私が目指すがん医療 1
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~
骨転移のある患者さんが リハビリで自分らしい生活を取り戻せるように
がん治療中・後のQOL(生活の質)向上の鍵を握るのが、リハビリテーションだ。だが、骨転移のある患者さんを対象としたリハビリには、基準と呼べるものがいまだ確立していないのが実情だ。そんな中、骨転移診療の必要性に注目し、多職種連携の普及に取り組んでいる医師がいる。慶應義塾大学医学部のリハビリ科医、大森まいこさんだ。
痛みや骨折を防いで 安心な療養生活を
「現在、一般病院でリハビリを受ける患者さん全体の3割を占めるのが、がん患者さんだといわれています。治療によって少なからず身体面に変化を受けて元の生活に戻る患者さんが多く、それへの対処が整ってきたことは意義のあることです。ただし、がん患者さんのリハビリは難しいと言われており、それは『骨転移があるかどうかはっきりしないケースが多い』ためです。
リハビリを行っているがん患者さんのうち、骨転移があるケースは10~15%といわれます。もし、骨転移を把握できずにリハビリを行えば、痛みが悪化したり、骨折を引き起こす危険性があります。このため、リハビリに先立って、主治医が骨転移の有無をしっかり把握し、患者さんやご家族にも説明する必要があります。それがあってこそ、患者さんも医療者も安心してリハビリができます。にもかかわらず、それが適切に行われていると言えないのが実情です」
家でどう過ごしたいか 目標に沿ったリハビリを
「骨転移のリハビリでは、痛みや骨折などの合併症を予防しながら、身体の機能や日常生活の動作を改善することを目指します。例えば、脊椎転移がある患者さんの場合、起き上がろうとして体を大きく前に曲げたりひねると、痛みが出ることがあります。これを防ぐため、リハビリでは痛みが出ない起き上がり方を指導したり、手すりの使用を勧めたりします。患者さんの病状に合わせて、リハビリ目標を立てることが大切なのです」
リハビリの目標とはどのようなものか。
「脊椎に骨転移がある40代の乳がん患者Aさんは、『1人で家のトイレに行きたい』というのが希望でした。最初は立つことも難しかったAさんですが、関節可動域や筋肉増強のリハビリを行った結果、目標を達成することができました。
一方、やはり脊椎転移がある40代のBさんは、進行性の肺がんを患い、『家族と一緒に食事をしたい』というのが希望でした。そこで、リハビリでは腰をひねらない起き上がり方を練習し、座ったまま食卓を使えるような車イスをレンタル。また、患者さんのご主人には、ベッドから車イスに移動するための介助法を指導しました。
このように、患者さんの病状や希望によって、リハビリの内容は大きく変わってきます。患者さんの個々の事情に基づき、適切な目標を立てること。それが、『患者さんが自分らしい生活を取り戻せるようにする』という、リハビリ本来の目的を達成するためのポイントといえます。リハビリ医の役割は、原疾患・骨転移の状況や、患者さんの身体の状態・動きを評価して、適切な目標やリハビリプログラムを決めることです」
多職種が協力して チームでかかわることが大切
骨転移によるQOL低下を防ぐのが、「多職種連携によるチームアプローチ」だ。
「まず、骨転移を早期診断するためには、主治医や看護師、リハビリ関連職種などが、痛みなどの訴えを通じて骨転移に「気づく」ことが大切です。次に、臨床所見や画像診断に基づいて骨転移の診断を下すわけですが、このときに必要なのが、主治医と整形外科医や放射線科医との連携です。その後、緩和ケアチームやリハビリチーム、ソーシャルワーカーなども参加し、カンファレンスを開いて治療やリハビリの方針を決定します。
様々な職種がうまく連携してこそ、骨転移患者さんに最良の治療が提供できる。その実現のために、3月に骨転移リハビリに関する包括的アプローチをまとめた本を出版しました。これをきっかけとして、今後はこの分野での指針を確立し、正しい知識を広めていければと考えています」
Let’s Team Oncology ― 患者さん・医療従事者のみなさんへ
多職種が連携を深めるには「関係者全員が顔を合わせて話をする」ことが重要です。なぜなら、病状に対する“ 気づき” は職種によって異なるからです。例えば、骨転移の画像診断にあたっては、整形外科医や放射線科医の知見が大きな意味を持ちますし、看護師やリハビリチームは、日々の仕事の中で患者さんの痛みや骨折に気づく機会も多い。また、緩和ケアチームには、骨転移に伴う痛みを適切に評価・コントロールする技術があります。
患者さんには、気になる痛みや体を動かす際の不都合などを気軽に話していただきたいです。患者さん・ご家族と多職種とでそれぞれの気づきを持ち寄りましょう。患者さんのQOLを向上させるためにも、ぜひカンファレンスなどで情報共有を進めていただきたいと思います。
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