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ウイルス駆除率が飛躍的に向上し、治療効果は肝臓移植にも匹敵する根治療法
肝臓がんの再発を抑えるペグインターフェロン、リバビリン併用療法

監修:小俣政男 東京大学医学部付属病院消化器内科教授
取材・文:松沢 実
発行:2005年4月
更新:2013年4月

  
小俣政男さん
東京大学医学部付属病院
消化器内科教授の
小俣政男さん

肝臓がんの治療は、(1) 手術、(2) ラジオ波焼灼療法等の経皮的局所療法、(3) 肝動脈塞栓療法の3つが柱だが、それぞれいずれも1回の治療で終わることはほとんどない。

初回治療で一旦がんを消失させても、術後1年以内に25~30パーセントが再発し、年を追うごとに増え、5年以内に70~80パーセントが再発する。

肝臓がんが再発するのは、肝炎ウイルスによって慢性肝炎から肝硬変へ進行した肝臓を発生母地としているからだ。日本の肝臓がんの8割はC型肝炎ウイルスの感染が原因だ。B型肝炎ウイルスによるものは1割で、両者をあわせると肝臓がんの9割は肝炎ウイルスによる。

「肝臓がんの原因の大半を占めるC型肝炎ウイルスは、感染後、急性肝炎から慢性肝炎に移行し、『雨だれが石をうがつ』ように肝臓への障害を積もり積もらせて肝硬変へと進行し、最終的にがんを発生させると考えられています」

と、東京大学医学部付属病院消化器内科教授の小俣政男さんは指摘する。

つまり、初回治療でがんを消失させても、肝臓にウイルスが残っている限り、がんの発生は繰り返される。そのたびに先述した3本柱の治療が行われるものの、いずれ治療できなくなるというのが肝臓がん治療の最大のネックだった。それを突き破る新たな治療法として、いま注目を集めているのがペグインターフェロンとリバビリン併用療法にほかならない。

ペグインターフェロン、リバビリン併用療法は、C型肝炎ウイルスを肝臓から駆除し、がんの発生原因を根本から取り除くという根治療法だ。がんのみを治療していた従来の肝臓がん治療の5年生存率は45パーセントにとどまるのに対し、続けて同併用療法でウイルスを駆除したときの5年生存率は80パーセント近くにのぼるというデータも明らかにされ、がん患者とその家族から大きな期待が寄せられている。

血中半減期の向上により週1回の投与で治療可能に

リバビリン(商品名レベトール)
ペグインターフェロン(商品名ペグイントロン)

インターフェロンはもともとウイルスが感染したときに体内でつくりだされるウイルス抑制因子だ。しかし、C型肝炎ウイルスを駆除できるほどの量はつくられないため、注射で大量に補って駆除しようというのがインターフェロン療法である。

「ペグインターフェロンは従来のインターフェロンにポリエチレングリコールという物質を結合させ、体内でゆっくり作用させるようにつくられた新たなインターフェロンです。従来のものは投与後の血中半減期(血液中で薬の濃度が半分になる時間)が8時間程度だったのに対し、ペグインターフェロンの血中半減期は90時間と長期にわたるため週1回の投与で十分な抗ウイルス作用が発揮されるという優れた特徴を持ちます」(小俣さん)

「ペグイントロン(商品名)」と「ペガシス(同)」の2つがあり、前者はシェリング・プラウ社、後者は中外製薬から発売されている。

一方、リバビリン(商品名レベトール)はもともとインフルエンザや帯状疱疹などの治療に用いられていた経口の抗ウイルス薬だ。インターフェロンと一緒に用いると、インターフェロン単独投与と比べ、ウイルス駆除効果が2~3倍高められることから併用されるようになった。現在、インターフェロンとリバビリンを併用投与するのが、C型肝炎ウイルスを駆除する国際的な標準治療となっている。

ペグインターフェロン+リバビリンの併用療法は、従来型インターフェロンの単独投与や従来型インターフェロン+リバビリン併用療法よりウイルス駆除効果が高く、かつウイルスの駆除が肝臓がんの再発防止に直結するので、それだけ再発予防効果は大きいだろうと期待されているのだ。

