鎌田 實「がんばらない&あきらめない」対談

日曜日ぐらいはがんばらなくていいや――そう思えるような番組にしたいね 元NHKエグゼクティブアナウンサー・村上信夫 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2012年7月
更新:2018年9月

  

「癒やしの達人」と「喜びの伝道師」がいのち・がんについて縦横に語り合う

3月末に、スキー場で腓骨粉砕骨折した鎌田實さん。4月は自宅で療養生活。ゴールデンウイークが明けて5月10日、やっと車椅子生活から解放された。今回は通常の対談とは少し趣きを変えてNHKラジオ「いのちの対話」で名コンビだった元NHKエグゼクティブアナウンサーの村上信夫さんとの特別対談をお届けいたします。文化放送内で行われた、息の合った抱腹絶倒の対談を――。

 

村上信夫さん

「『1%しか』と思うか、『1%も』と思うかでエライ違いがある」
むらかみ のぶお
1953年、京都生まれ。元NHKエグゼクティブアナウンサー。2001年から11年に渡り、「ラジオビタミン」や「鎌田實いのちの対話」など、NHKラジオの「声」として活躍。この4月からは、全国を回り「嬉しい言葉の種まき」をしながら、文化放送『日曜はがんばらない』(毎週日曜10:00~)、月刊『清流』連載対談~ときめきトークなど、新たな境地を開いている。これまで、「おはよう日本」「ニュース7」「育児カレンダー」などを担当。著書に『ラジオが好き!』(海竜社)『ことばのビタミン』(近代文芸社)『いのちの対話(共著)』(集英社)などがある

 

鎌田 實さん

「誰かひとりが希望を持っていれば、周りにいる人に希望が伝わる」
かまた みのる
1948年、東京に生まれる。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。長野県茅野市の諏訪中央病院院長を経て、現在諏訪中央病院名誉院長。がん末期患者、高齢者への24時間体制の訪問看護など、地域に密着した医療に取り組んできた。著書『がんばらない』『あきらめない』(共に集英社)がベストセラーに。近著に『がんに負けない、あきらめないコツ』『幸せさがし』(共に朝日新聞社)『鎌田實のしあわせ介護』(中央法規出版)『超ホスピタリティ』(PHP研究所)『旅、あきらめない』(講談社)等多数

リスナーと喜怒哀楽を共有できるラジオ番組

鎌田  きょう村上さんに対談をお願いしたのは、入院されている患者さん、とくにがんの患者さんは、ラジオを聴いている人が多いと思ったからです。実際、私と村上さんがNHKラジオ第1放送でやっていた、公開放送「いのちの対話」にも、がん患者さんからたくさんのお便りをいただきましたよね。

そこでこの4月から、2人が文化放送で「日曜はがんばらない」(毎日曜日午前10時~10時30分)というトーク番組を始めましたので、がん患者さんにもぜひ聴いていただきたいという思いもあって、村上さんをゲストにお招きしたわけです(笑)。

村上  実は、私がNHKに入ったきっかけは、中西龍さんというNHKアナウンサーに憧れたからです。ご存じですか。(中西風の名調子で)「歌に思い出が寄り添い、思い出に歌が語りかける。日本のメロディ、中西龍です」(笑)。

鎌田  知らないんですよね。

村上  中西さんは明治学院大学の私の先輩に当たる人ですが、私は当時、学生新聞のお手伝いをしていて、中西さんにインタビューに行ったんです。むくつけき顔をして、なんか怖そうな人でしたが、ラジオについてこんな話をされたんです。
「ラジオのどこがいいかと言うと、リスナーの人たちと喜怒哀楽を共有できることで、喜びは倍に、悲しみは半分にすることができる。病院のベッドで、中西さんの声が聴けるのが生き甲斐だと言って、きょうもラジオを聴いてくださる人がいる。そのことだけでも、僕はアナウンサーの仕事をしていてうれしい」と。その話を聴いて、私はアナウンサーを志したんです。

