ALK遺伝子変異症例における治療 ALK遺伝子転座に対する分子標的薬
日本発の新ALK阻害薬に期待 より高い効果で副作用も少なく
非小細胞肺がんで進む個別化医療。遺伝子変異に応じた薬剤選択が重要となるが、腺がんの一部に見られるALK遺伝子転座に対する分子標的薬が注目されている。2012年のザーコリに続き、日本で開発された新薬も承認を待っている段階だ。
治療に重要な 遺伝子変異の見極め
肺がんは、組織型の違いで小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類される。非小細胞肺がんが全体の85%ほどで、さらに扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんに分けられる。その中で腺がんは肺がん全体の約60%を占めるのだが、腺がんの治療で重要となるのが、遺伝子異常の見極めだ。
「特定の遺伝子の変異ががんに関係するという概念は10年ほど前まではありませんでしたが、今や、遺伝子検査が当たり前になっています。その結果に基づいて、安全性と有効性を高める個別化医療が進展しています」
進行肺がんに対する分子標的薬を用いた個別化治療の開発に詳しい、東北大学病院臨床研究推進センター特任准教授の井上彰さんは、近年の肺がん治療の流れをこう話した。
井上さんは、この分野の研究で、平成24年度の日本学術振興会賞を受賞している。
EGFRとALKの異常 それぞれに応じた治療
「腺がんの20~30%でがん細胞の膜上にあるEGFR(上皮成長因子受容体)をつかさどる遺伝子に変異があり、5%ほどにALK(未分化リンパ腫キナーゼ)の変異が見られます。それぞれに応じた分子標的薬を投与することで、治療成績は目覚ましく上がりました。
10年前は進行肺がんの平均余命は1年と言われていましたが、今は遺伝子変異のある肺がん患者さんの平均余命は3年程度にまで延び、5年以上ご存命の方も多くいらっしゃいます。格段に延びました。QOL(生活の質)も上がっています」(図1)
肺がんに対する分子標的薬は、2002年に*イレッサが承認され、04年に*タルセバが承認された。当初は遺伝子変異との関係性は理解されていなかったが、04年に報告されたEGFRの遺伝子変異を有する肺がんに対しては、この2つの分子標的薬がとくに有効に作用することが分かった。
07年にはALKの遺伝子変異が発見され、12年にその変異を標的とした*ザーコリが承認された。井上さんは、EGFR、ALK両方の遺伝子変異とその治療方法を研究しているが、今回は、ALKを中心に解説してもらった。
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ *ザーコリ=一般名クリゾチニブ
たばこを吸わない若い人に現れる肺がん
ALKで染色体の転座が起こると、肺がんが発現してしまう。この異常な遺伝子はALK融合遺伝子と呼ばれ、がん細胞がどんどん増殖してしまう元となる。「ALK遺伝子変異は、たばこを吸わない若い人の肺がんに多く見られます。20代、30代の若さでも何らかの理由で生じる、がん細胞を活性化してしまう遺伝子異常の1つです」(図2)
ALK融合遺伝子が発見されたころ、別の標的を目的に開発が進んでいたザーコリがALKの変異にも有効ということが分かり、短期間で承認を得ることになった。
ザーコリはALK融合遺伝子を阻害することでがんの増殖を止め、腫瘍を小さくさせる効果を持つ。井上さんは、ザーコリ登場当時を振り返り、「EGFR遺伝子変異に対する分子標的薬の登場を経験していましたが、ALK阻害薬もとてもよく効くという印象を持ちました。奏効率は6~7割と高く、無増悪生存期間(PFS)も倍になりました」と話す。
2012年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO2012)で発表された臨床試験の結果では、PFSの中央値は化学療法の3.0カ月に対してザーコリは7.7カ月だった。
井上さんはさらに、「ザーコリは2次治療のエビデンスが先行したのですが、最新の研究では初回治療でも効果が高いことが明らかになっています」と、有効性を語った(図3)。
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