• rate
  • rate
  • rate

ADT+タキソテール+ザイティガ併用療法が有効! ホルモン感受性前立腺がんの生存期間を延ばした新しい薬物療法

監修●上村博司 横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科部長(診療教授)
取材・文●柄川昭彦
発行:2021年12月
更新:2021年12月

  

「転移性ホルモン感受性前立腺がんに、1次治療からADTとタキソテールとザイティガの3剤併用療法を行うことで、生存期間が延長することが明らかになりました。とくに転移が多い患者さんにとって、恩恵がある治療法と言えるでしょう」と語る上村博司さん

2021年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)で、「ADT+タキソテール」の標準治療にザイティガを加えた「ADT+タキソテール+ザイティガ」の3剤併用療法が、転移のあるホルモン感受性前立腺がんの生存期間を延長した、という「PEACE-1試験」の結果が報告された。とくに転移の数の多いハイボリュームの患者さんで、そうした効果が明らかになっている。

このエビデンスが、実際の治療にどのような変革をもたらすのだろうか。横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科部長の上村博司さんに解説してもらった。

転移がある進行前立腺がんの5年相対生存率は約50%

前立腺がんは、日本の男性がかかるがんの中で、罹患率第1位となっている。したがって、患者数は非常に多いのだが、PSA検診で早期がんの段階で発見される人も多く、5年相対生存率は他のがん種に比べると高い。そのため、「前立腺がんになっても死ぬことはない」などと思っている人が多いようだ。

しかし、決してそうではないと横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科部長の上村博司さんは言う。

「現在でも、前立腺がんの10~15%程度は、転移のある進行がんとして見つかっています。転移がなければ確かに生存率は高いのですが、転移がある段階で発見された前立腺がんの予後(よご)はけっこう厳しく、5年相対生存率は50%程度です(図1)」(上村さん)

局所に止まっている前立腺がんであれば、手術や放射線治療といった局所療法が行われるが、転移がある前立腺がんに対しては薬物療法が行われる。前立腺がんの約90%は、男性ホルモンが増殖に関わっているホルモン感受性前立腺がんなので、まずホルモン療法が行われるわけだ。

転移があるホルモン感受性前立腺がんの治療では、1次ホルモン療法としてADT(アンドロゲン除去療法)が行われる。アンドロゲン(男性ホルモン)の分泌を抑制する薬剤を使って、抗腫瘍効果を期待する治療である。

そして、「ハイボリューム」(転移の数が多い)の場合や、骨転移3個以上・グリソンスコア8以上・内臓転移という3つのうち2つ以上がある「ハイリスク」の場合には、ADTにタキソテール(一般名ドセタキセル)やザイティガ(一般名アビラテロン)といった薬剤を併用する治療が標準治療となっていた。

タキサン系抗がん薬のタキソテールと、新規ホルモン薬のザイティガは、2014年に前立腺がんの治療薬として登場している。どちらも最初はホルモン療法が効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんに対する治療薬として認められ、治療に使われるようになった。

その後、2015年に「CHAARTED試験」によって、「ADT+タキソテール併用療法」のホルモン感受性前立腺がんに対する有用性が証明された。

また、2017年には「LATITUDE試験」により、「ADT+ザイティガ併用療法」のホルモン感受性前立腺がんに対する有用性が証明されている。ハイボリュームあるいはハイリスクの転移性ホルモン感受性前立腺がんの患者さんを対象に、これらの併用療法を行ったところ、全生存期間が延長することが明らかになったのだ。

「これらの試験結果を根拠として、ハイボリュームあるいはハイリスクのホルモン感受性前立腺がんに対しては、ADTにタキソテールかザイティガを併用するのが、国際的にも標準治療となっていました」(上村さん)

ただ、臨床試験で有効性は証明されていたが、タキソテールのADTとの併用は、日本では保険で認められていなかった。それが2021年9月に保険収載され、現在では保険で使用できるようになっている。