実際、アナウンサーになり、ラジオの仕事を11年間やってみると、病院のベッドにいる人とか、うつ病で家に引きこもっている人とか、他人と上手く関われない人たちが、ラジオを聴いていらっしゃる。そして、口幅ったい言い方になりますが、私の声が生き甲斐だとか、支えだとか、言ってくださる。あぁ、中西さんが言っていたのは、こういうことだったのかと、しみじみ実感していますよ。

鎌田  いやぁ、良い声だね(笑)。誌面から伝えられないのが残念だけど……。

村上  いや、鎌田さんの声も癒やされる声ですよ。まさに「癒やしの達人」(笑)。鎌田さんがその声で、「大丈夫だよ」と言うから、病気も治る気になるんですよ。

テレビは一方通行ラジオは双方向

鎌田  さて、村上さんは58歳にして、NHKのエグゼクティブアナウンサーを退職されたんですよね。報道番組の「ニュース7」や「おはよう日本」など、長らくテレビの仕事をされたあと、後半はラジオに熱心に取り組んできましたよね。ラジオでエグゼクティブアナウンサーになるのは珍しいようですね。

村上  私が知るかぎり、他に例がないんじゃないでしょうか。

鎌田  11年間、「ラジオビタミン」をはじめラジオ番組に全力投球された。村上さんは背が高いし、ハンサムで、声も良い。テレビにぴったしなのに、後半はラジオに夢中になった。その理由は何ですか。

村上  正直な話、最初にラジオの番組を担当したときには、短絡的に「なぜテレビじゃないんだろう」と思いました。でも、ラジオを担当して2カ月ぐらいで思ったのは、「テレビが置き忘れてきてしまったものを、ラジオは持っているな」ということです。

鎌田  いいこと言うねぇ……。

村上  ラジオの特色をひとことで言うと、双方向ですね。テレビは一方通行で、送りっ放しですが、ラジオは放送が始まった大正時代から、まさにツーウェイ、双方向なんですね。送り手と聴き手が喜びや悲しみを分かち合う。ラジオは傍らにいてうなずく存在です。それはリスナーにとってもそうですが、送り手にとってもそうなんです。

私は親父が亡くなったときも、ラジオの生放送をやりましたが、その日のリスナーのお便りにものすごく慰められました。もちろんリスナーは私の親父が亡くなったことは知りません。しかし、ふだんと同じように、リスナーの心のこもったお便りを紹介することによって、私の悲しみが随分癒やされたんです。私がリスナーを癒やすだけでなく、私もリスナーから癒やされたんです。まさに双方向です。そこがラジオのたまらない魅力なんじゃないでしょうか。

鎌田  私と村上さんで、「いのちの対話」を9年間やりましたが、その最終回も多くのリスナーからお便りをいただきました。村上さんの「ラジオビタミン」の最終回も、ものすごい数のお便りがきたんでしょ?

村上  1500通ぐらいでしたね。「番組が終わるから、初めてお便りします」という人が多かった。

なかでも、病院で聴いていた人とか、心の支えとして聴いていた人とか、「いのちの支えになった」というお便りが圧倒的に多かったですね。だから、ラジオは単なる”ながらメディア”ではない。それを改めて実感しましたね。

会場を大爆笑させた「がんをぽんと呼ぼう」

鎌田  「いのちの対話」をやっているときは、がん患者さんからのお便りも多かったですよね。いちばんの思い出は?

村上  やっぱり”ぽん事件”でしょう(笑)。鎌田さんの病院にきたがん患者さんが、前の病院で、「あんたはガンコだからがんになったんだ」と言われたという……。

鎌田  東海地方の病院にかかっていた乳がんの患者さんでしたが、社長業のような仕事をやっておられて忙しかったために、医師に「手術は1カ月ぐらい待ってほしい」と言ったところ、その医師が「僕は君のためを思って、1週間後に手術の予定を入れてあげたのに」と怒り出して、「君はガンコだから、がんになるんだ」と。

村上  そんなひどいことを言う医師がいるんだ!

