「がんサポート」創刊4周年記念シンポジウム
パネルディスカッション「再発・転移を生きる」詳細報告
「あわてず、あせらず、あきらめず」で再発・転移を乗り切ろう
パネルディスカッションの風景
がんの再発・転移を告知されると、大きなショックを受ける人が多い。しかし、再発・転移しても、それで終わりというわけではない。
しかも再発・転移に対しても治療は十分あるし、きちんと治療をすればQOL(生活の質)の高い生活も送ることができる。
今回のシンポジウムでは、そのあたりを、総合司会の浜松オンコロジーセンター長の渡辺亨さんをはじめ、パネリストの癌研有明病院消化器センター長の山口俊晴さん、静岡がんセンター呼吸器内科部長の山本信之さん、それに元看護師で4期の肺がん患者である鈴木厚子さんの4人の方々に、十分に話し合っていただいた。
ここに、その詳細を紹介しよう。
再発転移への不安と予防法
クヨクヨせずにやるべきことをする
質問
乳がん患者ですが、再発がとても恐いです。再発を防ぐ方法を教えてください。(女性、62歳)
渡辺 術後の抗がん剤治療など、やるべきときにやれることをきっちりやっておくことが大切です。あとあと安心のもとになり、「あのときあれだけつらかったけど、やっておいてよかった」ということになるでしょう。その先のことはあまりくよくよ考えないで、気持ちを前向きに持ってもらうという姿勢が大事ではないかと思います。
再発データで治療の有効性がわかる
質問
がんのステージごとの生存データは各種存在しますが、再発データは見たことがありません。再発データはあまり存在しないのでしょうか? あるとすればそのアクセス方法を教えてください。(女性、43歳)
渡辺 がんの治療が有効かどうかを検討した場合、その成績は死亡率や再発率で示されます。たとえば乳がんの術後薬物治療の有効性を示した有名な「ミラノ・トライアル」と呼ばれる臨床試験の報告を見てみましょう。
1972年~73年にイタリアのミラノで乳がん手術を受けた一定の条件を満たす患者さんを、CMF療法、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、メソトレキセート(一般名メトトレキサート)、5-FU(一般名フルオロウラシル)の3剤を併用という抗がん剤治療を行うグループと、薬物治療を行わないグループの2つに無作為に分け、20年間経過観察したものです。
この報告で、CMF療法を受けたグループの再発の相対危険度は0.65であることが示されました。つまり手術だけでは100人再発するところを、CMF療法を行うと65人に下がる、ということです。また、CMF療法を行うと死亡の相対危険度も0.76と明らかに下がることがわかりました。
ですから、一般の方はがんの治療成績を5年生存率などで理解されることが多いのかもしれませんが、再発データも確かに存在しています。こうしたデータが専門的な機関から示されて、私たち専門家は有効な治療はどれかといった判断の根拠にしているわけです。
山口 医学書ではまとまった再発データはよく使われています。たとえば、胃がんで肝転移の再発率はどうかといった細かいデータも示されていて、治療に結び付けているのです。
がんの種類により治療の難易度が異なる
質問
がんの中でも治療の難易度は違うのでしょうか。(男性、55歳)
渡辺 がんの種類によって抗がん剤治療で治癒が期待できるものから、効果が不十分とされるものまで様々です。効果の出方によって、次のように分類されています。
A.治癒が期待できる
睾丸腫瘍、急性白血病、悪性リンパ腫、乳がん、ホジキン病、絨毛がん、小細胞肺がん、卵巣がん
B.延命が期待できる
多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、低悪性度悪性リンパ腫、食道がん、大腸がん、非小細胞肺がん、肝臓がん、前立腺がん
C.QOL(生活の質)の改善が期待できる
胃がん、膵臓がん、頭頸部がん、軟部組織肉腫、骨肉腫、膀胱がん、子宮頸がん、子宮体がん、腎臓がん
D.効果は不十分
脳腫瘍、悪性黒色腫、甲状腺がん
このうち肝臓がんなどは、06年まではDに分類されていたのですが、07年夏、アメリカの学会でネクサバール(一般名ソラフェニブ)という新しい薬の有用性が示されて延命効果が期待できるようになりました。ですからがん治療では、新しい治療法がポンと出ると、それまでとは様変わりするということがあるのです。
山口 同じ臓器のがんでも、腫瘍ができる場所によって治療成績やQOLにもずいぶん違いが出るということもあります。大腸がんなら、肛門の近くにできるとどうしても人工肛門が必要になります。また胃の手術でも入り口(噴門)近くなら胃の全摘が必要ですが、出口(幽門)近くなら半分だけの切除ですむといったこともあります。
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