[従来型インターフェロンとペグインターフェロンの血中濃度の推移]
図:従来型インターフェロンとペグインターフェロンの血中濃度の推移

従来型のインターフェロン(商品名イントロンA)は投与後の血中半減期が8時間程度だったのに対し、ペグインターフェロン(商品名ペグイントロン)の血中半減期は90時間と長期にわたる

従来の薬が効かない患者の19.2%に効果が

インターフェロン療法のウイルス駆除効果の程度を決めるポイントは、C型肝炎ウイルスの量と質(タイプ)である。

「ウイルスの量が多ければ多いほどインターフェロンは効きにくくなり、少なければ少ないほど駆除効果が大きくなります」(小俣さん)

その目安は血液1cc中のC型肝炎ウイルスの量で、100万個以上のときは効きにくく、100万個以下の場合は駆除効果が大きい。

一方、ウイルスの質とはC型肝炎ウイルスのタイプのことで、1型と2型の2つに大きく分けられる。前者はインターフェロンが効きにくく、後者は効きやすい。

ウイルス量とウイルスのタイプによってインターフェロン療法の効き方は、(1) 2型、(2) 1型低ウイルス量、(3) 1型高ウイルス量の3つに分けられる。2型がもっとも駆除効果が大きく、次が1型低ウイルス量で、1型高ウイルス量がもっとも効きにくい。実は、日本人のC型肝炎ウイルスによる肝臓がんは、その70~75パーセントが1型高ウイルス量の難治性タイプで、残りの20~25パーセントが2型である。

実際、従来型インターフェロンの単独投与では、2型のウイルス駆除率は60パーセント、1型低ウイルス量が40~50パーセント、1型高ウイルス量が7パーセントである。

また、従来型インターフェロン+リバビリンの併用療法では、2型のウイルス駆除率は80パーセントに上がったものの、1型低ウイルス量は20パーセントと低下し、1型高ウイルス量は20パーセントにとどまっていた。

しかし、ペグインターフェロン+リバビリンの併用療法では、海外のデータによると2型のウイルス駆除率が90パーセント、1型低ウイルス量が50~60パーセント、1型高ウイルス量が44~46パーセントに達したのである。

「日本でもペグインターフェロン+リバビリンの併用療法の臨床試験が実施され、1型高ウイルス量の難治性タイプの駆除率は43.1パーセントと驚異的な治療成績をあげました。

加えて、インターフェロン療法で一旦はウイルスが消失したのに、また再燃したケースでの駆除率は62.6パーセントに達しました。さらに、これまでインターフェロン療法がまったく効かなかった患者でも19.2パーセントが駆除に成功したのです」(小俣さん)

以上の治療成績はシェリング・プラウ社の「ペグイントロン」を用いた臨床試験の結果だが、中外製薬の「ペガシス」とリバビリンの併用療法では1型高ウイルス量の難治性タイプの駆除率がさらに改善して59.4パーセントにのぼっている。

「ペグインターフェロン+リバビリンの併用療法で、ウイルスの駆除が飛躍的に高まるのは間違いありません。それだけ再発も抑えられるようになり、肝臓がんの患者さんの予後は改善されます」(小俣さん)

ペグインターフェロン+リバビリンの併用療法が、肝臓がんの再発予防効果をもたらすというのは、こうしたデータの積み重ねに拠っているのである。

[インターフェロン療法によるウイルス駆除効果]

投与薬剤 投与前の患者の状態 2型 1型低ウィルス量
(1Mec/cc以下)
1型高ウィルス量
(1Mec/cc以下)
従来型インターフェロン単独 60% 40~50% 7%
従来型インターフェロン+リバビリン 80% 20% 20%
ペグインターフェロン+リバビリン
(海外のデータ)
90% 50~60% 44~46%
ペグイントロン+リバビリン
(シェリング・プラウ社)
新規患者 43.1%
インターフェロン療法で一旦ウイルスが
消失したものの、また再燃した患者
62.6%
インターフェロン療法が全く効かなかった患者 19.2%
ペガシス+リバビリン
(中外製薬/ロッシュ)
新規患者 ―- 59.4%

[インターフェロン治療歴別ウイルス駆除率]
図:従インターフェロン治療歴別ウイルス駆除率

ウイルス駆除率(投与終了後24週目)をインターフェロン治療歴別にみると、未治療例で43.1%(59/137)、再燃例で62.6%(57/91)、無効例で19.2%(5/26)であり、未治療例及び再燃例に対して特に優れた効果を示した


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