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EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬の効果的な使用法
長期使用による副作用対策も重要

ピンポイントでがんを抑える 遺伝子異常に大きな効果

監修●笠原寿郎 金沢大学附属病院呼吸器内科臨床教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年6月
更新:2014年9月

  

「患者さんのQOLも上がっています」と笠原寿郎さん

肺がんは各種のがん領域の中でも、新薬の開発が進んでいる分野だ。分子標的薬の導入がいち早く行われ、より効果的な活用法の研究が行われている。どのような患者さんにどの時期に投与するのか――。ほかの治療法との関係や副作用対策までをまとめる。

「EGFR阻害薬という種類の分子標的薬は、これまでの化学療法よりも無増悪生存期間(PFS)などの治療成績が良く、QOL(生活の質)も上がっています。分子標的薬の登場は、肺がん治療界には画期的な出来事でした」
肺がんの薬物治療のオピニオンリーダーの一人である金沢大学附属病院呼吸器内科教授の笠原寿郎さんは、近年の治療法の進展を指摘した。

非小細胞肺がんでの遺伝子異常に効果

EGFR-TKI(EGFR チロシンキナーゼ阻害薬)とは何か、という点から見ていこう。EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)とは、がん細胞膜上にある上皮成長因子受容体のことで、この活性化ががんの増殖に関するシグナル伝達に大きくかかわる。

EGFR は、細胞外にある上皮成長因子(EGF)などの成長因子による刺激を細胞内の核まで伝えていく。その過程でアデノシン三リン酸(ATP、エネルギーを蓄えた物質)が作用し、核内で転写活性が高まることで、タンパクが合成されたり、細胞の機能や構造を変化させたりする。

このEGFRを構成する遺伝子の一部であるチロシンキナーゼに変異があると、がん細胞が次々に増殖してしまう。その遺伝子異常が解明され、肺がんの治療に変革をもたらした。ここを抑えれば、高い効果が得られるというわけだ。その薬剤が分子標的薬のEGFR-TKIである。EGFR-TKIの効果は非喫煙者、腺がん、東洋人に対して高いとされている。

研究では日本がリード 効果は数字で明らかに

図1 イレッサの作用機序模式図

日本では、EGFR-TKIとしてイレッサが世界に先駆けて2002 年に承認され、07年にはタルセバも承認された。また、07年にはEGFR遺伝子変異検査も保険適用となった。

イレッサ、タルセバはEGFRがATPと結びつくことを阻害し、活性化したEGFRのシグナルを抑制することで抗腫瘍効果を発揮する(図1)。臨床試験にも携わった笠原さんはその効果を次のように説明した。「この分野の研究では日本が世界をリードしています。イレッサ、タルセバともに従来の薬剤を使用した化学療法と比較して有意な差を示しました」

イレッサ=一般名ゲフィチニブ タルセバ=一般名エルロチニブ

遺伝子変異がある患者さんに有効

図2 EGFR遺伝子変異の有無と薬剤の治療効果(臨床試験IPASS)

MokTS, et al.NEJM. 2009;361:947-57.

イレッサとタルセバの対象は、EGFRの遺伝子に変異がある人となる。

「エクソン19、21という部位に変異がある患者さんが肺腺がんの30~40%弱います。これらEGFR遺伝子変異陽性の肺がんの患者さんが対象となります」

臨床試験の結果をグラフで示す(図2)。
試験はイレッサと化学療法のどちらが効果的であるということを、日本を含むアジア地域で調べたものだ。

青線は遺伝子変異があってイレッサを服用した患者さん、薄い青線は変異がなくてイレッサを服用した患者さん、グレー線は変異があって化学療法を受けた患者さんで、薄いグレー線は変異がなくて化学療法を受けた患者さんの無増悪生存率を示している。

再発までの期間をみると、化学療法では遺伝子変異がある、なしで差はなかったが、イレッサは遺伝子変異がある患者さんに大きな効果を上げていることが分かった。「劇的な違いが出ました。遺伝子変異のある患者さんが9.7カ月だったのに対して、変異のない患者さんは1.5カ月前後でした。非常に大きな差です。イレッサが遺伝子変異のある人には大きな効果があることが良くわかりました」

後述するような副作用のリスクはあるが、患者さんには大きな福音として受け止められた。

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