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ビスホスホネート投与による顎骨骨髄炎・骨壊死は、早期発見・早期治療で治療できる可能性
骨転移治療中に口に異常を感じたら早めに主治医に相談を

監修:大田洋二郎 静岡がんセンター口腔外科部長
:渡邉純一郎 静岡がんセンター女性内科医長
文:林義人
発行:2008年6月
更新:2019年7月

  

大田洋二郎さん

静岡がんセンター口腔外科部長
大田洋二郎さん


渡邉純一郎さん

静岡がんセンター女性内科医長
渡邉純一郎さん

進行がんの骨転移治療にビスホスホネートがきわめて有効であることが知られている。
ところが、この治療ではおよそ100人に1人の割合で顎骨壊死という対応に苦慮する副作用が起こるという。いち早くこの問題に注目し、対策をはかっている静岡県立静岡がんセンター口腔外科部長の大田洋二郎さんと女性内科医長の渡邉純一郎さんに、顎骨壊死への取り組みについてうかがった。


やはり顎骨壊死は起こっていた

[多発性骨髄腫の患者さんの1例]
写真:歯科受診時

2006年夏よりゾメタを投与したが、2008年春に右下顎の歯茎に痛みを自覚したため、静岡がんセンター歯科受診する。右下顎に膿のたまった感じの腫れが数カ所確認できた。歯もなく感染の原因がわからなかったので、同部を組織検査したところ、骨髄炎で細菌のかたまりが確認できた

写真:抗生物質の長期投与

感染症科の医師と相談し、抗生物質の長期投与を開始。その後炎症は限局化して、現在一部に腐骨を認めるが、発赤、痛みなどの炎症は落ち着いた

静岡県立静岡がんセンターで、初めてビスホスホネート製剤の副作用によると考えられる顎骨壊死の症例が見つかったのは、昨年(2007年)6月のことだった。2003年頃から、海外での報告を目にしていた口腔外科部長の大田洋二郎さんは、「やはり本当にあるんだな」という思いだったという。

「多発性骨髄腫で治療中の80歳代の男性の患者さんでした。昨年2月に『入れ歯が合わない』とのことで受診されたのですが、歯茎にちょうどニキビみたいに先端に膿をもったドーム型のできものがポツンと出て、『ちょっと膿が出てへんな味がする』との訴えです。

『骨髄炎みたいだね』と同僚医師と話していたのですが、そもそも骨髄炎という病気は歯があるところにできやすいものなので、『そのはずがない』と考え、入れ歯を外して経過を見ることになりました」

ところが、6月になって炎症の状態が強くなったことから、「(歯茎を)開けてみよう」ということになり手術が行われた。その結果はやはり骨髄炎であり、歯槽骨に蜂の巣状に穴が開いて血が通わない「腐骨」という状態になっていたのだ。病理医が観察すると患部には大きな菌塊ができているということで、大田さんを驚かせた。

「『なぜ歯がないところに骨髄炎が起こるのか?』ということになりました。そのとき私は、海外の顎骨壊死の報告を思い出し『この患者さんは多発性骨髄腫なのだから、ビスホスホネートを使っている可能性があり、その副作用かもしれないぞ』という話をしたわけです。血液内科に問い合わせると、前年7月から骨髄腫の治療のためにビスホスホネートの投与を始めていたことがわかりました。感染症科と一緒になって検討してビスホスホネートの副作用の顎骨壊死と診断し、抗生物質を用いて治療を行うことになったのです」(大田さん)

初めての顎骨壊死の症例に接して大田さんは、「ちゃんと見つけて、治療しなければ」と実感し、2007年12月に肺がん、乳がん、前立腺がんなどの専門医に集まってもらい、症例写真を見せながら、「こんな例があるので注意してください」と呼び掛けた。これをきっかけに、薬剤部でビスホスホネートを投与した患者数を調べてみると2年間に約600例(2008年4月現在調査中)あり、6例の顎骨壊死の症例が見つかったのである。ここから大田さんは「およそ100件に1件の発生頻度だが、多発性骨髄腫はもうちょっとリスクが高いのではないか」と考えている。

