リムパーザとザイティガの併用療法が承認 BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん
転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療に、新しい薬物療法が登場しました。新規ホルモン療法薬のザイティガと、BRCA遺伝子変異陽性の前立腺がんに効くリムパーザを併用する治療です。臨床試験のサブグループ解析では、病勢進行リスクを77%も減少させるという結果が出ています。この治療の対象となる患者さんは、実はあまり多くはないのですが、対象となった患者さんは、大きな恩恵を得ることができそうです。
去勢抵抗性前立腺がんとは?
2023年8月に、分子標的薬リムパーザ(一般名オラパリブ)新規ホルモン薬ザイティガ(一般名アビラテロン)の併用療法が、前立腺がんの新しい治療薬として承認されました。この併用療法の適応症は、「BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん」となっています。
まず、去勢抵抗性前立腺がんについて、簡単に説明しておきましょう。
前立腺がんは男性ホルモンの影響でがんが進行するため、男性ホルモンの分泌や働きを抑える治療が行われます。これがホルモン療法(内分泌療法)です。
主に男性ホルモンの分泌を抑制する薬剤が使われます。LH-RHアゴニストのリュープリン(一般名リュープロレリン)やゾラデックス(一般名ゴセレリン)、LH-RHアンタゴニストのゴナックス(一般名デガレリスク)などです。これらの薬剤を使って男性ホルモンの分泌を抑え、去勢状態にする治療といえます。
ホルモン療法は、切除手術や放射線治療を行うのが難しい場合や、放射線治療の前や後にも行われることがあります。また、前立腺がんが遠隔臓器に転移した転移性前立腺がんに対しては、主としてホルモン療法が行われています(図1)。
ホルモン療法は、最初は効いていても、前立腺がんを根治させることはできず、いずれ効果が弱くなります。こうしてホルモン療法が効かなくなったと診断された前立腺がんを、去勢抵抗性前立腺がんといいます。そして、去勢抵抗性前立腺がんの中で、とくに離れた臓器に転移が起きている場合を、転移性去勢抵抗性前立腺がんと呼んでいます(図2)。
去勢抵抗性前立腺がんの治療は?
去勢抵抗性前立腺がんの治療について、慶応義塾大学医学部泌尿器科学教室教授の大家基嗣さんは、次のように説明します。
「去勢抵抗性前立腺がんに対しては、かつては使用できる薬は細胞障害性抗がん薬のドセタキセル(一般名)だけでした。2014年に新規ホルモン療法薬のザイティガとイクスタンジ(一般名エンザルタミド)が承認されると、これらが去勢抵抗性前立腺がんの治療に使われ、患者さんの生存期間を延ばしてきました。同年、抗がん薬のジェブタナ(一般名カバジタキセル)も承認され、ドセタキセルが効かなくなった去勢抵抗性前立腺がんの治療に使われてきました」
さらに、2020年には、新たな治療薬としてリムパーザが登場してきました。卵巣がんや乳がんの治療にすでに使用されている薬剤ですが、前立腺がんの治療薬としても承認されました。
リムパーザは、PARP阻害薬と呼ばれる分子標的薬で、BRCA1/2遺伝子変異が陽性の場合に効果を発揮します。BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんを対象にした臨床試験で、リムパーザはイクスタンジやザイティガより優れた有効性を示し、治療薬として承認されたのです(表3)。
リムパーザの適応を判断するには?
「リムパーザの適応症は、BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんですから、この薬を使うためには、遺伝子変異の有無を検査する必要があります。このように、ある薬剤の適応を判断するために検査を行うことをコンパニオン診断といいます」
リムパーザの適応を判断するコンパニオン診断には、2つの方法があります。1つは、がん組織を採取して体細胞変異と生殖細胞系列変異を検出する「FoundationOne CDx」という検査。もう1つは、血液から生殖細胞系列変異を検出する「BRACAnalysis」という検査です。
「BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんや乳がんは、ほとんどが生殖細胞系列変異を持っています。それに対し、前立腺がんの場合は、生殖細胞系列変異を持たず、体細胞変異だけのケースが約半数を占めていることがわかっています。そのため、できれば生殖細胞系列変異と体細胞変異の両方を調べるFoundationOne CDxを行いたいところですが、この検査は高額ですし、コンパニオン診断として使用しただけでは、医療機関の持ち出しになってしまう場合があります。そこで、血液を採取するだけで検査できるBRACAnalysisがよく行われています」
ただ、調べられるのは体細胞変異だけなので、BRACAnalysisにはBRCA遺伝子変異の半分しか見つけられないという弱点があります。
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