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日本発〝触覚〟のある手術支援ロボットが登場 前立腺がんで初の手術、広がる可能性

監修●三木 淳 東京慈恵会医科大学附属柏病院泌尿器科診療部長/准教授
取材・文●半沢裕子
発行:2023年10月
更新:2023年10月

  

「Saroaの大きな特徴の1つは、従来のロボットになかった〝触覚〟です。物をつかんだ強さが鉗子にフィードバックされます」と語る三木さん

米国で誕生した内視鏡下手術支援ロボットのダヴィンチが日本に導入されて約20年。その後ロボット手術の普及はめざましく、今やほとんどのがん領域でロボット手術が保険で行えます。そんな中、日本で開発された手術支援ロボットSaroaが2023年5月に承認されました。

7月に大腸がん、8月には前立腺がん手術が行われました。圧倒的シェアを誇るダヴィンチにない特性〝触覚〟を持つSaroaで、初めて前立腺全摘術を行った東京慈恵会医科大学附属柏病院泌尿器科診療部長/准教授の三木淳さんに話を伺いました。

がん治療におけるロボット手術の現状は?

外科手術は、腹腔鏡下手術の普及で大きく変わったと言われます。腹腔鏡下手術とは、腹部に複数の小さな穴をあけてそこから腹腔鏡や手術器具を入れ、手術する部位の拡大画像を見ながら行う手術です。開腹しないため傷口が小さく回復も早いので、体へのダメージが少ないのが特徴です。

その腹腔鏡下手術をさらに進化させたのが、「ロボット支援手術」。いわゆるロボット手術(ダヴィンチ手術)です。世界で最も普及している機器は米国で開発されたダヴィンチ・サージカル・システムで、日本でも多くの医療機関に導入されています。

医師はサージョンコンソールと呼ばれる操縦席にすわり、高画質で立体的な3Dハイビジョン画像を見ながら、手もとのコントローラーを操作します。その動きは4本のロボットアームに伝わり、精密な手術を行うことができるのです。

ダヴィンチはアームに取りつける鉗子の種類が多い、アームが多関節で動きの自由度が高い、立体画像は最大15倍まで拡大可能、手ぶれ防止機能により突発的な動きが抑えられるといったメリットがあります。

「今、ロボット手術が普及していますが、日本に限らず海外で行われているロボット手術の機器の約99%がダヴィンチで、ほぼ独占状態です」と東京慈恵会医科大学附属柏病院泌尿器科診療部長の三木淳さん。

一方、最大のデメリットは価格が高いこと。今現在、手術支援ロボットシステムの開発は世界各国で進められています。ちなみに2020年8月に国産第1号のhinotori(ヒノトリ)、2022年12月に英国のHugo(ヒューゴ)が認可され、今回のSaroa(サロア)は国産では2番目になります(画像1)。

新しく登場したSaroaの特徴は何ですか?

Saroaの特徴はまず小型ということ。狭い手術室でも使え、取り扱いやすいという利点があり、助手の参加もしやすいとのこと。ダヴィンチのサージョンコンソールはボックスを覗きながら行うスタイルですが、SaroaとHugoはオープン・コンソールです。

「手元だけでなく手術室全体が見えるので、助手などほかの医療スタッフとのコミュニケーションがとりやすく、術者が操作するのも楽です。私は初期にダヴィンチで首と肩を痛めた経験がありますが、そうした心配もありません。今後はオープン・コンソールに変わっていくと思います」

また、ダヴィンチや他の2機種では専用のカメラが必要ですが、Saroaはどのメーカーの腹腔鏡カメラでも使用できます。

「腹腔鏡手術を行なっている病院なら導入しやすく、従来の3つにない発想だと思います。さらに、ダヴィンチの最高機種がオープン価格で3億円程度、Saroaは1億円を切り、ランニングコストも低価格と推定されます。腹腔鏡下手術は行ってきたが、ロボットに手が届かなかった一般の病院に急速に導入される可能性があると思います」

しかし、Saroaの最大の特徴は〝触覚〟があることだそうです。

「従来のロボット手術で鉗子の先端がぶつかってもわからないし、自分がどのくらい強く鉗子をつかんでいるかもわかりません。ですから、やわらかいものをつかむ場合は、把持力(つかむ力)の強い鉗子は使わないというように工夫してきました。しかし、Saroaは独自の空気圧精密制御技術を活かし、鉗子でぐっとつかむと、つかんだ強さが鉗子にフィードバックされる機能を有しています。感覚が手元に戻ってくるんです。それが従来の機器にはまったくなかった新しい点ですね。正確には〝触覚〟ではなく、力加減なので〝力覚〟と呼ばれています」(図2、3)

Saroaによる手術はダヴィンチと比較してどうでしたか?

2012年、前立腺がんに初めてダヴィンチが保険適用され、その後、最も広まったのが前立腺全摘術でした。Saroaによる泌尿器科領域初の手術は、8月16日、慈恵医大柏病院において行われました。60代の前立腺がん患者さんの前立腺全摘術です(画像4)。

■画像4

Saroaによる初めての前立腺全摘術の様子
■画像5

オープン・コンソールで操作する三木さん

「触覚があることで違いがあったかというと、現状では大きな違いはありませんでした。というのは、ダヴィンチには触覚はありませんが、私も含め多くの経験をもつ医師は、手術を行なっていくうちに、このくらいの強さなら柔らかく握っている、強く握っているという一種の疑似感覚を持つようになります。つまり、慣れてくると触覚がないことは克服されます」

今回、Saroaによる手術では、触覚のフィードバックを入れたときと入れないときでどう違うかというデータを取っています。

「まだ結果は出ていませんが、柔らかいもので注意しないといけないようなとき触覚はあったほうがよく、術者の疲労が相当違う可能性があり、手術の安全性で違いが出ると思います。一方、触覚がないほうがいい場合があることもわかってきました。鉗子など非常に硬いものを持つときは、フィードバックがむしろないほうが術者は疲れないなどもわかってきています」

しかし、触覚があることは、今後、メリットになると推察されます。

「今、手術によって設定を変えながらデータを取っています。フィードバックの設定はボタン1つでオン・オフもでき、強さも何倍にするか設定できます。今は実際に手術によって設定を変えながらデータを取っているところです」(画像5)

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