国内3番手となるALK阻害薬も開発中
新たな治療薬も登場!肺がんALK阻害薬の最新情報
ここ2~3年でALK融合遺伝子を持つ肺がん患者さんの治療環境は大きく変わった。そのきっかけとなったのが、2012年に登場したザーコリだ。さらに2014年9月には新たなALK阻害薬アレセンサも登場し、患者さんにとっては福音となっている。
ALK融合遺伝子発見で治療環境は激変
進行してしまうと、治療が厳しいとされる肺がんだが、最近の治療薬の進歩は目を見張るものがある。今では様々ながんの治療薬として使われるようになった分子標的薬だが、肺がんにおいてはいち早く開発が行われ、臨床現場でも取り入れられてきた。
肺がんでは2002年、EGFR(上皮成長因子受容体)という遺伝子の変異を標的にした*イレッサが承認されて話題となった。同じ変異を標的にする*タルセバも2004年に登場している。
そんな中、2007年に新たに発見されたのが、ALK融合遺伝子だ。
ALK融合遺伝子は、ALKという遺伝子とEML-4などの遺伝子がそれぞれちぎれてくっ付く(転座という)ことによって、がんの発生や増殖に深く関わっている。
「これは慢性骨髄性白血病で以前から知られているBCR-ABLという融合遺伝子と同じメカニズムです。しかし、肺がんのような固形がんでそれが明らかになったのは画期的なことでした。ALK融合遺伝子の発がん・増殖能力はかなりのもので、発見した自治医科大学(当時)の間野(博行)先生は〝がん遺伝子の横綱〟と評しています。そしてそのALK融合遺伝子が作る異常タンパクを標的にしてその作用を抑える薬が、ALK阻害薬です」
そう説明するのは聖路加国際病院呼吸器センター呼吸器内科医長の田村友秀さん。
ALK融合遺伝子を持つ患者さんは、非小細胞肺がんの中の腺がんというタイプで、たばこをあまり吸わない人や若い人に多い。非小細胞肺がん全体の3~5%だが、該当する患者さんと家族、治療にあたる医師にとっては、非常に大きなニュースとなった。
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ
ザーコリはALK融合遺伝子を持つ肺がんの標準治療薬に
ザーコリの効果(無増悪生存期間)
そして2012年、ALK阻害薬である*ザーコリが承認された。ALK融合遺伝子の働きを阻害し、がんの増殖を抑え、縮小させる効果が認められたのだ。
「ザーコリについては、実施された2つの第Ⅲ相試験から有用性が明らかになっています。1つが、既に別の化学療法を受けた患者さんにおいて、ザーコリ群と化学療法群に割り付けて比較したものです。肺がんが進行するまでの期間である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、化学療法群で3.0カ月に対し、ザーコリ群で7.7カ月と倍以上に延長しています。そしてもう1つが、前治療歴がない患者さん343人を対象に、ザーコリ群と従来の化学療法群を比較した試験です。この試験でも、無増悪生存期間中央値がザーコリ群で10.9カ月、化学療法群で7.0カ月と、ザーコリ群が大きく勝りました」(図1)
これらの結果から、ザーコリはALK融合遺伝子を持つ肺がん患者さんの第1選択の治療(標準治療)として位置付けられることとなった。
*ザーコリ=一般名クリゾチニブ
次第に効かなくなってしまう耐性の問題
ところがザーコリも、やがて効果がなくなってしまうことがわかってきた。ザーコリが効かないがん細胞が出現してくるのである。これを耐性という。個人差は大きいが、治療開始から7~10カ月ほどで耐性が出現することが多いとされる。
ALK融合遺伝子から作られる異常なALK融合タンパクは、ATP(アデノシン三リン酸)と結合することで活性化し、がん細胞を増殖させる刺激を下流に放出する。ALK阻害薬は、ALK融合タンパクのATP結合部位に先回りして結合し、ATPとの結合をブロックしてがん細胞の増殖を抑える薬だ(図2)。
しかし、ザーコリを使用しているうちに、ALK融合タンパクのATP結合部位に変化が起こり、ザーコリが結合しにくくなってしまうのが、耐性のメカニズムの1つとして考えられている。他にも、別の刺激を伝えるルートからALK融合タンパクを迂回して増殖の刺激が下流に伝えられてしまうなどといったメカニズムも明らかにされており、耐性メカニズムの全貌はまだわかっていないのが現状だ。
「個人差も大きいですが7~10カ月でザーコリに耐性となってしまう患者さんが多いです。また、ザーコリは脳内に届きにくく、脳に初再発する患者さんも5~6割を占めます」
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