「日本では、おそらく最も早く顎骨壊死について調べた例だと思います。顎骨壊死の発症リスクはビスホスホネートを長期間続けた人に出やすいと報告されていました。しかし、われわれがいちばん最初に経験した患者さんはビスホスホネートの投与から4カ月くらいで出たわけで、血液内科の先生も『そんなに早く出るものですかね?』と驚いていました」

がん細胞はどのように骨転移するのか

進行がんの他臓器転移として肺や肝臓への転移とともに、骨転移についてもよく聞くようになった。骨転移が起こりやすいがんの代表は乳がんと前立腺がんであり、肺がんや血液がんの一種である多発性骨髄腫などでも多く見られる。女性内科医長の渡邉純一郎さんが話す。

「私が主に診療する再発・転移がんは乳がんですが、その5割から6割に骨転移が見られます。乳がんの骨転移の特徴は、骨だけに転移して肺や肝臓への転移はかなり進行してから起こるというケースが多いことです」

一般に骨転移は進行乳がんや進行前立腺がんでは50~70パーセントに、また進行肺がんも50パーセント以上に見られるという。腎臓がん、胃がん、大腸がんなどでも骨転移は起こることがあるが、これらはやや頻度が少ない。

人間の骨の中では、つねに骨組織を壊す破骨細胞と骨組織を作る骨芽細胞がペアになって働いていて骨組織の修復が行われている。骨転移は血流に乗ってやってくるがん細胞がこの骨の修復のメカニズムを破壊することによって起こる。

「骨転移を起こすがん細胞は、破骨細胞を活性化するシグナルを出します。破骨細胞はこのシグナルを受け取り、骨を溶かして穴を開けてがん細胞が住みつきやすくするのです。正常な骨が破壊されると、がん細胞を刺激するようなサイトカインというホルモン類似物質が増加するという悪循環で骨にがんが定着して増えていきます。ここで出されるサイトカインの量ががんの種類によって違っていて、乳がんとか前立腺がんはそれを多く出すから骨転移が起こりやすいのではないかと推測されるのです」(渡邉さん)

骨転移が起こりやすい部位としては、脊椎、大腿骨、骨盤が挙げられる。がんの転移は、がん細胞がリンパ液の流れに乗って起こる「リンパ行性転移」と、血液の流れに乗って起こる「血行性転移」とがあり、骨転移は血行性転移によってもたらされる。

骨は一般に成長期をすぎると血流が低下するが、骨転移が起こりやすい部位は成長期が終わっても骨の血流が比較的盛んであるため、転移の標的になりやすいと考えられるのだ。

骨転移の見つけ方

骨転移を放置しておくと転移した病巣は徐々に増大し骨折を起こしたり、神経を圧迫して強い痛みや、マヒなどを引き起こすことになる。しかし、初期には症状はほとんどないので、QOL(生活の質)を守るために早目に発見して治療することが大切だ。

骨転移の診断には単純X線検査、骨シンチグラフィ、MRI、CT、PETなどが用いられる。

「当院では進行再発乳がんの患者さんに年に1回、骨転移が出た患者さんには約半年に1回の割合で骨シンチの検査を行っています。骨シンチはそこに転移があるという診断が主な役目ですので、骨ががんにどのくらいむしばまれているかを詳しく見るためにさらにMRIを用います」(渡邉さん)

このように、骨転移の発見は主に画像診断で行うが、最近は骨代謝マーカーというものも用いてあやしいものをスクリーニング(拾い上げ)している。血液や尿を検査して骨転移によって生まれる物質の量を調べる方法で、より早く骨転移を見つけられる。

「骨転移は早く見つけることが重要です。そして骨転移と診断したら早めにビスホスホネートで治療したり、骨が折れてしまう前に放射線治療を予防的に行うことが大切です」


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