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脳転移に威力を発揮するサイバーナイフ 技術革新により原発肺がんも保険で治療できる

監修●佐藤健吾 日本赤十字社医療センターサイバーナイフセンター(脳神経外科)
取材・文●町口 充
発行:2014年6月
更新:2020年3月

  

「サイバーナイフのメリット・デメリットをよく知って治療を選んでほしい」と話す佐藤健吾さん

脳に転移しやすいがんの1つが肺がん。脳転移の治療の中心は放射線治療となるが、通常の放射線治療よりも精度が高く、効果が大きいと注目されているのがサイバーナイフだ。技術の進歩が著しく、転移だけでなく肺原発巣へのサイバーナイフ治療も可能になっている。

肺がんは脳転移しやすいがん

がんの転移は血液やリンパ液の流れに乗って起こるが、肺は常にたくさんの血液が出入りする臓器だけに、転移しやすい特徴を持つ。肺がんの転移で多いのが、脳転移だ。がんによる脳転移全体でみても、約52%を肺がんの転移が占めている(脳腫瘍全国統計第12版)。

「肺がんの脳転移は病期としてはステージⅣの進行がんであり、確立された治療法はなく、患者さん1人ひとりの症状や年齢、全身状態などを考慮して、手術や放射線治療、化学療法などその患者さんに最適なものが選択されます」

こう語るのは日本赤十字社医療センター(東京・渋谷区)サイバーナイフセンターの脳神経外科専門医、佐藤健吾さんだ。脳には抗がん薬が効きにくいため、治療は外科手術か放射線治療が中心となる。「腫瘍の数が1つで、大きく、取りやすい場所にあるものなら、手術で切除する方法もあります。しかし、腫瘍が小さく、数も多いとか、脳幹の近くなど取りにくい場所にあったり、高齢で全身状態(PS)がよくない場合などに勧められるのは、放射線治療です」このように佐藤さんは語る。

脳転移に対する放射線治療には、脳全体に放射線を当てる「全脳照射」と、病巣に対して多方面から放射線を集中させて当てる「定位放射線治療」とがある。以前は全脳照射が脳転移に対する放射線治療の標準的な治療法だったが、近年、定位放射線治療が発達してきたことで、最初から定位放射線治療を行うケースも増えているという。

〝切らずに治す〟電脳ナイフ

定位放射線治療の中でも、日進月歩の勢いで技術が進み、普及が進んでいるのがサイバーナイフと呼ばれる最新機器を使った治療だ。一言で言えば、ロボットと放射線、コンピュータ技術、それに病変が動いても追尾できる病変追尾システムが一体となった〝電脳ナイフ〟がサイバーナイフ。実際にメスで切るのではなく〝切らずに治す〟治療装置だ。

「放射線治療ではリニアックと呼ばれる直線加速器からX線を発生させて照射しますが、通常の放射線治療ではリニアックは2t、3tもある大きなものを使います。これに対して、サイバーナイフのリニアックは135㎏と軽いという利点があります」

軽くなると、産業用ロボットの先端に超小型化したリニアックを取り付けることができる。ロボットは床に固定され、アームを伸ばしたり縮めたりひねったりして、患者さんの周りで自由自在に動くことができる(図1)。

図1 サイバーナイフの仕組み

そこから放射線を照射するが、ビームの太さは腫瘍の大きさに合わせて5㎜から6㎝までの12種類あり、100カ所以上のポイントから各12方向、つまり最大1200方向から放射線を当てることができる(図2)。また、コンピュータと連動した病変追尾システムにより、患者さんのわずかな体の動きに合わせて照射角度を微調整し、ターゲットを補足する。

「1本のビームはたとえ微小でも、腫瘍の範囲にピタリと標準を合わせて何本ものビームを当てるので、1回で強い線量を当てることになる上、正常な組織への影響は少なく腫瘍だけを狙い撃ちし、高い治療効果を得ることができます。よく患者さんには、鉛筆で線を1本1本重ねて書いていくと、だんだん重なったところが濃くなっていくのと同じですよ、と話しています」

定位放射線治療には、このほかにガンマナイフがある。ガンマ線を使って、病巣の位置を正確に把握しながらピンポイントで照射する点では同じだが、患部のわずかな動きも治療に影響してしまうので、治療の際、局所麻酔をして頭蓋骨を特殊なピンでがっちりと固定しないといけない。このため1回の照射で治療は終了する。

これに対してサイバーナイフは、患者さんはあらかじめ作成した網状のマスクを装着して、ただ治療台の上で横になっているだけでよい(図3)。照射は1回で終わらなければ分割照射も可能だ。

図2 照射の様子

微小なビームを多方面から
ピンポイントに照射
図3 固定用のマスク

プラスチック製のマスクを作成

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