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エルプラット、サイラムザと新たな治療選択肢も登場 進行・再発胃がんに新しい治療法。着実に広がる治療の選択肢

監修●朴 成和 国立がん研究センター中央病院副院長/消化管内科科長
取材・文●町口 充
発行:2015年7月
更新:2019年8月

  

「なかなか分子標的薬が登場しなかった胃がん領域において新薬が承認されたことは1つの進歩と言えるでしょう」と語る朴成和さん

手術による切除が困難と判断された進行・再発胃がんの化学療法に、ファーストラインではエルプラット(2015年3月承認)、セカンドラインでは分子標的薬のサイラムザ(同)が加わった。かつて胃がんは抗がん薬が効きにくいがんと言われたが、着実に治療の選択肢が広がりつつある。

入院せずに外来治療が可能になった

胃がんに対する最も有効な治療法は手術による切除。しかし、がんが進行しているために手術による切除が難しかったり、手術後に他臓器への転移などで再発した場合は、抗がん薬による化学療法が治療の中心となる。

これまでの切除不能なHER2陰性の進行・再発胃がんに対してファーストラインの標準治療はTS-1とシスプラチンを併用したSP療法だった。だが、今年(2015年)3月、同じくファーストラインとして使える治療薬として、エルプラットが承認され、TS-1とエルプラットを併用するSOX療法が新たな選択肢として加わることになった。

シスプラチンとエルプラット、2つの薬の違いを国立がん研究センター中央病院副院長で消化管内科科長の朴成和さんは次のように語る。

「両方とも効果はほぼ同じです。しかし、シスプラチンを投与する場合は入院が必要だったのに対して、エルプラットは入院の必要がなく、外来で投与できるようになったのが1番の大きな違いです」

なぜシスプラチンは入院が必要かというと、副作用対策のためだ。シスプラチンの副作用としては悪心・嘔吐や食欲不振などの消化器症状があるが、他の問題点として腎毒性により腎臓の機能に障害が起きる腎機能障害がある。とくに尿の量が減少したときに腎機能障害が現れやすいことから、投与の際には長時間にわたる多量の補液(生理食塩水など)が必要となり、数日間の入院が余儀なくされる。

これに対して、腎毒性が軽いために補液を行う必要がなく、入院しなくてもいいのがエルプラット。外来の点滴投与で済むので、仕事をしながらの通院も可能になるという。

TS-1=テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ エルプラット=一般名オキサリプラチン

QOL低下を招くしびれに要注意

その一方で、エルプラットならではの副作用もある。とくに患者さんのQOL(生活の質)の低下を招き、治療の継続が困難になるケースもあるのが末梢神経障害だ。

「エルプラットを長く使っていると、蓄積毒性により指先などにビリビリするようなしびれが起きることがあります。我慢していれば治まるというものではなく、治療期間が長くなると日常生活に支障を来すことがあります」

対策は投与の中止。その場合はタイミングが重要で、蓄積毒性のため投与を中止してもしびれが残ってなかなか消えないので、しびれなどの症状を注意深く観察し、ひどくなりそうだったら、そうなる前に早めに中止することが大事だという。

図1 エルプラットで起こりうる末梢神経障害

「しびれは患者さんの訴えでしか分からないので、止めるタイミングは個人によって異なります。例えば、ピアノやギターを弾くのを趣味にしている人なら、早く止めたいとなるでしょうが、そういう人ではなくても、日常生活に困るようになったら中止を検討すべきです」

朴さんによると、指先の感覚が落ちてシャツのボタンが留めにくくなった、箸で小さな豆がつまめなくなった、などの症状を訴えるようになったときは要注意という(図1)。

「一定期間、投与を休止すればやがて症状が治まって、治療を再開できることもあります。胃がんの場合はまだ使えるようになって日が浅いので十分な臨床データがありませんが、以前からエルプラットが使える大腸がんの場合、施設によっても異なりますが、計画的に早く休止したのちに平均して5割前後の方が再導入できたとの報告があります」

投与を中止した場合は、TS-1単独の治療に切り替えられることになる。ただし、エルプラットを休薬すると効果が落ちることも考えられるので、「どの時期で止めるかについては、患者さんとよく話をしながら判断することが大切です」と朴さんは話している。

2次治療に初の血管新生阻害薬

進行・再発胃がんのセカンドラインの治療法についても、最近、大きな動きがあった。今年3月、分子標的薬のサイラムザが日本で承認されたのだ。

現時点でのセカンドライン治療は、タキソール、タキソテールのタキサン系の薬かイリノテカンのいずれかの薬を単剤で使うことが標準的治療として位置づけられている。

「1番広く用いられているのはタキソールの毎週投与法です」と朴さん。

進行胃がんに対するセカンドラインの治療法として、イリノテカンとタキソールを比較した「WJOG4007試験」において、有意差はなかったものの、タキソールのほうがわずかだが生存期間が長く、また毒性も少ないという結果だった。このため、タキソールを週1回、毎週投与する方法が広く行われているという。

こうした状況の中で、新たに登場したのがサイラムザで、胃がんで承認された初の血管新生阻害薬だ。

図2 サイラムザががん細胞に効果を示す仕組み(模式図)

がん細胞が増殖・転移するためには栄養や酸素を運ぶ血管が必要であり、新しい血管が作られることを「血管新生」という。サイラムザは、この血管新生を阻害することで、新しい血管が形成されなくなり、栄養や酸素が不足して、結果的にがんの増殖を妨げることを狙った薬だ。

具体的には、サイラムザが血管新生に関与する血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR-2)に先回りして結合することで、血管内皮増殖因子(VEGF)の結合を阻害し、血管新生ができないようにして、がんの増殖・転移を阻害すると考えられている(図2)。

 

サイラムザ=一般名ラムシルマブ タキソール=一般名パクリタキセル タキソテール=一般名ドセタキセル
イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン

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