国内初のリキッドバイオプシーによる遺伝子変異検出キットも承認
第3世代タグリッソ登場で非小細胞肺がん治療はさらに進化
昨年(2016年)3月、第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として、タグリッソが承認された。第1世代、第2世代、第3世代と、現在4剤あるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬。それぞれの薬剤をどのように使い分けていけばいいのか。薬が次第に効かなくなる耐性化の問題、国内初となる血液による遺伝子変異検出キットの承認など、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の現状について、専門家に話をうかがった。
第3世代薬まであるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬
肺がんの確定診断のために組織を採取して病理診断が行われるが、このときにEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子に変異があるかどうかも調べる必要がある。この遺伝子変異を持つ非小細胞肺がんには、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)という分子標的薬が効果的であることがわかっているからだ。
神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長の加藤晃史さんは、次のように説明する。
「この遺伝子診断を行わないと、患者さんがEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療を受けるチャンスが失われてしまいます。EGFR遺伝子変異のある場合、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療が加わるかどうかで、生存期間が1年余り違ってきます。そうした臨床試験の結果を踏まえ、『肺癌診療ガイドライン』では、手術不能または再発の非小細胞肺がんで、EGFR遺伝子変異が陽性なら、初回治療としてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用することが強く推奨されています」
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬には4つの薬剤がある(表1)。*イレッサと*タルセバが第1世代薬、*ジオトリフが第2世代薬、*タグリッソが第3世代薬とされている。
「このうちタグリッソは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に耐性ができた場合に使用できる薬です。したがって、初回治療で使えるのは、イレッサ、タルセバ、ジオトリフの3つの薬剤ということになります」
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ *ジオトリフ=一般名アファチニブ *タグリッソ=一般名オシメルチニブ
エクソン19欠失変異陽性ならジオトリフ
では、初回治療において、3つの薬剤をどのように使い分けていけばいいのだろうか。
「効果はイレッサよりもタルセバ、タルセバよりもジオトリフのほうが強い傾向がありますが、効果が高いと副作用も強くなる傾向があります。とくにジオトリフに特徴的な副作用は皮膚障害と下痢で、皮膚障害に対しては、イレッサ、タルセバでも経験してきたのでどの施設でも適切なスキンケアが行えるようになっていますが、下痢に対しては、必ずしも適切なケアの方法が周知されているとは言い切れません。そのため、強い下痢が現れることがあるジオトリフは、臨床の現場で使いづらい、と考えられがちです」
しかし、ジオトリフは副作用が強いだけの薬ではなく、臨床試験で効果が優れていることも明らかになっている。
「EGFRの遺伝子変異を持つ患者さんの約半数が、エクソン19という遺伝子の部位に欠失を持つことがわかっています。そして、このエクソン19欠失変異を持っている患者さんではジオトリフがとくによく効くことが明らかになっており、日本人の患者さんにおいても、それが証明されています。初回治療でジオトリフを使う群と、抗がん薬による化学療法を行う群との比較では、エクソン19欠失変異陽性の方の解析で、ジオトリフを使ったほうが全生存期間(OS)が明らかに延長しており、その差は1年以上にも及ぶことがわかっています(表2)」
つまり、エクソン19欠失変異が陽性であれば、1次治療でジオトリフを使ったほうがより治療効果が期待できるということになる。しかし、実際には必ずしもそのような治療が選択されているとは言えず、「副作用が強い」という理由で、敬遠されているケースも多いという。
「ジオトリフによる下痢は、下痢止めの薬(止瀉薬:ししゃやく)を適切に使用することでコントロールが可能です。患者さんには、3剤を使用した場合に考えられる効果と副作用に関する情報を伝え、治療を選択できるようにする必要があります。できるだけ予後(よご)を延ばしたいという人もいれば、とにかく副作用が軽いほうがいいという人もいるかもしれません。そうしたことを考慮して、3剤を適切に使い分けていくことが大切だと思います」
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