ASCO2014 レポート
胃・食道がんにおける 分子標的薬の臨床試験結果
今年で開催50回の節目を迎えた米国臨床腫瘍学会2014年年次学術集会(ASCO2014)が、5月30日~6月3日の日程で、シカゴにおいて開催された。今号の特集にちなんで、消化器領域の中から胃・食道がんに関する臨床試験の話題を拾った。
胃がん 切除不能進行再発胃がんの3次治療で 経口分子標的薬による治療効果認める
切除不能進行再発胃がんでは2次治療に抵抗性となると、その後の化学療法の治療成績は不良であり、予後延長は証明されていない。そのため、より有効な新しい治療オプションの開発が課題となっている。
肺がんや乳がんなどではVEGF(血管内皮増殖因子)阻害薬の効果が認められているが、胃がんではその抗腫瘍効果が全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)の改善をもたらすというエビデンス(科学的根拠)はまだ十分に得られていない。
そうした中で、3次治療以降の中国人胃がん患者を対象としたプラセボ対照比較第Ⅱ相試験において、VEGFR-2選択性の経口チロシンキナーゼ阻害薬*apatinib(アパチニブ)が、PFSおよびOSを延長させることが示されているが、今集会では同薬に関する第Ⅲ相試験結果が報告された。
本第Ⅲ相試験では、2次治療で効果の得られなかった中国人進行胃がん患者270人を対象として、apatinib 1日1回850mg投与群とプラセボ投与群に2:1の割合で無差別に割り付けた。
2群間での年齢、罹患歴、性差、ECOG(全身状態PS)スコア、転移部位数、病理学的分類、臨床的ステージ(病期)、治療歴などの患者特性は同様であった。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS。
試験結果は、OS中央値でapatinib群195日、プラセボ群140日と、apatinib群で有意な延長が認められた(p<0.016)。PFS中央値でも同78日、53日と、apatinib群で有意な延長が認められた(p<0.0001)。全奏効率(ORR)はそれぞれ2.84%、0.00%であった。
安全性については、apatinib群で認められた高血圧、手足症候群、タンパク尿などの副作用の大部分は、投与中断、あるいは減量によって管理可能であった。
これらの結果から、報告者の中国・南京八一腫瘍病院PLAがんセンターの秦叔逵(Shukui Qin)氏は「apatinibは進行胃がん患者において、生存に対するベネフィット(利益)を示した初めての低分子VEGFR標的薬であり、2次治療に失敗した進行胃がん患者に対する新たな治療選択となる」としている。
*apatinib(アパチニブ)=VEGFR-2選択性経口チロシンキナーゼ阻害薬 ※未承認薬
食道がん 化学放射線療法に対するセツキシマブの上乗せ効果認めず――切除不能食道がん
食道がんに関しては、切除不能食道がん患者の治療において、*シスプラチン+*パクリタキセルと放射線を用いた化学放射線療法への分子標的薬*セツキシマブの上乗せ効果は認められなかったとする、第Ⅲ相無作為化試験RTOG0436の報告が行われた。
米メモリアル・スローン-ケタリングがんセンター(ニューヨーク)のDavid H.Ilson氏らは、食道腺がんおよび扁平上皮がん患者328例をセツキシマブ上乗せ群(第1群)、非上乗せ群(第2群)に無作為に割り付け、比較検討した。主要評価項目は全生存期間(OS)で、追跡期間中央値は15.4カ月。
試験結果は、第1群での12および24カ月OSは64%、44%、第2群ではそれぞれ65%、42%で両群間に有意差は認められなかった(p=0.70)(図1)。
臨床的完全奏効率(cCR)は第1群56%、第2群59%(p=0.72)であり、また治療群ごとの組織学的な違いによる差は認められなかった。
このように、化学放射線療法へのセツキシマブの上乗せはOSを改善させなかったことから、Ilson氏は「本試験結果は、切除不能食道がん患者の治療において、現状のEGFR(上皮成長因子受容体)標的薬のベネフィットは認められないとする、従来の研究結果をさらに追認するものである」としている。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ *パクリタキセル=商品名タキソール *セツキシマブ=商品名アービタックス
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