遠隔転移のもとは早期にあり。ならば、術後の補助療法を知って再発を防ごう 再発と補助療法の「なぜ?」に答えます!
吉田和彦さん
がん治療後の再発を防ぐには、どうしたらいいのだろうか。早期がんの治療では、手術や放射線治療でがんのある局所を治療したあと、抗がん剤やホルモン療法などによる補助療法を行うことが多い。その目的は?どのような効果があるのか?補助療法に取り組む前に知っておきたい基礎知識を初歩からわかりやすく紹介します。
Q なぜ再発するの?
がん細胞は、増殖しながら周囲の組織に浸潤し広がっていく性質をもっている。さらに、血管壁を溶かす働きをもつようになったがん細胞は、血液の流れに乗り、他の組織や臓器に運ばれていく。運ばれたがん細胞が、別の臓器の血管内に着床し、その後増殖を始めるのが、遠隔転移だ。
進行が比較的遅いとされる大腸がんや乳がんが局所再発した場合は、再度根治を目指した再手術や放射線治療などが行われる場合もある。しかし、原発巣から離れている臓器に遠隔転移を来した場合、あるいは局所に再発した場合でも、精巣がんなどの特殊ながんを除いて、固形がんでは、抗がん剤などの治療による延命効果は得られても、再度根治することはきわめて困難である。
Q どうすれば再発を防げる?
原発巣のがんを完全に切除した時点ですでに、7割の患者さんには切除した場所や遠隔の臓器に微小転移があると考えられており、早期のがんでも血液中にがん細胞が見いだされる場合も多い。だが、それらのがん細胞のすべてが原発巣から離れた臓器の血管に着床するわけではない。人間の体の免疫機能が働いて、1万個程度のがん細胞であれば抑え込んで消失させられる可能性がある。加えて、抗がん剤やホルモン剤などによる補助療法を行い、目に見えないがん細胞をたたくことが大切だ。
手術後に補助療法を行った場合は、行わなかった場合に比べて、生存率が10%程度あがるとされている。グラフは、胃がんの手術後に補助療法として化学療法(TS-1(*)という抗がん剤)を行った場合と、手術のみを行った場合の生存率の違いを示したもの。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
抗がん剤は点滴で投与するものが一般的だったが、経口剤も少しずつ増えてきている。最近は、がん細胞の増殖に分子レベルで特異的に働きかける分子標的治療薬が次々に臨床の現場に登場している | ホルモン感受性を有する乳がんと前立腺がんのみで行われる補助療法 |
がんの生存率を下げるのは、原発巣のがんが全身のどこかに転移(遠隔再発)すること。これは根治が見込めないのでいちばん怖い。手術や放射線療法による局所(原発がん)の治療を行ったあとに、「補助療法」を行って転移を引き起こしうる微小がんをたたいておきたい。「補助療法」には、抗がん剤治療やホルモン療法などがある。
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