ADTにタキソテールとザイティガを組み合わせる新しい併用療法

2021年のESMO2021(欧州臨床腫瘍学会)において、転移のあるホルモン感受性前立腺がんに対する新しい併用療法の有用性を証明した臨床試験結果が報告され、注目を集めている。「PEACE-1試験」という臨床試験で、ADTとタキソテールとザイティガの3剤を併用することで、全生存期間が延長するという結果が出ているのだ。

「PEACE-1試験」の対象となったのは、1カ所以上の遠隔転移があるホルモン感受性前立腺がんで、まだホルモン療法が行われていない患者さんたちである。実際には、対象者を4つのグループに分けて比較試験が行われた(図2)。

ここでは、放射線療法を含まない2つのグループ、従来の標準治療である「ADT+タキソテール併用群」と、3剤併用の「ADT+タキソテール+ザイティガ併用群」について、試験結果を見て行くことにしよう。

「ADT+タキソテール併用群」では、ADTを行いながら、タキソテールを3週毎に6コース投与している。3剤併用群では、これにザイティガの服用(1日1回)が加えられた。ザイティガは効果があるうちは服用を継続する。

得られた試験結果は次のようなものだった。

画像評価による無増悪生存期間(rPFS)の中央値は、「ADT+タキソテール併用群」が2.0年、「ADT+タキソテール+ザイティガ併用群」が4.5年で、中央値を2.5年延長することが明らかになった。

全生存期間(OS)の中央値は、「ADT+タキソテール併用群」が4.4年なのに対し、「ADT+タキソテール+ザイティガ併用群」はまだ中央値に達していないため評価不能となっているが、全生存期間は有意に延長したわけだ。ハザード比は0.75で、ザイティガの上乗せによって、死亡リスクが25%低下したことになる。

また、転移数が多いハイボリュームの患者さんに限って分析してみると、全生存期間中央値は、「ADT+タキソテール併用群」が3.5年なのに対し、「ADT+タキソテール+ザイティガ併用群」は5.1年だった。ザイティガを加えることで、全生存期間が有意に延長したことになる(図3)。

一方、転移の少ないローボリュームの患者さんでは、どちらの群も死亡者が半数に到達しておらず、データ不十分で有意差は認められなかった。

「PEACE-1試験によって、転移のあるホルモン感受性前立腺がんに対しては、1次治療からADTとタキソテールとザイティガの3剤を併用する強力な治療を行うことで、生存期間が延長することが明らかになりました。とくに転移が多い患者さんにとっては、恩恵がある治療法だと言えるでしょう」(上村さん)

ただ、このような臨床試験結果が得られているにも関わらず、ADTとタキソテールとザイティガの3剤を併用する治療は、実際には行えないという。3剤を同時併用する使い方が、保険適応になっていないためだ。

「試験結果は出ましたが、ヨーロッパの各国でもこの併用は認められていませんし、日本でもたぶん通らないだろうと思います。そこでどうするかというと、まずADTとタキソテールの併用を6コース行い、それに続いてADTとザイティガの併用を行うということになりそうです。これなら保険でも認められるので、日本ではこの段階的投与が現実的でしょう。また、副作用の面でも、3剤同時併用は患者さんにとってやや大変な治療です。段階的投与法は、その点でもいい治療法ではないかと思います」(上村さん)

タキソテールは抗がん薬なので、白血球減少、消化器症状(悪心・嘔吐)、食欲低下、脱力感、脱毛、爪の変化、末梢神経障害(手足のしびれ)などの副作用が現れることがある。

ザイティガの副作用としては、高血圧や浮腫が問題となり、それによって心疾患を起こしやすくなると言われている。また、ザイティガを投与する際には、副作用を軽減するためにステロイド剤のプレドニン(一般名プレドニゾロン)を併用するため、それによって血糖値が上がりやすくなることもある。

「前立腺がんは高齢者に多いがんなので、タキソテールをフルドーズ(総投与量)で6コース行えることはあまりありません。多いのは、投与量を減らさなければ6コースは難しい、といったケースです。ザイティガは心血管系の病気や血糖値の上昇といった副作用で、中止せざるを得ない場合があります」(上村さん)

治療を継続するためには、適切な副作用対策が必要になると言えそうだ。

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート10月 掲載記事更新!