知ってほしい「膵神経内分泌腫瘍」のこと 希少がんに生かされて 最終回

編集●「がんサポート」編集部
発行:2019年5月
更新:2020年2月

  

佐藤直美さん(主婦)

さとう なおみ 1962年千葉県船橋市に2人兄弟の長女として生まれる。1983年結婚。1985年双子の娘を出産。実家は金物店を営み結婚後はサラリーマンの妻としてパートで働く期間もあるが現在は専業主婦

<病歴>
1996年 「膵臓の腫瘍」で摘出手術
2000年 甲状腺右葉(良性)手術
2001年・2004年・2006年 肝臓(再発)手術
2012年 肝臓ラジオ波焼灼術治療
2013年 甲状腺右葉(2回目)手術

家で夫のケアをすることに決める

夫のダメージも心配でしたが、私も夫が膵がんだとわかったことで自分自身の精神状態にまったく自信がなくしてしまいました。それで1度もかかったことのない心療内科を受診し、何とか気持ちをしっかり持てるように薬を処方してもらいました。この先、夫を支えていく自分が弱っていてはだめだと思っての行動です。

同居する長女も同じように悩み苦しみましたが、それでも父親の前ではいつもと変わらない日常を過ごせるようにと、私と一緒に薬を処方してもらいました。おかげさまで不思議なほど気力が湧いて、夫の前でも笑顔でいられるようになりました。

上っ面だけではありますが、泣きべそをかかなくなって、前向きにできることを探すこともできるようになりました。

頼って行った大病院では、もうできる治療は無いとはっきり言われ、私は家で夫のケアをすると決めました。ケアマネージャーさんに来てもらい色々相談し、訪問診療の先生を探し、電動ベッドを借り、夫にリラックスしてもらえる環境を作りました。

医者から「余命は月単位です」と言われた言葉を、私は「きっと1年を越せるはず!」と受け止めていました。

きっと回復すると信じていた

しかし、その思いとは裏腹に夫の病状はどんどん悪化していき、呼吸することが苦しくなってきて、酸素の機器を設置するまでになってしまいました。

さらに夫は、お風呂に入っても浴槽から足を持ち上げられなくなりました。鏡を見て「こんなになってしまったなぁ」と、あばら骨の浮き出た胸をさすりながらため息をつくのですが、私はとても視線を合わせられませんでした。

そんな時にでも「色々やってもらえて、ママが若くて良かったよ!」などと、私を笑わせようとしてくれる優しい人でした。

訪問診療の先生からも、かなり悪い状態だと伝えられましたが、すんなり受け入れる気にはなれませんでした。どこかで「きっと回復する」と信じ込んでいました。

夫のせん妄を見たくてたまらなかった

モルヒネが夫の緩和ケアには有効だったようで、痛いとか苦しいとかはほとんど口に出しませんでした。

ただ、たまにせん妄が表れるようになってきて、夫が満面の笑顔でお寿司を握る仕草をして「仲間が来ているんだよ、昔の仲間がね」と言って、お寿司を昔の仲間たちに握ってあげている様子を楽しそうに見せてくれたりしました。

ある時は釣りをしている仕草もしたことがあります。竿を投げてリールを巻いている笑顔の夫。

苦しそうな顔はほとんど見せず、優しい笑顔をたくさん見せてもらいました。私は夫のせん妄を一緒に見たくてたまらないとさえ思いました。

夫は、タバコを吸えなくなった日から3カ月も生きることができませんでした。

こんなに早くいなくなってしまうとは思いもしませんでした。

もっとずっと一緒にいたかった……。

今度は母が卵巣がんに

がんの中でも膵がんは本当に怖い病気です。

月単位とはこんなにも短い時間のことだったのか、毎月糖尿病外来に通院していても何もわかっていませんでした。膵臓に関わる病気なのに防げなかった。

色々なことに後悔ばかりしてしまいます。

夫を亡くし、絶望して後を追いたいと本気で考えたこともあったのですが、それを引き留めるかのように、今度は母が卵巣がんで入院することになったのです。

夫を亡くして寂しくて気持ちも落ち込んでしまっている私だけれど、今度は母が私を必要としている、そう思うようになりました。

もしかしたら夫が早く逝ったのは「次は、ばあちゃんも看てあげて!」という夫の優しさだったのかもしれません。

母は7年前に父を亡くしてから1人暮らし。

昭和8年生まれのチャキチャキの江戸っ子で、両親を戦争で亡くし、戦争孤児としてつらい暮らしを乗り越えてきた人で、病気になっても明るくパワフルな人でした。

卵巣がんがわかる前、「尿漏れしちゃうのよ~ なんでだろう? いやんなっちゃう」と明るく話す人でしたので、こちらも気兼ねせず「もうそういうお年頃なんだね~」などと言い合えていたのが懐かしい思い出です。

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