新薬の開発状況 標的を細分化し効果を高める
新しい分子標的薬はより標的を絞り、より副作用を抑える
イレッサやタルセバの登場で治療が大きく進んだ非小細胞肺がんだが、まだまだ新薬開発の動きは止まらない。第2世代、第3世代と呼ばれる分子標的薬の臨床試験が続々と行われている。新薬開発の現状とその特徴をレポートする。
受容体からの刺激伝達を防ぐ
肺のがん細胞を模式図にすると、図1のようになる。表面の細胞膜から、様々な受容体が突き出ている。そして、受容体が受けた刺激が細胞内の経路をたどって核に伝えられる。核に刺激が届くと、刺激が情報として伝わって、DNAの合成に反応が起きる。この一連の過程で異常があると、がん細胞が増殖してしまうのだ。
「受容体からの刺激を細胞核に伝えないようにしよう、というのが分子標的薬の考え方の1つです」
金沢大学附属病院呼吸器内科臨床教授の笠原寿郎さんは解説する。「非小細胞肺がんにおいては、EGFR(上皮成長因子受容体)という受容体に作用する分子標的薬の*イレッサ、*タルセバが広く使われています。これらは第1世代と呼ばれ、2002年と04年に承認されました。今は、第2世代、第3世代の研究が進められています」
*イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ
第1世代よりも効く新世代薬が開発中
イレッサ、タルセバは、EGFRの遺伝子変異がある場合により効果を発揮する。東洋人にはEGFR遺伝子変異が多ことから、日本ではこの分野の研究が重要と位置づけられている。
第2世代としては、*ジオトリフが2014年1月に日本で承認された。ジオトリフもイレッサなどと同じEGFRに作用するEGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)という種類の分子標的薬。さらに、dacomitinib(ダコミチニブ)、neratinib(ネラチニブ)(ともに一般名)が開発中だ(図2)。
笠原さんは、「第2世代の薬剤は、これまでの臨床試験の結果、第1世代よりも無増悪生存期間(PFS)が長いと推測されています」と語る。また、「日本でも一生懸命取り組んでいますが、世界も必死です。米国ではこの分野の薬剤の扱いが米国食品医薬品局(FDA)のブレークスルー(迅速承認が可能な画期的新薬)に指定されているものもあります」と、開発競争が過熱していることを指摘した。
「第2世代は、細かく分類されるEGFRを全部抑えます。そして、チロシンキナーゼに結合したら離れにくい(不可逆性)性質を持ちます」
*ジオトリフ=一般名アファチニブ
標的を絞った第3世代薬
では、さらに新しい第3世代は何が違うのか。「従来のEGFR-TKIは、遺伝子変異のあるEGFRにも、変異のないものにも作用していましたが、第3世代は遺伝子変異があるEGFRにだけ作用します。標的が細分化されたことで、より効果的になるということです」と、笠原さんは説明する。
「いくつかの第3世代のEGFR-TKIの臨床試験では、従来20~30%ぐらいにみられた皮疹、下痢などの副作用が少なく、今までよりも軽いのではないかという結果になりました。また別の試験で、用量を上げていっても、下痢が出ていません。このように、副作用は出にくく、腫瘍の縮小は見られているという点で、今後が有望視されます」
薬剤耐性を持った遺伝子にも効果
新世代の薬剤には、イレッサなどを使い続けるうちに耐性を持ってしまった遺伝子への効果も期待されている。
「分子標的薬が効かなくなってきた患者さんの病気の組織をとって遺伝子解析すると、6割にT790Mという2次的な遺伝子変異が見つかります。これが効かなくなる原因です。第3世代のEGFR-TKIでは、T790Mを最初から抑えた薬を創ろうというデザインで開発が行われています」
臨床試験中の薬剤が多いが、それについて笠原さんは、「病気は良くなって副作用は少ない。がんには作用するが正常組織には作用しない。FDAが、臨床試験の結果を全生存期間(OS)で見るのか、PFSで見るのかという点も承認時期に大きく影響します」と話す。
耐性に関しては、EGFRにMet(受動体型チロシンキナーゼ)という遺伝子の発現が増えて、分子標的薬が効かなくなるという現象もある。この部分に関しても新薬の開発が模索されている。
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