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ゆっくり時間をかけた治療で延命を図る
論理的に組み立てられた隔日FP・タキソール療法

監修:山光進 札幌月寒病院院長
取材・文:菊池憲一
発行:2005年7月
更新:2019年7月

  

山光進さん

札幌月寒病院院長の
山光進さん

再発・進行がん患者の治療で良好な成績を上げている札幌月寒病院。

病院長の山光進さんは、長年抗がん剤治療に携わり“効果は大きく副作用の少ない”治療法を模索してきた。そしてたどり着いたのが隔日FP療法と呼ばれる治療法だ。

この療法は、2つの抗がん剤の相乗効果をねらったものだ。

さらに山光さんらは02年より、より高い効果を求めて隔日FP・ウイークリータキソール療法を開始した。


写真:札幌月寒病院


札幌ドーム球場近くにある札幌月寒病院院長の山光進さんは、30数年前から大腸がん、胃がん、食道がん、膵臓がんなどの進行・再発がんに対し、抗がん剤治療を積極的に行っている。

とくに、90年頃からは、北里大学客員教授の白坂哲彦さんと二人三脚で、「抗がん剤の毒作用・副作用を少なくして、制がん効果を増強させる新しい化学療法」に取り組んできた。白坂さんが理論を固め、山光さんが臨床の現場で抗がん剤の適切な使用量などを決めて、効果的な化学療法の共同研究・開発をしてきた。

白坂さんと山光さんの共同研究・開発として全国的に注目されたのは、5-FU(一般名フルオロウラシル)とブリプラチン(またはランダ。一般名シスプラチン)という2つの抗がん剤の相乗効果による「少量FP療法」及び「隔日FP療法」と呼ばれる治療法である。

抗がん剤同士の相乗効果で効果的にがんを抑制

一般的に抗がん剤はがん細胞にも正常細胞にも同じくらい取り込まれる。しかし、5-FUはがんだけにたくさん取り込まれて抗がん作用を発揮し、正常細胞にはあまり取り込まれないという特徴がある。一方、ブリプラチンは1回にかなりの量を血液中に入れないとその効果を発揮しない抗がん剤で、大量に使うために副作用も出やすい。

ところが、ブリプラチンは、血液中に一定の濃度(少量)さえあれば細胞膜に作用し、5-FUの活性物質と結合しやすい物質を増やし、5-FUの坑がん作用を増強する役割のあることがわかった。少量のブリプラチンは、5-FUと併用するとそれ自身は抗がん作用を発揮しないが、5-FUの効果を増強するモジュレーター(変調器)のような役割を果たすことが判明したのだ。5-FUとブリプラチンの組み合わせのように、相乗効果を利用した治療法を「バイオケミカル・モジュレーション療法」と呼ぶ。

また、骨髄や消化管の粘膜(口から消化器、お尻までの粘膜)などの正常細胞は約1日で細胞が生まれ変わるのに対して、がん細胞が生まれ変わるのは5~7日と長いこともわかってきた。そこで、投与法を工夫した。5-FUを1日置きに投与すれば、薬が投与されていない時間に新しい正常細胞が蘇生される。一方、がん細胞は生まれ変わるのに5日かかるため、5-FUを一定の濃度で維持できれば、1日置きに投与してもその効果を発揮できる。こうした理由から「5-FUの隔日投与」と「ブリプラチンの少量投与」を併用した「隔日FP療法」が考案された。

「進行・再発がんは1000億個から1兆個のがん細胞を持っています。1~2カ月間に、化学療法だけでゼロにすることは不可能です。副作用が少なく、繰り返しの可能な化学療法を用いて、時間をかけてゆっくりとがんを縮小させて、局所療法の可能性も考慮しながら、生存期間を延ばしていくことが大切です。こうした考え方の中から生まれたのが隔日FP療法です」と山光さんは言う。

ゆっくり時間をかけた治療が副作用を抑える

[大腸がんの肺転移に対する隔日FP療法による症例]
写真:大腸がんの肺転移に対する隔日FP療法による症例

左:治療前 矢印で囲まれた部分ががん
中:治療中 治療により縮小したがん
右:治療後 がんは消失

[表1 大腸がんに対する隔日FP療法の奏効率]

  著効 有効 不変 進行 奏効率(%)
大腸がん(37例) 0 18 17 2 48.6
結腸がん(23例) 0 12 10 1 52.2
直腸がん(14例 0 6 7 1 42.8
(96.10.1.~01.12.31.)

[表2 各種消化器がんに対する隔日FP療法の奏効率]

  症例数 平均年齢 著効 有効 不変 進行 奏効率(%)
食道がん 15例
♂14♀1
66.9歳 4 6 4 1 66.7
早期胃がん 10例
♂3♀7
75.1歳 8 2 0 0 100.0
胃がん 12例
♂9♀3
67.8歳 2 4 5 1 50
大腸がん 37例
♂21♀16
63.4歳 0 18 17 2 48.6
膵がん 11例
♂6♀5
61.6歳 1 2 5 3 27.3
粘膜がん2例含む
計 47/85=55.3%
(96.10.1.~01.12.31.)

山光さんは96年10月頃から「手術などの局所療法が適応にならない進行・再発がん」を対象に、患者に治療内容を説明し、納得と同意のうえで、隔日FP療法を行ってきた。進行・再発がんの場合、口から食事がとれないとか、ベッドで寝ている状態の患者も多い。抗がん剤の副作用をコントロールして、全身状態の管理が求められるため、入院治療を原則としているという。

Aさん(70代)のケースで、その治療内容を紹介しよう。Aさんは4年前、他の病院で直腸がん(ステージ4)と診断されて、治療のために同病院を訪れた。本人の希望で手術はせず、隔日FP療法による化学療法を選択した。入院中、毎週3日間(月、水、金)、5-FUの24時間点滴注射を受けた。1日の投与量は体表面積当たり750~1000ミリグラムで、通常の量だ。ブリプラチンは1週間に1~2回ペースで、5-FUとは別ルートで静脈注射を受けた。一定の血中濃度を維持するのが目的なので、1回量は通常の10分の1以下とごく少量で、治療時間は1時間ほど。この隔日FP療法を4カ月間続けた結果、画像診断で腫瘍が消失した。

退院後は、外来通院して飲み薬のTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシル)を1日2回(朝晩)服用し、1週間に2回ほどのペースで、ブリプラチンの点滴治療を1時間ほど受け続けた。TS-1は5-FUを飲み薬に改善したものだから、「TS-1とブリプラチンの併用療法」は隔日FP療法の外来通院用の治療法といえる。

Aさんの場合、TS-1とブリプラチンの併用療法の治療効果で、約4年間、腫瘍が消えた状態を維持できたという。しかし、最近、直腸がんを再発して、同病院に再入院。提携先の病院で放射線による局所療法を受けたあと、現在、再び、隔日FP療法を受けている。「Aさんのような進行・再発がんの場合、入院期間は3~5カ月ほどになります。抗がん剤治療は、副作用を少なくして、ゆっくりと時間をかけて行うことが大切です」と山光さんは語る。

白坂さんと山光さんの共同開発による「隔日FP療法」は予想以上の治療成績だった。Aさんを含む進行・再発大腸がん37例を対象に行った治療成績では、奏効率48.6パーセントで、副作用も軽く抑えられて、ほかの化学療法よりもかなり有効だった(表1)。胃がん、食道がん、膵臓がんを含む85例の治療成績でも、奏効率55.3パーセントで、副作用も軽く抑えられた(表2)。


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