鎌田  彼女は泣いて、泣いて、「もう死んでも病院なんか行かない」っていう気持ちになった。そのとき友だちから、「諏訪中央病院へ行けば、そんなこと言われないよ」と言われて、遠いけれども、私の病院に入院したわけです。そして手術を行い、元気になった。その話をしたんだね。

村上  そのとき鎌田さんは、「僕の妻だったら、手術を勧めるよ」って言い方をされた。

鎌田  よく憶えてるね(笑)。私は患者さんに、「僕の妻だったらどうする」「僕の子どもだったらどうする」という言い方をよくするんです。

村上  他人行儀じゃないですよね。自分のことに置き換えて話をするわけですから。話を戻すと、その話をゲストの永六輔さんが聞いていて、「がんという言い方が良くないんだ。がんと言うから、ガーンとくるんだ。きょうから言い方を変えよう。がんと言わないで、”ぽん”にしよう」と(笑)。会場、大爆笑でしたね。医者から「検査の結果、ぽんとわかりました」と言われたら、深刻ではなくなるかもしれない(笑)。

鎌田  私が新しく出した『がんに負けない、あきらめないコツ』という本の中で、樹木希林さんが、「癌という漢字がいけないのよ」って言ってましたね(笑)。品物に病だれ、ものに執着するから病気になる。希林さんはモノにこだわらない人で、住んでいる大邸宅にも、ほとんどモノが置いてないんです。「モノにこだわらない私が、なんで乳がんになっちゃったんだろう」って笑い飛ばすわけ。笑うってことは大事ですよね。

もっといてほしいユーモアのわかる医師

村上  ナチュラルキラー細胞って、笑うとホントに出てくるんですか。

鎌田  最近になって、がんと闘う免疫細胞である、ナチュラルキラー細胞の測定ができるようになったんですが、笑う人ほどナチュラルキラー細胞が増えるとか、数は同じでも活性化するとか、言われるようになってきていますね。

村上  ウチの親父が結構ユーモアのある人で、最終的には肝臓がんで亡くなったんですが、C型肝炎になってインターフェロンの治療を受けている、非常につらいときに、私が見舞いに行ったんです。そのとき、女性の看護師さんが親父に「何か気になることはありませんか」と訊いたら、「気になるのは君のことだけだ」(笑)。こういうユーモアって、大事ですよね。

鎌田  がんと闘いながらね……。

村上  でも、そのとき看護師さんはキョトンとしていました。ユーモアを解するお医者さんや看護師さんが、もっといたらいいのに。

鎌田  村上さんがラジオで言っているのは、お父さんゆずりのユーモアかなぁ。でも、村上さんのユーモアはNHKらしくないよね。あれでよくNHKで生き抜けたよね(笑)。

村上  言われてみると、ホントですよね。ニュースのときも言ってましたからね。「おはよう日本」に出た最初の日に、「明日葉の展示会がきょうまで開かれています」というニュース原稿を読んだんですが、どうしてもそのまま通過できなくて、「明日葉ですけど、きょうまでですか」と言って、周りの失笑を買いました。デスクからは厳しく怒られましたけれどね。しかし、考えてみれば、しゃれは私のサービス精神なんです。人の笑う顔が見たいだけなんです。でも、鎌田さんには「くだらない」って、よく言われましたよね(笑)

鎌田  「いのちの対話」をやっているときは、リスナーとともに大笑いをしたり、じーんとしたり、いろんなことがありましたが、あるとき、牛を飼っている人から、「今、仔牛が生まれました。カマタミノルって名前を付けました」ってお便りをもらったこともあったよね。あの牛、今も元気かなぁ。

村上  どうでしょうね、ウッシッシッ(笑)。

鎌田  あれはラジオで「いのちの対話」を聴きながら、出産したんだよね。母牛も仔牛も聴いていたのかなぁ。多少はお産のお役に立ったんだろうか(笑)。

村上  モォー、たくさんだぁーって泣いてたんじゃないですか(笑)。

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