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低栄養が独立した予後因子に-ホルモン未治療転移性前立腺がん 積極的治療を考慮する上で有用となる

監修●成田伸太郎 秋田大学大学院研究科腎泌尿器科学講座/同大学附属病院血液浄化療法部准教授
取材・文●伊波達也
発行:2020年3月
更新:2020年3月

  

「栄養スコアを今までの予後因子と組み合わせることで、予後の層別化にさらに役立つ」と述べる
成田伸太郎さん

早期発見なら、ほぼ100%に近い5年生存率が見込める前立腺がん。しかし、進行がんで見つかった場合には難治性となる。特にホルモン療法後に進行する去勢抵抗性(castration-resistant)の症例ではより治療が難しくなる。そんな進行がんに対する研究をはじめ様々なテーマの研究を、多施設の後ろ向き(レトロスペクティブ)データを蓄積したデータベースを用いて行っているのが『みちのく泌尿器癌研究班』だ。研究班の一員として研究に取り組む、秋田大学大学院研究科腎泌尿器科学講座/同大学附属病院血液浄化療法部准教授の成田伸太郎さんに現状を聞いた。

日常的に密に連絡を取り合いながら次々に成果-『みちのく泌尿器癌研究班』

前立腺がんをはじめ、泌尿器関連のがんを研究する複数の施設がタッグを組んだグループの動きが東北地方で活発だ。『みちのく泌尿器癌研究班』という研究グループである。

2006年に立ち上がったこの研究班は、東北大学、弘前大学、秋田大学の3大学、そして宮城県立がんセンターという4施設から始まった。

2016年からは山形大学が参加し、現在では、福島県立医科大学、そして筑波大学も加わった。

同研究班は、1年に1度、春に一堂に会してのミーティングを行い、過去1年の研究成果を振り返り、次年の様々な研究課題について話し合う。そして着手する研究を選定している。

日常的には、個々の研究についてメール会議などで、密に連絡を取り合いながら、研究を実施し、次々に成果を出している。

前立腺がんでは全摘手術患者約1,300例を対象

研究班において、前立腺がんの後ろ向き研究に着手したのは、前立腺全摘手術の患者のデータの集積だ。2000~2009年までのデータを集めたところ、最終的には約1,300例が集まった。

日本においては、このような大規模な後ろ向きデータを集積することはなかなか難しかったが、同研究班はそれを実現している。各施設の研究に対する姿勢も熱心で、これらのデータベースをもとに、しっかりした協力体制のもと、現在までに様々な解析が行われている。論文も16本を数える。

そのうちの3本の論文を担当しているのが、秋田大学大学院研究科腎泌尿器科学講座/同大学附属病院血液浄化療法部准教授の成田伸太郎さんだ。

「私自身は、2013年から研究班に関わっているのですが、後向きとはいえ、ここ集積されているのは膨大なデータベースです。これらを解析することにより様々なことが検証できる点で大いに意義があるデータベースだと思います」

ホルモン未治療転移性前立腺がん患者656例を後ろ向きに解析

現在も様々な角度から研究が進んでいるが、その中の一つが、弘前大学を中心に行われた研究で、成田さんも参加しているのが、診断時の低栄養はホルモン未治療転移性前立腺がん(mHNPC)の予後因子となる可能性があるということについての研究だ。

mHNPCの患者656例を後ろ向きに解析した。2005~2017年に初回アンドロゲン除去療法(ADT)を受けていた患者たちだ。

「栄養を解析する指標はいろいろあるのですが、この研究はGNRI(Geriatric Nutritional Risk Index:高齢患者栄養関連リスク指標)という栄養を測定するスコアを用いました。

GNRIは、高齢者向けに作られた栄養スクリーニングツールです。他のがんでは予後と関係すると言われている指標です。血清アルブミン値と実際の体重と理想体重(BMI [体格指数] の理想値22程度)などを用いた計算式(14.89×血清アルブミン値÷41.7×(実質体重÷理想体重))で、患者さんの栄養状態、痩(や)せなどを算出することができます」

