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ビヨンドPD・耐性克服薬の研究・開発が進行中

効果がなくなったらどうする? 分子標的薬の薬剤耐性

監修●田村研治 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年12月
更新:2019年7月

  

国立がん研究センター中央病院
乳腺・腫瘍内科科長
田村研治さん

個別化治療の鍵となる分子標的薬。しかし、どんなに素晴らしい薬剤でも、それを使い続けるといずれ効果がなくなる。そのようなとき、どうしたらよいのだろうか。

効いていた分子標的薬もいずれ効かなくなる

離れた臓器に転移がある進行がんの状態になると、従来型の抗がん薬でも、分子標的薬でも、基本的に完治させることは困難になってしまう。そこで、このような場合の治療目標は、生存期間を延ばすこと、つまり延命ということになる。

従来型の抗がん薬でも、分子標的薬でも、効果がある場合には、がんが縮小していく。それでも完治に至らないのは、どうしてなのだろうか。

国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科科長の田村研治さんは、次のように説明してくれた。

「薬剤が効果を発揮してがんが縮小しても、それがずっと続くわけではなく、いずれ効かなくなってしまうからです。これを専門的には獲得耐性といいます。薬を使っているうちに、もともと持っていなかった薬に対する耐性を、がんが獲得してしまうのです」

従来型の抗がん薬でも、分子標的薬でも、耐性はできる。ただ、耐性を獲得するメカニズムは同じではない。

「従来型の抗がん薬に耐性ができるのは、がん細胞の細胞膜にあって、ポンプの働きをしているタンパク質が関係しています。抗がん薬を使い続けていると、このポンプが過剰に働くようになり、細胞内の薬剤をどんどん汲み出してしまうため、薬の効果が弱くなってくるのです」

一方、分子標的薬は、これとは異なるメカニズムで耐性を獲得する(図1)。

「分子標的薬は、標的となる分子(タンパク質を基に構成されている酵素など)に作用することで、効果を発揮します。そのため、標的分子が変化してしまったり、標的分子に関連する分子が変化してしまったりすることで、効かなくなってしまうことがあります」

ただ、これらがすべてではなく、分子標的薬が耐性を獲得するメカニズムについては、まだわかっていないこともたくさんあるそうだ(図2)。

図1 耐性
図2 耐性の仕組み

標的分子を攻撃し、がん細胞の1つ経路を遮断しても、それを補うために、がん細胞は迂回路(バイパス)を作るケースがあるという

新しい変異が起きて薬が効かなくなる

具体的な例を挙げて、分子標的薬がどのようにして耐性を獲得するのかを解説してもらった。

「非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に使われるイレッサやタルセバは、EGFR(上皮成長因子受容体)の特定の領域に遺伝子変異がある場合に、効果を発揮します。しかし、たとえよく効いていた人でも、これらの薬剤を使い続けていると、いずれ効果がなくなってきます。そうなった患者さんの腫瘍から細胞を採取し、それを治療前の細胞のEGFRと比較してみると、効果に関わる変異とは別のところに、2次的な新たな変異が起きていることがわかったのです」

現在明らかになっているのは、T790Mという変異である。この変異があると、イレッサやタルセバは効かなくなってしまうのだ。

耐性ができる原因は、これだけではない。

「EGFRに関わるMet(受動体型チロシンキナーゼ)という遺伝子の発現が増えてくることがあります。こうなると、T790Mのような2
次的遺伝子変異が起きていなくても、イレッサやタルセバは、効果を発揮できなくなってしまいます」

2次的な遺伝子変異であるT790Mや、新たなMet遺伝子の発現の増加。標的分子にこのような変化が起こることで、イレッサやタルセバは耐性を獲得してしまうのである(図3・4)。

図3 EGFR阻害薬の効果

■図4 耐性獲得の例

<EGFR-T790M2次的遺伝子変異>
EGFRの790番目のアミノ酸であるトレオニンがメチオニンへ置換(T790M)され、PI3K(酵素)の触媒作用を受けることでAkt(信号伝達タンパク質)を活性化させシグナル伝達経路を形成し、がん細胞を生存・増殖させる
<Met増幅>
HGF(肝細胞増殖因子)は、Met(受動体型チロシンキナーゼ)に結合してリン酸化することで、EGFRやErbB3といった上皮成長因子受容体とは無関係にシグナルを活性化して、耐性を獲得している

イレッサ=一般名:ゲフィチニブ タルセバ=一般名:エルロチニブ

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