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分子標的薬の光と影:患者さんにとって大きな問題は高額な医療費と特有の副作用 長所と短所をきちんと把握しよう!分子標的薬のよりよい使い方

監修●久保田 馨 日本医科大学付属病院教授/がん診療センター長
取材・文●伊波達也
発行:2013年1月
更新:2020年1月

  

「分子標的薬の登場で個別化医療が進みました」と話す久保田さん

現在、さまざまながん種で使われることの多くなった分子標的薬ですが、治療効果が期待できる反面、特有の副作用が起きることがわかっています。今後、どのように分子標的薬を使っていけばいいのでしょうか。

がん細胞のもつ特定の分子を標的にする

■図1 抗がん薬と分子標的薬の違い
■図1 抗がん薬と分子標的薬の違い抗がん薬は標的を定めず、分裂増殖が盛んな細胞全体を攻撃するが、分子標的薬はがん細胞に標的を定めピンポイントで攻撃する

そのようななか20世紀後半から、新しいタイプの薬物である分子標的薬が登場してきました。分子標的薬とはがん細胞が持つ特定の分子を標的として叩く薬です。

そのため正常細胞には作用することが少なく、抗がん薬特有の強い副作用に見舞われずに、がん治療が行える薬剤として期待されてきました(図1)。

現在、分子標的薬の効果が認められている主ながんには、肺がん、乳がん、大腸がん、腎がん、血液がんなどがあり、適応する薬やがん種は増え続けています(図2)。

その一方で、数多くの分子標的薬が登場したことで、効果と課題も徐々にわかってきました。分子標的薬の現状に詳しい日本医科大学付属病院がん診療センター長で、肺がんの薬物療法の専門家である久保田馨さんはこう説明します。

「結果的に分子標的薬は、効く人にはよく効き、効かない人にはまったく効かない薬であることがわかってきました。また、副作用も無いわけではなく、それぞれ特有の副作用があり、注意が必要です」

■図2 がん領域で使われる主な分子標的薬
薬剤(一般名) 分類 主な標的分子 主ながん種
イレッサ(ゲフィチニブ) 小分子  EGFR  非小細胞肺がん
タルセバ(エルロチニブ) 小分子  EGFR  非小細胞肺がん
アービタックス(セツキシマブ) 抗体  EGFR  大腸がん
ハーセブチン(トラスツズマブ) 抗体  HER2、EGFR  乳がん
タイケルブ(ラパチニブ) 小分子  HER2  乳がん
アバスチン(ベバシズマブ) 抗体  VEGF  大腸がん
スーテント(スニチニブ) 小分子  PDGFR、KIT、 VEGFR  腎細胞がん、消化管間質腫瘍
ネクサバール(ソラフェニブ) 小分子  Raf、PDGFR、KIT、VEGFR  腎細胞がん、肝細胞がん
リツキサン(リツキシマブ) 抗体  CD2O  悪性リンパ腫
セヴァリン(イブリツモマブ) 抗体  CD2O  悪性リンパ腫
マイロターグ(ゲムツズマブオゾガマイシン) 抗体  CD33  急性骨髄性白血病
グリベック(イマチニブ) 小分子  Bcr-AbI、KIT、PDGFR  慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
タシグナ(ニロチニブ) 小分子  Bcr-AbI、KIT、PDGFR  慢性骨髄性白血病
スプリセル(ダサチニブ) 小分子  Bcr-AbI、KIT、PDGFR、SRCファミリー  慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
ベルケイド(ボルテゾミブ) 小分子  プロテアソーム  多発性骨髄腫

イレッサが教訓となり副作用の問題がわかる

■図3 遺伝子変異と分子標的薬の登場で変わった肺がんの生存率
■図3 遺伝子変異と分子標的薬の登場で変わった肺がんの生存率出典:T.Takano et al, JOURNAL OF CLINICAL ONCOROGY, 2008 ゲフィチニブの登場前後で、EGFRに変異がある患者さんの生存率の変化を表している。ゲフィチニブの登場後、生存率が高くなっている

肺がんの領域で分子標的薬が登場した当時を久保田さんはこう振り返ります。

「肺がんの治療を大きく変えた分子標的薬のイレッサが保険承認されたのは、2002年7月のことで、世界で1番早い承認でした。

抗がん薬治療を既に受けた患者さんに対してイレッサの第2相臨床試験を行ったところ、日本人では、28%の奏効率があったのです。タバコを吸わない女性の腺がんの人では、約60%の奏効率があることがわかり、肺がんの個別化治療へ第1歩が踏み出された感じでした」

重篤な副作用もなく、経口投与で使用できるので、非常に高い注目を集めましたが、大きな落とし穴があったそうです。

「実際、臨床の現場で使用されると、試験では見落とされていた間質性肺炎という副作用があることがわかりました。この副作用で300名くらい死亡者が出てしまい、当時、新聞やテレビで大々的に報じられたのは記憶に新しいと思います」

多くの犠牲者を出したイレッサですが、結果的には現在でも肺がんの薬物療法における有効な治療薬として認められています。

「イレッサは2004年にE GFR(上皮成長因子受容体)の遺伝子変異が発現している人に対して効果があることがわかりました。腺がんの4割は、変異がある患者さんで、こういった患者さんに対して症状の改善や無増悪生存期間の延長が示されたのです。

今日では“ドライバー変異”といって、細胞をがん化の方向へ促す遺伝子の変異がいくつか発見され、それを標的とした分子標的薬が登場しています」(図3)

イレッサ=一般名ゲフィチニブ 奏効率=がんの大きさに50%以上の縮小が見られた割合 間質性肺炎=肺炎が、肺胞や肺胞壁(間質)に起こる。非常に致命的であると同時に治療も難しい

抗体を使った薬と小分子化合物の薬

遺伝子変異を標的として作用する分子標的薬ですが、作用の仕方により、大きく2つに分かれるそうです。

「まず、抗体を使った薬と小分子化合物の薬があります。これによって薬の名前が分類されています」

例えば、乳がん治療の主要な薬であるハーセプチン(一般名トラスツズマブ)、大腸がんの主要な薬であるアバスチン(一般名ベバシズマブ)のように「mab」が語尾につくのはモノクローナル抗体という意味です。

「一方、肺がんの主要な薬であるイレッサ(一般名ゲフィチニブ)のように『ib』が語尾につく薬は、小分子薬と呼ばれます」

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