低栄養が独立した予後因子に

計算式で算出したGNRIスコアの値が92.0以上の人を普通の栄養状態とし、92.0未満の人を低栄養状態として、先行論文の根拠に基づいて分類した。すると、656例のうちの評価対象にできた329例の中で66例(19%)が低栄養グループに分類された(表)。

■表 研究対象となった症例の臨床的な特性(属性)

Normal nutrition: 通常の栄養状態
Poor nutrition: 低栄養状態
GNRI: 高齢患者栄養関連リスク指標
P value: p値

Total number of patients: 患者総数
Year of diagnosis: 診断年間
Age at diagnosis (years) (median, IQR) 診断年齢(歳)(中央値、四分位範囲):
BMI(体格指数、四分位範囲)
Initial PSA(ng/mL)(median, IQR): 診断時前立腺特異抗原値(中央値、四分位範囲)
ECOG performance status: 米国東海岸臨床試験グループ(ECOG)全身状態
Laboratory data at diagnosis (median, IQR) : 診断時臨床検査値
 Hb (g/dL): ヘモグロビン値(g/dL)
 LDH (IU/L) : 乳酸脱水素酵素(IU/L)
 ALP(IU/L) : アルカリホスファターゼ値(IU/L)
Serum albumin (g/dL) : 血漿アルブミン値(g/dL)
Gleason score≧8 (%): グリソンスコア8 以上 (%)
Metastasis site (%): 転移部位(%)
 Bone: 骨
 Lung: 肺
 Liver: 肝臓
 Others: その他
EOD score >1: 骨シンチスコア 1超(%)
M stage: 転移ステージ
 M1a (distant lymphnode metastases only): Mla(遠隔リンパ節のみ)
 M1b (bone metastases): M1b(骨転移)
 M1c (visceral metastases): M1c(内臓転移)
CHAARETED-HVD (%): CHAARTED試験基準-高腫瘍量疾患(%)
The use of docetaxel (%): ドセタキセル使用(%)
The use of bone modifying agent (%) :骨修飾薬使用(%)
The use of new type of anti-androgen receptor antagonists (%) : 新タイプの抗アンドロゲン受容体拮抗薬使用(%)
Clinical outcomes: 臨床的転帰(アウトカム)
 CRPC development (%): 去勢抵抗性前立腺がんに進展(%)
 Deseased (%): 死去(%)
Follow-up period (months): 追跡期間(月)

「全生存期間(OS)は、普通の栄養状態の人が82カ月であるに対して、低栄養の人が36カ月でした。多変量解析によって、低栄養というものが、独立した予後因子であることがわかりました(図1)。また、ヘモグロビン(Hb)と乳酸脱水素酵素(LDH)値もこれらに関与していたこともわかりました。これがこの論文の骨子です」

■図1 高齢患者栄養関連リスク指標(GNRI)スコアに基づく全生存期間(OS)の比較

Overall survival(全生存期間)
Percent survival(生存率)
Months(生存期間:月)
P : p値

この検討では、下記を調べている。

「去勢抵抗性になるまでの期間と全生存率といった予後との関連を調べている研究です。そのため、低栄養のグループが実際にどのような治療をしてどういう結果に至ったかという点までは、この検討からはわかりません」

つまり、低栄養がmHNPCの予後因子となるという結論だという。

「後向き解析ですので、栄養状態が予後の因子であることはわかりましたが、こういう患者さんたちにこういう治療をした方が良いとか悪いとかいうことは、今回の研究では統計学的にはわかりません。

ただ、あくまでも仮説的なことにはなりますが、栄養スコアがもともと悪い人は、少なくとも2016年までに行っていた初期治療(ホルモン単独療法)においては、予後の悪いグループであることは事実であるため、そういう患者さんたちに対してはどういう治療が良いのかということを、次の研究で検討していかなくてはならないと考えています。当時の治療が不十分だった可能性があり、追加治療や他の治療選択肢が有効な可能性があると推測されます」

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