばかりだった。

Aさんはがんの切除手術を受けた。が、10カ月後、がんは肝臓内に再発する。その治療(TAE)の最中、肺と骨への転移が見つかった。一般的には、“最終的な段階”で、これという治療法が考えられない状態だった。

[5-FUとインターフェロンの併用療法の
第1号となった患者Aさんの例]

写真:肝臓内にできた多数のがん
肝臓内にできた多数のがん
(黒い部分ががん)(1997年2月)
写真:骨への転移がん
骨への転移がん(1997年2月)

「それでも何かしてあげられないかと考えた。彼は開業したてだったから、後片づけをしなくてはならない。家に帰してあげなければ、と思いました」

と、門田さんは振り返る。

ふつうの治療法では結果が見えている。そこで門田さんは、「ふつうプラスα」の治療として、少し変わったことをやってみようとした。ただし、終末期に近い人に、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を下げるようなことはできない。

「何とか日常の生活をしながら」を念頭に置き、考えをめぐらせる。

そのときひらめいたのが、抗がん剤の5-FUの経口剤、UFT(一般名テガフール・ウラシル)と、サイトカイン(細胞分泌物質)のインターフェロンαを併用するというアイデアだ。

「UFTは家でのむことができる。ただ、それだけで効くとは、誰も思わない。そこからは、まったくの思いつきで、インターフェロンの併用を考えました。インターフェロンは世に出てきた昔、“夢の抗がん剤”と言われたことがあった。劇的に効く臓器はなかったものの、腎がん、血管腫などには、保険の適用が認められています。抗がん剤としての機能がなきにしもあらず、と言える」

UFTとインターフェロン。1つひとつは誰も「効く」とは思わない。しかし、それを一緒に使ってみたらどうか。いわば“苦肉の策”だった。

「うちの教室にいた仲間だから、『何とかがんばりなさいよ』と言ってあげたい気持ちがあった。『効く』ことを期待したとは決して思えないけど、“もしやして”と。悪い言葉で言えば、なぐさめ、夢を持たせてあげる気持ちのほうが強かったかもわからんわね」

再発がんも転移がんも消えた

写真:肺への転移がん
肺への転移がん(1997年2月)

写真:半年後にはがんが縮小
半年後にはがんが縮小している(1997年8月)

写真:がんが再発してきたところ
がんが再発してきたところ(2001年11月)
 

〔写真資料 Journal of Gastroenterology and Hepatology(2000)15,1447-1451〕

ところが、この「思いつき的治療法」が、思いもよらぬ効果を発揮することになる。

当時、Aさんは肝臓への再発、肺と骨への転移という状況で、余命はそれほど長いとは思えなかった。門田さんは外来の若い医師にAさんの主治医を任せた。

5-FUの経口剤(UFT)を1日に300ミリグラム服用し、インターフェロンαを週3回、注射する。これを継続した。骨転移には、放射線治療も併用した。

数カ月経ったとき、門田さんは「おい、彼、どうしてる?」と主治医にたずねた。すると、主治医は笑顔で応えた。

「それが、非常に調子がいいんです」

Aさんの肺に転移したがんが、次第に小さくなっている、という。まさか、という思いで門田さんが調べたときには、肺転移がんも、骨転移も、肝臓内への再発がんもなくなっていた。約3年間、その状態が続き、がんは姿を現さなかった。Aさんはその間ずっと、開業した医院でフルタイムの仕事を続けることができた。

3年を過ぎたころ、肝臓に再発し、この併用化学療法を始めてからちょうど5年後に、Aさんは亡くなった。

「彼が5年生きたのは、『奇跡』に近いわけよね?」

門田さん自身、信じられない思いだった。が、その“奇跡”が再び訪れる。


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